航海日誌
新西暦18□年、×月○日。
記録者、ブライト・ノア
近頃、若いパイロットの間で奇妙な遊びがはやっている。それは人を驚かせること。
先ほど私も驚かされたばかりだ。
しかし、この行為について咎めようとは思わない。実際皆よくやっているし、長い宇宙生活の中で生き抜きも必要となる。特に若い、いや、幼い者達にはこれくらいのことは大目に見てやるべきだろう。
ただ、度が過ぎなければいいのだが・・・
カミーユが一人で通路を歩いている。
ちょうど別の通路と交差するところでそれは起こった。
「わっっ!!!」
突然背後から声をかけられたのだ。
一気に後ろに後ずさる。
手に持っていた資料を床にぶちまけていた。
「な、何だ、プルか」
「驚きすぎだよカミーユ」
顔を少々赤くしながら床にばら撒いてしまった資料を集めている。
「おーい、プル?」
辺りを見回しながらゆっくりとジュドーが近づいてくる。
「あー!!ジュドー!!」
ジュドーの姿を見つけたプルは急いでその元へ駆け寄った。その勢いでジュドーに抱きつく。
「わっ!」
突然抱き付かれて一応驚きはするがたいした事ではなさそうだ。もちろんこの事がジュドーにとってすでに日常茶飯事になっているというのが主な理由なのだが。
「あれ?カミーユさん、どうしたんですか?」
床に落ちた書類を拾い集めているカミーユを見て不思議に思ったのだろう。
「さっき、プルに驚かされてね」
本当に簡潔に述べる。
それを聞いて、プルに注意をする。
「だめだろ、プル?人に迷惑かけちゃあ」
「だって、最近みんなやってるよ?」
言葉に詰まる。
確かにジュドーにも思い当たることはあった。コン・バトラーチームの豹馬に最近驚かされたからだ。かくいう自分もゲッターチームの竜馬を驚かしたばかりだったりする。
「そういえば、ジュドー。誰か驚かなかった人っているのか?」
カミーユも少しは興味があるらしい。
「甲児さんあたりに聞けばすぐにわかると思うけど・・・?」
実はこの流行、元をたどれば甲児まで行き着く。
知ってか、知らずか。ジュドーは甲児の名前を出していた。
「驚かなかった人?・・・ああ、いるぜ」
カミーユはぎょっとする。
実は驚いていない人などいないと思っていたからだ。
「誰なんだ?」
甲児の顔がにやける。何か悪巧みでも思いついたのか?
「誰だと思う?」
しばらく考え込む。
「・・・・・・鉄也さん?」
甲児は首を横に振る。
「案外鉄也さんって驚くんだぜ」
やった後だったのか・・・。
カミーユはそう思う。
「じゃあ、ブライトさん?」
「違う、違う」
しばらく驚かなさそうな人の名前を挙げていくが、すべて違った。例を挙げれば、隼人やマックス、ヒイロ、クワトロといった面々の名前だ。
そして、甲児に聞かされた名前はカミーユにとって意外な人の名前だった。
「アムロさんだよ」
「えっ!」
なんだかんだでよく一緒にいるアムロだとは思いもよらなかったからだ。
冷静に見えて感情が豊かなアムロに限って驚いていないはずがないと思っていたカミーユは始めから驚いていない人物から除外していた。
「本当に?」
「いつも笑ってかわされるんだよ。まるでいつ現れるのか知っているようなそんな感じで」
甲児も頭を抱えている。
それほどにまで驚かないのだろうか、アムロは?
