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ロンド・ベル隊の日常 その3
嵐、吹きすさぶ中で・・・

仮眠から明けたジュドーは自室から出て食堂に行くつもりだった。
地球の時間に換算すれば今は午前8時。宇宙生活をしているとはいえ朝食にはちょうどいい時間だ。
それに10時には当番であるパトロールに出なくてはいけない。
腹ごしらえをしておかないと多分、もたない。
そんな風に思っていると、目の前に誰かがいることに気づく。
葛城ミサト。確かエヴァンゲリオンに関する作戦指揮官。お酒(特にビール)が好きで飲んだくれているところをしばしば見かける。
「おはようございます、ミサトさん」
ジュドーにしてみればごく当たり前の挨拶のつもりだった。
まさか、あんなリアクションが帰ってくるとは夢にも思わなかった。
「ジュ、ジュドー君!?大丈夫なの?」
「へ?何が?」
何が大丈夫なのかといわれてもジュドーには思い当たる節などなく、ただ困惑するだけだった。
「君、N.Tでしょ?」
「そうですけど・・・」
N.T、それは新しい人類の形であり、普通の人よりも少し勘がよかったり、以心伝心できたりとさまざまな面で普通の人よりも優れているらしい。
しかし、その能力が遺憾なく発揮できるのは悲しいかな、戦場だけであった。
「今、N.Tの人たち、ほとんど寝込んじゃってるのよ」
「寝込んでるって、プルたちも?」
「そうなの。だから、仮眠に入ってたジュドー君もそのまま寝込んでるんじゃないかって、様子を見に行こうと思ってたところなのよ。まあ、リツコに言われて、だけどね」
エンジェル・ハイロゥはもうなくなったはず・・・
そのことを聞いた瞬間、ジュドーの頭の中にそうよぎった。
エンジェル・ハイロゥ。あれが稼動したときはN.Tや強化人間といった類の人たちほとんどが戦闘できない状態に陥った。
そのときの状況とよく似ている。ジュドーはそう思ったのだった。
「で、大丈夫?」
「俺はなんともないです」
特にだるいわけでもなく、戦意を喪失しているわけでもない。
仮眠する前と比べてどこか違うことがあるのかといわれると、まったくない。
ほとんどのN.Tが寝込んでしまった原因に触っていないのかもしれない。
「あの、そのとき仮眠してたのって、俺だけじゃないでしょ?」
「ジュドー君以外は全滅って聞いてるけど・・・」
ミサトの言うとおり、ジュドー以外のN.Tは何らかの症状を引き起こしていた。一番ひどいのはカミーユらしい。廃人寸前といっていい状態になっていた。
「とにかく、無事だったらまずメディカルルームの方につれてきてって言われてるんだけど・・・どうする?」
あえて行けとは言わないところに何か引っかかる。
「それ言ってたの、リツコさん?」
ジュドーに戦慄が走る。
もし、リツコの言ったことならば、メディカルルームに言ったとたん何らかの実験台にされるのが目に見えている。
「そうなのよ・・・行かなくてもいいわよ」
ミサトはリツコの性格を熟知している。もちろん止めるに決まっている。
「実験台にされる前に逃げときます・・・」
「そうしなさい」
ミサトに肩をポンッとたたかれる。
「あ、そうそう。ジュドー君、後でブリッチ上がっといた方がいいわよ」
「わかりました!」
じゃあね。と言い残し、ミサトはどこかへ去っていった。
「う〜んと・・・とりあえず、朝飯?」
とりあえず、当初の目的地だった食堂に向かうことにするジュドーだった。

・・・・・・・・・・・・静かだ・・・・・・・・・・・・
いつもはどの時間に行ってもにぎわしい食堂が静まり返っている。
N.Tが全滅状態では普段のにぎやかさはない。しかも、N.Tでないものでも倒れているらしい。
どういうことなのかはジュドーにとってさっぱりわからない。
だが、倒れていないのは自分だけというのにも意味があるのだろうと思う。