「なあ、カミーユ。N.Tって皆アムロさんみたいな感じなのか?」
「いいや?そんなことはないさ。俺だって普通に驚くし。アムロさんだけじゃないのか?」
2人は一緒に悩みこむ。
「甲児、ちょっと耳を貸してくれ」
カミーユが何か思いついたらしい。
「何?・・・うん、うん。それならまずブライトさんに相談したほうが早くないか?」
「・・・ああ、そうかもしれないな」
カミーユと甲児、2人は今ブリッチにいる。
そして、目の前にはブライトがいた。
「で、何だ?話は」
2人は今まで話していたことを一通り説明した。そして最後に、
「アムロさんが驚きそうなことを知りませんか?」
そうして締めくくった。
多分、アムロのことを何よりも知っているのはこの人だろう。何より、一番付き合いが長いのがブライト・ノアその人である。
「ふむ・・・」
反対されるかと思ったがそうではないようだ。
「ああ、ひとつだけ必ず驚かせることができることがあるな」
むしろ乗り気であるような感じも見える。
「ただし、協力者が必要だがな」
「それは誰なんですか?」
間髪いれずカミーユが続きを聞こうとする。
「聞きたいか?」
「もちろん」
「マッケンジー少尉とクワトロ大尉、それにアストナージと私だ。ああ、ケーラもいれば完璧だな」
どうしてそんな面々なのかいまいちピンと来ない。
「その様子だといまいち納得いかない様だな」
「ええ。クワトロ大尉はいいんですが、何でクリスさんなんですか?」
「まあ、それはこちらに来てから説明しよう。あと、誰か特殊メイクができる者は知らないか?」
カミーユは甲児の方を見る。カミーユには思いつかないらしい。
「お、俺?・・・そうだな、トロワはできると思うけど」
確かに、トロワはサーカス団にいたこともあり、そういうことは多分できるだろう。
しかし、なぜ特殊メイク?
2人の中に謎が広がるのであった。
「そうだな、それに隠密行動ができそうなものを何人かいるといい。カメラにとれば面白いだろうからな」
隠密行動といえば真っ先に思い出すのはこの2人である。
デュオとボルテスXのめぐみだ。
デュオは乗っている機体からして隠密行動向きであり、めぐみは本気で忍者である。この2人ほど隠密行動が似合う人物もいないだろう。
「探してきてくれないか?」
「わかりました!!」
何か面白そうな予感がしてきた2人だった。
そうしてブリッチに集まったのは総勢9名である。
「艦長、何のようだ?」
「2人から話を聞いていないか?」
「ああ、アムロくんを驚かすという話だな?」
クワトロも納得したように見える。
「あの、何で私なんでしょうか?」
クリスの質問はもっともだった。カミーユと甲児もわからなかったのだから当人がわかっているはずがない。
「それは多分・・・」
アストナージが答えようとする。
「君がベルトーチカに似ているからだよ」
『ベルトーチカ?』
3人、いや、4人の声がそろう。
「そういわれてみればそうかもねぇ」
ケーラもアストナージの意見に同意している。しかしベルトーチカとは誰なのか、ブライト、ケーラ、アストナージ以外にわかっているものはいなかった。
「ベルトーチカというのは・・・」
ブライトが説明する。
なんでもベルトーチカとはアムロの彼女らしい。正確には別設定の、ということになるそうなのだが。その外見が実にクリスにそっくりなのだという。そしてその姿を見ればアムロも必ず驚くだろう、とのことだった。
しかし、それには少し問題がある。アムロがクリスの姿を見慣れているということだ。そのために、クリスをクリスではないと認識させるために協力が必要だ、とブライトは言い切った。
「それで、どうするんです?」
「アムロを引き込むんだ。あの世界観にな」
なるほど。
その場にいた全員が納得してしまった。
「どうすればいいんだ?」
サングラスの下で笑っているクワトロの様子が見て取れた。
「チャンスはアムロが偵察から帰ってきた直後。それしかないだろう」
「その地点から俺らが追いかければいいんだな?」
デュオがめぐみに目配せする。
それに気づいためぐみもうなづいた。
「そういうことになるな」
「・・・俺は何のために呼ばれたんだ?」
トロワの素朴な疑問だった。何の関係もないように思えた。隠密行動はできることはできるが、デュオほどは得意ではないからだ。
「トロワ、特殊メイクはできるか?」
「できることはできるが?」
やはりそれでも謎は解けないようだ。
「髭をな、作ってもらいたい」