そんなことを考えながらバターロールをほおばる。
「あれ〜?ジュドー大丈夫なのか?」
食事をしていたジュドーに話しかけてきたのはタスク・シングウジ。はっきり言ってSRWαの主人公である。
「タスクさん?ああ、知ってんのか」
「目の前でウッソに倒れられちゃってさ。ホント、困ったよ」
今までその対応に追われていたらしい。
「みんな倒れてるんだな・・・」
第3者から同じ話を聞くとさらに起こっている出来事の大きさに気づく。
しかし、まったく実感がわかない。当事者に出会っていないからだろう。といっても当事者にあっても実感がわくのかどうかはわからないが。
「そういや、リュウセイとアヤさんも倒れたって聞いたけど、何か聞いてないか?」
ジュドーは言葉に詰まる。そんな話聞いていなかったからだ。
もし、この食堂がいつも通りに賑やかだったのなら知っていたかもしれないが、今それを望むのは不可能である。
「いや?俺もさっきミサトさんから聞いたところでリュウセイさんが倒れたって言うのも初耳・・・」
「そうか〜。いったいどうなってるんだろうなあ?」
結局何がどうなっているのか、状況を把握している者がいないのである。この状況下で誰に何を聞こうがまともな答えが返ってくるはずがなかった。
「そんなこと俺に言われたって・・・」
もっともな意見だった。
「悪い、悪い。聞いた俺が悪かった」
「でも、何でリュウセイさん?」
それだけは気にかかっていた。
リュウセイはサイコドライバーではあるが、N.Tではない。
そして、エンジェル・ハイロゥの時はサイコドライバーであるリュウセイにそこまでの影響は出ていなかったはずだ。
「それは俺も聞きたいよ」
タスクの正直な意見だった。
タスクもリュウセイと同等の能力を持つサイコドライバーだからだ。そのタスクに影響が出ていないのも謎の1つだった。
「突然、変なイメージ叩きつけられて参ったけどさ、倒れるまではいかなかったぞ?」
ほぼ同じ時間に同時に見せられたイメージがあった。
話をよく聞けば、全員がそのイメージを見ているそうなのだが、個々によってダメージが違う。
「変なイメージ?」
「ああ、それでウッソも倒れたみたいなんだよ」
「・・・・・・・・・?」
ジュドーに心当たりは一切なかった。
夢でもそういうものを見た記憶もない。
「どんな?」
それが原因なのかもしれない。直感でそう思う。
「ジュドー、見てないのか?」
首を横に振る。
「ふーん、何でなんだろうな?」
それ以上何も聞こうとはしなかった。聞いてもロクな答えは返ってこないだろう。
「で、どんなイメージだったんです?」
「ああ、それなんだけどな・・・」
タスクの言う所では、何かよくわからないものを見せられたらしい。戦意を喪失させるというよりも、恐怖を呼び起こすようなものだったそうだ。
裏切りや人の死に直面したことのある人ほどそのショックはひどいようだ。
「そうか・・・」
ジュドーはつぶやく。それを聞いてとても納得したようだ。
N.Tという種の人間は人の死や、裏切りにあっている場合が多い。というより、他の人よりそういうことに過敏になっていると言った方がいいだろう。
俺もそうかも・・・
一瞬そう思ったジュドーだが、その考えはすぐに消えた。
そこまでデリケートじゃないよな。と考え直すのだった。
そんなこんなで食事も終わり、ジュドーは席を立とうとしていた。
「あ、そうだ。タスクさん、これから何か用事あります?」
「え〜と・・・あ、そうだブリッチに状況報告しておかないといけないよな」
少し悩みながら、今後の予定を思い出す。
「俺もブリッチに行くんですよ。一緒に行きませんか?」
ミサトに言われたことを思い出していたのだろう。
「おお、いいぜ。ブリッチって1人で行くのって気が引けるんだよな」
ふう、と一息息をつく。
「ちょっと待っててくれよ」
ガツガツと食事を口の中にかきこんでいく。
「タスクさん」
その姿をボーっと見ながらジュドーは疑問に思う。
「何?」
「レオナさん、大丈夫なんですか?」
レオナはタスクの恋人だ。正確にはだったと言ってもいいかもしれない。
レオナは今記憶の大半を失っていた。
恋人のタスクのことも忘れていたのだ。初めて再会したときには敵と思われ攻撃を受けたくらいだった。
「大丈夫じゃないさ。あいつも倒れてる。心の傷をえぐられたんならあいつの方が影響は大きいよ」
暗い表情になる。
タスクはレオナのことを本当に大切にしていた。レオナがいてくれるだけでタスクの心は落ち着いた。
「すみません・・・」
そんなタスクの心がジュドーに流れ込んできたのだろうか?申し訳なくなったジュドーはタスクに謝った。
「ジュドーが謝ることじゃないさ」
タスクも割り切ってはいた。自分に会えばレオナの事を聞かれるのはわかっていたからだ。
「さ、行こうか?」
気づいたときには皿の上には何ものっていなかった。
「はいは〜い」
ジュドーはタスクの後を追っていく。

「失礼します!」
タスクとジュドーはブリッチを訪れた。
「ああ、タスクか・・・」
その姿を確認したブライトはため息をつく。
「どうしたんですか、ブライトさん」
「いや、N.Tを始め、戦闘要員がほとんど全滅という報告が来てな。お前だけでも残っていてよかったよ、タスク」
先ほどのため息は安堵のため息だったらしい。
「やっぱり、俺以外のN.Tって全滅してるんですね」
「ジュ、ジュドー!?」
必要以上に驚いていたといってもいいだろう。しかし、全滅だといわれていたN.Tがジュドーだけとはいえ生き残っていたことについて驚いたのだ。
「そこまで驚かなくてもいいだろ?艦長」
ジュドーの方もため息混じりになる。
「しかし、何でお前だけ・・・」
信じられないのも無理はない。ミサトにまであれだけ驚かれたのだ。
「それについては、俺から説明させてもらおうか?」
息も絶え絶えといった感じの声だった。
声の主はアムロ・レイ。もちろんアムロも到底戦闘できるような状態ではない。
「大丈夫なのか、アムロ?」
その状態を見てブライトも心配を隠せない。
「年の功って所だろうな。倒れたN.Tの中では症状は軽いほうだろう」
N.Tのほとんどは寝込むところまでいっている。こうして起きて行動できるだけ症状は軽いといえるだろう。
「トーレス!何かイスになるようなものはないか?」
ブライトはオペレータに向かい話しかける。
呼びかけられたトーレスは辺りを見回し確認するが、これといったものは見つからなかった。
「ここにはありませんね。何か取ってきましょうか?」
「そうしてくれると助かる」
アムロは無理矢理笑顔を作るが、どことなく引きつっていた。
そこまで、精神力をそぎ取られているのだろう。
しばらくすると、トーレスはどこからか、木の箱を持ってきた。
「こんなので申し訳ないんですが・・・」
「いや、これでいいよ」
そういってアムロは木の箱に腰を下ろした。
「それで、アムロ、話というのは?」
心配しつつも話を聞かなければならないブライトはアムロが座ったのを確認して話しかけた。
「ジュドーだけ何故無事だったのかってことなんだが」
「あ、それ俺も聞きたい!」
ジュドーも気にはなっていたらしい。何故自分だけ倒れることなく済んでいるのか、不思議でたまらなかったからだ。
「簡単に言えば、ジュドーは特別なN.Tだということだ」
「特別な?どういうことだ、アムロ?」
ブライトが疑問に思うのも不思議ではない。ブライトたちO.T(オールド・タイプ)からすればN.Tの存在自体が特別であるからだ。
「ン。俺たちは一般の人に比べれば感覚は鋭い。人の考えがなんとなくわかるというのもその1つにはいる。だが、情報が入りすぎることもあってな、強烈な人の感情は俺たちを傷つけることもある」