「艦長がつけるのか?」
「そうだ」
意外な答えだった。
「その、何だ、別設定の中では私は髭面なんだよ」
その後詳しくトロワに説明する。
「わかった。作ろう」
その内容で理解したようで快く快諾した。もちろんいつも通りの無愛想なままなのだが。
「ケーラ、君がアムロと一緒に偵察に出るのはいつだ?」
「えーと・・・明後日かな?」
時間がかかりそうな感じがしたがこれなら大丈夫だろう。
「トロワ、それまでに頼む」
「了解」
そういって、トロワはブリッチを出た。
「さて、それぞれの役割について説明しようか」
そういってブライトは姿勢を正した。
「ブライト、出るぞ」
「わかった。気をつけてな」
いよいよ作戦実行日になった。
これから1時間、アムロはラー・カイラムから離れる。その間が仕掛ける唯一のタイミングだ。
ブライトは館内放送をかける。もちろんアムロには聞こえていない。
「例の作戦を決行する。それぞれ配置についてくれ。作戦参加者以外は興味があるなら食堂に集合すること。面白いものが見えるぞ」
続けてケーラのみに通信をつなげる。
「こちらは作戦を開始する。そちらの誘導頼むぞ」
「了解」
軽い返事が返ってくる。
艦内がバタバタと慌しくなる。食堂に移動するもの、準備に奔走するもの、そして特に何もしないもの。
「艦長、出来たぞ」
トロワがブリッチをたずねてくる。その手には黒い塊を持っていた。
「そうか」
「だが、これで完成というわけではない」
黒い塊を広げる。それはよく見ればわかるがひげだった。その他にも道具を持ってきているようだ。
「なぜだ?」
「つけるまでは完成とは言えないからな」
特殊メイクというくらいだ、やはり装着させるまでは完成だとは言えないのだろう。
「なので、少々失礼させてもらう」
突然用意していたチューブの中身を出し、ブライトのあごの辺りに塗る。
「何なんだ、これは!!」
「特殊な接着剤だ。これがないと肌に接着できないんでな」
なんとも言えない感覚がブライトを襲う。この格闘がこれより30分ほど続いたことをここに記しておこう。
「めぐみさん、そっちは?」
「何とかなりそう・・・トーレスさんが艦内設備を使えるようにしてくれているから映像が途切れることはないと思うわ」
デュオとめぐみは2人で放送設備のチェックをしていた。
「大丈夫かい?2人とも」
声をかけてきたのはアストナージだった。
実はアストナージのみ、準備といったことがなかった。設定がほぼそのままだったためだと思われる。
「ああ、アストナージさん」
「困ったことがあるならいってくれよ。手伝えることはするからさ」
メカ全般の整備をしているアストナージだ。この程度の放送設備なら修理することもできるのだろう。
「でも、大丈夫なんすか?こんなところにいて」
デュオのそんな質問にアストナージは苦笑いを浮かべる。
「アムロが帰ってくるまで何もやることがないからね。暇なんだよ。」
その通りだった。
「ちょっと見せてくれるかい?」
「あ、はい」
めぐみから機材を渡してもらう。その中をのぞく。
「大丈夫、かな?」
脇にあるコンソールをたたき、システムをチェックする。
「ああ、大丈夫みたいだね。これならちゃんと動くよ」
整備のプロ、アストナージのお墨付きとなったその放送設備はどのような姿のアムロを映し出すのだろうか?
ここはクワトロの自室である。
「フム、やはりこの姿のほうがしっくり来るな」
ある衣装に着替えているのだが、どんな衣装なのかは秘密である。
しかし、この姿のクワトロを見れば間違いなく、アムロでなくても驚くに違いない。特にU.Cガンダム系の人物なら必ず驚くだろう。
実は、シナリオ「ダカールの日」を終えているのでクワトロの正体はすでに全員にばれている。だからこそ、わざわざこの姿をするということに意味があるのだ。
「アムロを驚かす、か・・・。面白いじゃないか。くっくっくっ・・・」
クワトロの笑いが個室に響く。
今、クワトロの部屋の前を通ればかなり不気味であろう。笑い声は外まで漏れていた。
一方クリスの方はというと・・・
「何で、私がこんな・・・」
自室ですっかりと落ち込んでいた。
ベルトーチカに似ているだけで、ある意味アムロにとどめを刺すような役回りをするわけである。大声を上げて喜べるような状況ではないことは確かだ。
「・・・これに着替えるんだよね」
手に持っているのは、今きているのとは違うデザインの連邦軍の制服である。情報士官のものらしい。ちなみに持ってきたのはケーラである。