それを端的に起こしてしまうと、人格崩壊に陥る可能性もある。
「何故、そんなことがおきるのか?考えてみたよ。結論はチャンネルが開いたままになっていることにあるんだ」
「チャンネル?」
ブライトはいまいちピンとこない様子だった。一方タスクはそのことに非常に納得していた。なぜなら、タスクには似たような経験があったからだ。
「なんというのか・・・壊れたラジオだな」
壊れたラジオのように電波を無制限に拾ってしまう。アムロはそう言いたかった。
「そうなのか?」
いまいちブライトは理解していないようだったが、今のアムロにそこまで相手にしている余裕はない。
「俺たち普通のN.Tが壊れたラジオなら、ジュドーはまともなラジオなんだよ。余計なものは拾わない、必要な情報だけ拾ってこれる。だから、ジュドーだけ無事だったというわけだ」
「今回のことは余計なものだったんですか?」
確認のためか、タスクがそうたずねた。
「多分ね」
「でもアムロさん。俺、エンジェル・ハイロゥの時はまともに喰らいましたよ?サイコウェーブ」
そう、エンジェル・ハイロゥのサイコウェーブが照射されたとき、今回のようにN.Tが一人だけ残るという状況ではなく、本当に全滅していた。
ジュドーも例外ではない。
「そのときはジュドー、チャンネルを開いてたんじゃないのか?あの時はサイコウェーブの照射前から戦闘状態に入っていただろう?」
「そういわれればそんな気も・・・」
確かにあの時はエンジェル・ハイロゥを落とすためにもうザンスカール軍と戦闘に入っていた。
「非戦闘時にもしあのサイコウェーブが照射されていたとしたら、多分ジュドーには影響がなかっただろうな」
ふう、と大きく息をつく。やはり、普通にしゃべることも少々つらいのだろう。
「そんなものなんですかね?」
頭をひねるが、答えは出ない。
「今がその証拠だろうな。アムロの言う事を信じろ」
ダメ出しの言葉がブライトから発せられる。確かに状況証拠というのは誰が見てもわかるだろう。
「なんだよ、それ」
ジュドーがふてくされる。それを見ていた全員が一斉に吹き出した。
「・・・来る?」
アムロがふっと顔を上げる。
笑いが止まった。
「どうした、アムロ?」
「あのサイコウェーブのもとが来るぞ!」
「何?トーレス!索敵!!」
ブライトが素早く指示を出す。
こういうときのアムロの直感はよくあたる。それを信じないブライトではない。
「りょ、了解!」
指示を聞いたトーレスが索敵を開始する。
沈黙が辺りを包む。
「・・・います!索敵可能範囲限界に、個体数30!パターンから敵は宇宙怪獣です!!本艦に接触まであと2時間!」
「何だと?」
耳を疑った。
今まで、この宙域に宇宙怪獣が現れることがなかったからだ。
「個体数増大!40、65、100・・・止まりません!!」
「く、第1種戦闘配備!出れるパイロットはブリーフィングルームへ!!トーレス、戦闘ブリッチへ移行!!一度私は離れる、頼むぞ」
「ブライト艦長!」
ブリーフィングルームに向かおうとするブライトをジュドーは呼び止める。
「なんだ、ジュドー?」
「俺、出れないかも・・・」
深刻そうにブライトに訴えかける。
「何でだ?」
「ZZ、この間大破させて、まだ修理が終わってないはず」
10日ほど前にラオデキヤ軍と遭遇した際にZZが大破、命からがらラー・カイラムに帰艦したのだった。
「なんだと!!」
このある意味切迫した状況にそんなことを言えば怒鳴られるに決まっていた。
「そんな、怒鳴らなくても・・・」
はっきりいうと、このことはブライトも知っていることだった。
アストナージら整備班からそういう報告は入っているはずだからだ。
「そういうことなら、νガンダムを使うといい」
アムロの愛機、νガンダム。早々使わせることはない。しかし、今はそういう事をいっている暇はない。
「いいんですか?」
アムロの申し出を快く受けたいジュドーだったが、この間ZZを大破させたこともある。素直に受けるのには少しばかり心苦しいところがあった。
「大破させないのならいいさ。ただ、フィンファンネルが使えるかどうか・・・」
ファンネルは個人によって調整されているもの。赤の他人がつかるのかどうかは微妙なところだった。
「使えなくてもいいです。出れるなら」
ジュドーも今の切迫している状況はわかっている。出れるパイロットが極端に少なくなっている今は武装の一部が使えなくても戦えることに意味がある。
「アストナージにそう伝えておかないとな・・・」
「それはこちらでやっておきますよ、アムロ大尉。なので、自室に戻っていてください。我々の眼から見ても今の大尉は出撃できるような状況ではないとわかりますので」
トーレスがそう申し出た。見ている側からしても今のアムロは痛々しかった。
「そうするよ」
ゆっくりとアムロはブリッチから立ち去る。今のうちに自室に戻っておかないと、戦闘が始まってからでは迷惑がかかるだけだからだ。
「いくぞ、タスク、ジュドー。そろそろ行かないと作戦が立てられん」
時間がない。
すべてはその1点にまとまった。

ラー・カイラム内、ブリーフィングルーム。
そこに集まった人数はあまりにも少なかった。
「これだけか・・・」
後はすべて寝込んでいるということなのだろう。いくらなんでもサボりはないはずだ。
今、ブリーフィングルームにいるのは、ジュドー、タスクをはじめ、コン・バトラーチームにショウ・ザマ、コウ・ウラキ、トップ部隊からノリコとカスミ、以上の面々である。
さすがにこれでは少なすぎるだろう。
「後は全員寝込んでるんですか?」
「そういうわけでもないんだか。チームのところは1人でも欠けると動けんからな」
実際、それに該当するのはボルテスチームに獣戦機隊だ。
「これで出撃しろっていうのも酷な話ですね」
コウがこの人数を見てそう思うのも無理はない。この面々で出せるのは最大で7機、いや6機だからだ。偵察というならいざ知らず、戦闘に入るとわかっていてこの機体数ではつらいものがあった。
「向こうは数で来るのはわかっているからな」
ショウがそういった。宇宙怪獣は数で攻めてくる。それはわかりきったことだった。だからこそ、この機体数ではつらすぎる。
「さらに最悪なことがある」
ブライトが状況を告げる。
「なんですか?」
「宇宙怪獣が宇宙嵐に乗ってやってきてるというんだ。地上でいう大嵐の中戦うようなものだからな、最悪といっていい」
これを最悪といわずになんというのだろう。宇宙怪獣もこちらの部隊を潰すのに必死になっているといってもいいのかもしれない。
「マジで?」
ブライトの発言で今の状況に驚いた豹馬がつい声を出してしまう。
「驚くもの無理はない。しかもアムロの話だと、この団体の中に今回のこのサイコウェーブを出したものがあるらしい」
こればかりはこちらから確かめる術はなく、アムロの話を信じるしかなかった。
「それを潰せば?」
「後は時間をかければ全員戦線復帰となるだろう」
サイコウェーブが途切れればすぐに戦線復帰できるものもいるだろうが、そうでないものもいる。それを考慮すればこういう発言になるのだろう。
「作戦云々じゃなくて、ここを護り切れるのかって事だよな?」
簡潔に言ってしまえば確かにそういうことだ。護り切れるか否か。それはここにいる面々にかかっている。
「身も蓋もない言い方やな」
あきれたように十三がつぶやく。
「でも、そういうことだろ」
「豹馬の言う通りだ。我々はラー・カイラムを護り切らなければならない」
ブライトが深刻そうな面持ちで訴えかけた。
「じゃあ、もう解散っていうのでいいんじゃないんですか、艦長。早く出るのに越したことはないんだろ?」
ジュドーがそう提案する。
あと2時間。いやこの地点でもう接触まであと1時間を切っていた。