「でも、アムロ大尉が驚いた顔は見たいような・・・」
アムロの元でテストパイロットをしていたクリスでさえもアムロの驚いた顔は珍しいもののようだ。だからこそ、クリスはアムロのその姿を見てはいけないような気もする。
ジレンマがクリスを襲う。
考えること約10分。ようやく答えを出した。
「・・・着替えようか」
結局、アムロの驚いた顔を見てみたいという好奇心が勝ったみたいだった。
クリスは手早く着替えだす。
アムロの帰艦まで、後40分と迫っていた。
アストナージは格納庫内にある通信コンソールの前に立っている。
もうすぐ来るはずのある通信を待っていた。
「アストナージ、準備はいい?」
ケーラからの通信が飛び込んでくる。アストナージが待っていたのは彼女からの通信だった。
時計を確認すると、アムロの帰艦まで後10分になっていた。
「俺のほうは大丈夫さ。心配なのはほかの面々だね」
一番やることのなかったのは、このアストナージだった。暇だからといって放送設備の整備の手伝いもしたがあっという間に終わってしまい、結局暇な状態が続いてしまった。
準備は急速に整いつつある。
それぞれ配置についたものも多い。
「こっちは順調よ。アムロ大尉は何も気づいてないみたい」
小声で話しかけている。
「それならいいんだ。艦長に報告しておくよ。それで、帰艦のほうなんだけど・・・」
つられてアストナージの声も小さくなる。
「ああ、2人とも!νガンダムは5番格納庫に入れるから!!」
配置に困ってうろうろしていたデュオとめぐみの2人に呼びかける。
あわててそちらに向かう2人である。
「ケーラ、君は3番格納庫のほうに頼む。」
「了解」
返事とともにケーラからの通信は切れた。
続けて、ブリッチのほうに通信をつなぐ。
「何だ?アストナージ」
ひげっ面のブライトが映し出される。
「ケーラから連絡が入ったので、その報告です。アムロ大尉は気付いてないようなので続行できます」
「そうか。わかった」
ひげのせいでほとんど表情がわからないが、その声は真剣そうだった。
「艦長、似合ってますよ。そのままでいたらどうですか?」
「ば、ばか者!余計なことを言うんじゃない!!」
唐突に通信が切れる。
その声にはテレが見えていた。
アストナージはひそかに笑う。あれほど照れているブライト艦長を見るのも珍しいからだ。
「アストナージ」
その声を聞いて、一瞬アストナージはあせった。その声の主がアムロだったからである。
「もうすぐ着艦する。誘導を頼む」
アムロの声からは何かに感づいているようには思えない。
「了解」
内心ほっとするアストナージだった。
「さて、誘導だな・・・」
コンソールをたたく。νガンダムに着艦指示を出すためだ。リ・ガズィにも同様の指示を出す。しかし、着艦する格納庫はもちろん別々のところだ。
アムロもこの指示に疑問を抱くことはない。同一の格納庫にガンダムだけを集めるというのは不可能だからだ。
「ここからが勝負だ」
アムロが着艦するまでに後5分と迫っていた。
作戦実行のその時がまさに今、目の前へと迫っていた。
アストナージの目の前には収容したばかりのνガンダムがあった。もちろんコクピットにアムロは乗ったままの状態である。
アストナージはただの一声をかけるだけでよかった。
それだけでも緊張する。
ここで疑いを持たせてしまえば何もかもが台無しになるからだ。
ようやく、アムロがコクピットから顔を出す。
「アムロ大尉!!」
それを見つけたアストナージがすかさずアムロに声をかける。
「ああ、アストナージか・・・。何の用だい?」
「ブライト艦長がお呼びです!!至急ブリッチへ来るようにと!!!」
一瞬、アムロが顔をしかめる。
「ブライトが?わかった。すぐに行く」
どうやらその理由は、何故呼び出されたのかが分からなかったからのようだ。
ブリッチへと続くハッチに近づいていくアムロの後姿を見てアストナージはほっとする。自分の役割がここまでなのだからだろう。
その後を慎重に追っていくデュオの姿も確認できた。
後は待つだけである。
アストナージは足早に第5格納庫を去った。
最短距離でブリッチに行こうとする者が使う道筋は1つしかなかった。
それ以外の道筋で行こうとすると、最短距離で行く場合の時間と比べて約2倍ほどの時間がかかる。これは白兵戦を想定してこのような造りになっているのである。