「そうだな。各員それぞれベストを尽くしてくれ!解散!!」
ブライトの声をきっかけに全員が動き出す。
向かう先は格納庫だった。
今は一刻でも早く出撃しないと対応に遅れてしまう。
「アストナージさん!ZZは?」
整備班の班長アストナージを見つけ出し、多分まだ使えないであろうZZについて訊ねた。
「ジュドーかい?ZZはまだ無理だよ、損傷が激しすぎて修理が・・・」
修理は終わっていない。それを伝えたかったのだろう。
「なら、νガンダムの起動キーを!」
アストナージの声をさえぎる。
「なんで君が?」
アムロがνガンダムに他人を乗せることはほとんどない。それなのに何故ジュドーがνガンダムの起動キーを求めるのか?アストナージにはよくわからなかった。
「アムロさんが使えって言ってくれたからね。早くしないとまずいんだよ」
脅威はすぐそこまで迫っていた。
「わかった。お〜い誰か、νガンダムの起動キーを!それとスクランブルだ。発進準備!!」
ジュドーの声で今の状況を察知したアストナージが指示を出す。
あわただしく、整備班が動き出した。
「ありがとう、アストナージさん」
「おう、がんばれよ、ジュドー」
νガンダムに向かって走り出す。ある場所はわかっている。
「・・・ん?タスク?」
竜王機と虎王機の前に立っているタスクの姿が見えた。すぐに竜王機に乗り込もうとする気配はない。
「すみません!あの装置虎王機に付けてくれましたか?」
近くにいた整備員を捕まえる。
「ああ、でもあれ何の装置だい?」
「遠隔T−LINKだって聞いてるんですけどね」
タスクの手にあるのはヘッドセットだった。
「虎王機とリンクできないと竜虎王になれないからなぁ・・・」
ため息とともに呟きをもらす。
「信じるしかないよな、この遠隔T−LINK」
ロバートの発明品というところですでに疑問符が出るのだが、それでも今はこの装置にかけるしかなかった。
「一か八か・・・分の悪い賭けは嫌いじゃない」
ヘッドセットを身に付け、竜王機に乗り込む。
「頼むぜ、竜王機」
遠隔T−LINK装置を起動させる。
「虎王機、俺がわかるか?虎王機」
頭の奥に低くうなり声が響く。
遠隔T−LINKが正確に動作しているようだ。
「俺に協力してくれないか?」
反応はない。
「お前がレオナじゃないということを聞かないのはわかってる。でもな、レオナは今動けない。レオナを護るためなんだ、力を貸してくれ!」
それでも、反応はない。
「お前はレオナが死んだっていいっていうのかよ!!」
絶叫に近い叫び声が竜王機のコクピットに響く。
「それがわかっているのか、虎王機!!!」
ようやく、虎王機が反応した。
「行ってくれるのか?」
ヘッドセットから、低いうなり声が伝わってくる。
「よし、竜王機、虎王機出るぞ!」
格納庫よりカタパルトに移り宇宙に出る。すぐさま竜虎王に合体する。
そこにはもう、他の機体が展開していた。
「へへ、遅いぜタスク!」
すでに合体を終えていたコン・バトラーVの豹馬からだった。
「悪かったな!」
「まあ、一番最後はお前じゃないんだけどな」
見渡すと、ガンバスター、ビルバイン、コン・バトラーV、ガンダム試作3号機までは確認できた。そこではたと気づく。
ジュドーがいない。
「あれ、俺が一番最後?」
飄々とジュドーが現れる。
νガンダムに関するレクチャーを受けていたら少々遅くなったようだ。初めて乗る機体、初めて体感するサイコミュ。聞いておかなければならない事はあったようだ。
「よし、これで全員だな。少し離れよう」
タスク、ジュドーが来たことを確認したコウが提案する。
少しでもラー・カイラムから離れたところで攻撃を仕掛けたほうが被害は少なくてすむだろうというコウなりの配慮だった。
「6機で全滅させるのはちょっと骨だな」
いつもはそういう事を言わないショウが呟く。
一応聞いている個体数を考えるとそういう事になるのだろう。