しかし、最短距離の道筋が一本しかないのは今回の作戦にとっては有利なものだった。つまり、そこを歩けば格納庫よりブリッチにあがろうとするものに必ず会えるからである。
ここで、ブライトはひとつの罠を仕掛けていた。
「何の用なんだろう?」
いまいち何故呼び出されたのかの理由がはっきりしないままアムロはその通路を歩いていた。
その前をある男が横切った。
「シャ・・・」
その男が艦内にいることは知っていた。しかし、あくまで今は偽名を使っていたし、そこまで露骨な姿もしてはいなかった。
だが、今目の前にある姿は、アムロの意識を刺激した。
「シャア!!」
その声に気づいた男は立ち止まる。
「何を驚いているんだね?」
「驚いてなどいない」
すさまじく気まずい雰囲気が辺りを包む。
下手に気の弱い人物が近づけば間違いなくその場でひるんでしまうだろう。
「今のあなたは、あくまでもクワトロ・バジーナ。そうじゃなかったのか?」
薄く、クワトロは笑う。
「何がおかしい!」
クワトロを、いや、シャアを相手にすると普段は冷静なのに何故か感情的になってしまうアムロである。
「誰が、いつ、どのような名を語ろうとするのも、こちらの勝手ではないのか?」
感情的になっているアムロを尻目にクワトロは冷静そのものだった。
「今、この姿をしている私はシャア・アズナブル。クワトロ・バジーナではないな」
そういい残し、クワトロは去っていった。
「待て!」
角に消えようとするクワトロの姿を追う。しかし、すぐに見失ってしまった。
「何のために、あんな姿を・・・?」
いまいち腑に落ちないアムロだった。
クワトロが何の考えもなくあのような問題が起こりそうな事態を引き起こすとは思えないからだ。
すべては彼を驚かすことだけに動いていることも知らずに。
気を取り直して、アムロはブリッチに向かう。
「ブライト、何の用だ?」
なんだかんだでようやくアムロはブリッチにたどり着く。
「ああ、アムロか・・・」
ブライトはアムロに背を向けたまま顔を見せようとしない。
「いや、要件を聞く前に報告しておかなければならないことがあるな。」
真剣そうな顔つきでブライトに訴えかける。
「何だ、いってみろ」
先ほどあったシャア、いや、クワトロについてのことだった。
それを手短に説明する。
「・・・そうか。お前の言う通りかもしれないな」
「あの人が理由なく、周りを混乱させるようなことはしないはずだからな」
「ふむ・・・」
ブライトは腕を組む。が、アムロ側からは何か動いたようにしか見えなかった。
悩むようなしぐさを見せるが、理由はもちろん知っていた。すべてはこの計画のためなのだ。今、ブライトがアムロに顔を見せないのもそのためなのだ。
「わかった。こちらから話しておこう」
「それで、オレに何の用なんだ?」
実は・・・用といった用はなかったのだ。
アムロをブリッチへと呼び出すただの口実だった。
ここからはブライトの話術の見せ所だ。
「実は、お前に会わせたい人物がいてな」
「・・・なに?」
その言葉の中に疑いの目があるのがよくわかる。
何せ、アムロに会いに来る人など皆無だからだ。よく来てフラウくらいだろう。そのフラウですら以前訪ねて来てそれっきりだ。
アムロに尋ね人など、ありえないといってもいい。
「何もそんなに疑うこともないだろう?」
おもむろにブライトが振り向く。
「ブ、ブライト!!!!」
アムロの顔が引きつる。
これはもう驚きを通り越しているといってもいいかもしれない。
「どうした?何か変なことでもあるのか?」
ブライトはあくまでもいつもどおりだ。態度を変えてしまうとそこで終わりだといっても過言ではない。
「ひ、ひげ・・・」
アムロは凍り付きそうになる寸前である。
止めを入れるのは今しかない!
「おい、入ってくれ」
絶妙なタイミングでクリスを呼ぶ。
「あ、はい」
ゆっくりとブリッチへ入ってくる。
その髪の毛の色はいつもの茶色ではなく、透けるような金色だった。
どこから聞きつけたのか、コンバトラーチームの小介が後で戻せる脱色剤という妙なものを作ってきたのだった。
実は、実際のベルトーチカは金髪だったりするのだ。たぶん小介はアストナージ辺りからこのことを聞いていたのだろう。
その姿を見たアムロはすでに凍り付いていた。
「久しぶりね、アムロ」
内心、クリスは穏やかではない。ばれればどうなることかと、気が気ではない。
「べ、ベルトーチカ・・・」
クリスの言葉が完全にアムロに止めを刺したようだ。アムロは力なく崩れ落ちる。
というよりこれは、気絶したのではなかろうか?
「おい、アムロ?アムロ!?」
反応がない。
「た、大尉!?」
アムロが気絶したことに気づいたクリスもあわてて駆け寄る。
「お、おい、めぐみさん。まずいんじゃないのか、これ?」
「そうね、誰か呼んでくるわ!!」
影で隠れるように撮影していたデュオとめぐみもこの事態に気づいたようだ。
めぐみがあわてて飛び出す。
「・・・それで、この計画の言い出しは?」
あれから3時間後、ようやく気がついたアムロの第1声がこれだった。
「お、俺です・・・」
正直に答えるのはカミーユだった。
「いや、違うな」
そうきっぱりとアムロは断言する。
「確かに、言い出しはカミーユ、君かもしれない。でも、この計画を立てたのは他にいるだろう?」
この計画は、アムロをよく知る人でしか立てられない。これは確実だった。
その場にいた全員がブライトに視線を送る。
アムロの威圧感がそうさせたのか、ウソをつくものは1人もいなかった。
「・・・ブライト」
その本人ブライトはこっそりとその場から離れようとしていたところだった。
「何か言うことはないか?」
「な、何もないが?」
アムロの鋭い視線がブライトを貫く。
いても立ってもいられない様子が手に取るようにわかる。隙さえ見つければ脱兎のようにこの場から立ち去るのは間違いない。
「ブライト?」
その一言が恐ろしかった。殺気の塊のようなものが辺りを覆う。
周りの人間が一気に引いた。ニュータイプの人間はなおさらだった。
1人、また1人と医務室から姿を消す。
いつの間にか、医務室にはブライトとアムロの2人きりになっていた。
「さあ、どういうことか説明してもらおうか?」
アムロは不敵に微笑んだ。
その笑みを見たブライトは背筋に寒気が走る。
アムロのあの事件から2日が経っていた。
「あれ?トーレスさん、ブライト艦長は?」
ブリッチに訪れていたのはショウ・ザマ。あの事件の際にその場にいなかった人物の数少ない1人である。
「まだ寝込んでいるよ」
あの後何があったのかは誰も知らない。めぐみもデュオもあのシーンだけは撮影しようとはしなかったからだ。
ただ、わかっているのは2人きりになった後にブライトの断末魔のような悲鳴が聞こえたということと、その後ブライトが寝込んでしまったという結果だけだった。
「いい加減出てきてもらわないと困るんだけどな」
トーレスのつぶやきももっともだ。艦長がいないのでは艦の運行に支障が出かねない。
「ショウ、どうしたんだ?」
声をかけてきたのはブライトを寝込ませた張本人、アムロ・レイだった。
「シーラ様から伝言を預かってきたんだが・・・」
「それなら俺が聞いておこうか?」
「助かる」
やはりというべき、そういう内容だった。
ブライトが寝込んだことによって少しずつ隊の行動に支障が出てきていた。
「アムロさん、ブライト艦長に何をしたんだい?」
ショウも気になっていたのだろう。寝込みそうにないブライトが寝込んでしまう事態になっていたからだ。
後ろを向いていたアムロがゆっくりと振り向く。
その表情は・・・2日前にブライトに向けられた不敵な笑みそのものだった。
「・・・聞きたいかい?」
その表情に危機感を覚えたショウは必死にその誘いを拒否した。
この誘いにもしも乗っていればショウもブライトの二の舞になっていただろう。
結局、ブライトが艦長職に復帰したのはあの事件から1週間後だった。
「・・・もう2度とアムロはからかわない」
そう誓うブライトだった。
何があったのかは誰も知らない。ブライトもしゃべろうとは一切しなかった。
アムロの恐怖は今もひそかにロンド・ベル隊にひそか(おおっぴら)に伝わっている。
ロンド・ベル隊の日常第2弾です。
いかがだったでしょうか?
今回の主人公は間違いなくアムロとブライト。
前回のブライトはぶち切れていましたが、今回は切れさせる原因になっています。
私の中のアムロのイメージが全開状態だったような気がします。ああいう手合の人間は切れると怖いというか、何をしでかすかわからないというか・・・。
やりたかったのは「触らぬ神にたたりなし」ってことでしょうか?
(本当は、アムロの気絶シーンかやりたかっただけなんて口が裂けてもいえない・・・)
さて、劇中、アムロはブライトに何をやったんでしょうかね・・・?
ブライトが叫んだ挙句、1週間も寝込むようなことなんてあるんでしょうか?
私のほうでもここの設定は考えていません。あの時何が起こったのか?皆様の想像力にお任せします。