ブリーフィングルームを出る前に確認が取れている個体数は約500。個体数の増大は止まっていないらしく、今こうしている間にも個体数は増えているということだった。
「で、出来るんですか?お姉さま」
ノリコが不安になるのも無理はない。
ほとんどのパイロットが倒れている今、増援は望めない。その中でどうにかラー・カイラムを護りきらなくてはならない。
不安になる要素は山のようにあった。
「出来る、出来ないじゃなくて、やらなきゃだめなのよ、ノリコ」
諭すようにカズミが言う。
それは、ここにいる全員に通じることだった。
やらなければ、ラー・カイラムは沈む。それだけはなんとしても防ぎたい。
全員の思いだ。
「後20分で宇宙怪獣と接触します。急ぎましょう」
小介の声が割って入る。
その声をきっかけに、全機宇宙怪獣が向かってくる方角へと針路を進めた。

機体が揺れていた。
何があるわけでもない。ただそこに迫る宇宙嵐のせいだった。
「ラー・カイラムから距離20000です」
小介の声が各機に伝わる。
かなりの距離は稼げた。この網を抜け、ラー・カイラムに向かう宇宙怪獣を最小限に食い止めることが出来るなら、後は向こうで対処できるだろう。
宇宙怪獣の群れはもう目の前まで迫っていた。
「先制攻撃を仕掛ける!!」
コウの声と動じにマイクロミサイルの雨が宇宙怪獣に降り注ぐ。全弾命中とは行かないが、それでも相当な数が命中していた。
爆発とともに聞こえない断末魔を発しながら宇宙怪獣は消滅する。
「く!」
ジュドーが軽くうめき声を出す。
「大丈夫か、ジュドー!」
それに気づいたタスクが声をかける。
「これくらい、平気だ」
宇宙怪獣の断末魔。これがジュドーに降り注ぐ。
耐えれないこともない。いや、耐えられる。しかし、この声の大きさがつらかった。数が多くなれば多くなるほどその声は大きくなる。
あの一撃で相当数の宇宙怪獣が消滅したに違いない。
「もう1発行くぞ!」
爆発のやまない宇宙怪獣の群れの中に再びマイクロミサイルの雨が降り注ぐ。
声がもっと大きくなった。大音量の音を無理やりヘッドフォンで聞かされているような感じになる。
「くそったれ!」
頭から離れないその音を振り切ろうとするために群れの中へとジュドーは突っ込む。
「デンドロビュウムで網をはる!ジュドー君の援護を!!」
先に飛び出してしまったジュドーを見落とすほど間抜けでない。
サイコミュ搭載機ではないものの、洒落にならないほどの火力を持っているガンダム試作3号機は網を張るのには最適の機体なのかもしれない。
すぐさま、機雷を張り巡らす。
5機が撃ちもらした宇宙怪獣を機雷で捕らえることが出来ればそれでよし、機雷で捕らえることが出来なければコウ自ら落としに行くつもりだ。
「先走るなよ、ジュドー君!」
飛び出たジュドーの後を追うビルバインに乗るショウにもわずかながらジュドーが聞いている断末魔が聞こえていた。群れに近づくにつれそれが大きくなっていく。
「ちぃ!揺れる!!!」
ビルバインのような小型の機体ではこの嵐、動くのも一苦労するだろう。
「大丈夫、ショウ?」
コクピット内はかなり揺れている。チャムが心配するのも無理はない。
「心配するな、チャム。ビルバインの性能ならいけるはずだ」
チャムを心配させないように振る舞いはするが、内心、この数だ。無傷でいられるという保証はない。
それでもやるしかなかった。仲間たちのためにも。
「お姉さま!」
「そうね、私たちも行きましょう!!」
ガンバスターもνガンダムの後を追う。
「バスタービーム!!」
気合一閃。広域ビームが辺りを包む。
ガンダム試作3号機が仕掛けた爆発の上にさらに爆発が広がる。
「おい、小介、俺たちってここでいいのか?」
自分のいる立ち位置を疑問に思う豹馬だった。
そもそもは突っ込み遅れた豹馬自身が悪いのだが、この立ち位置、実は重要である。
「はい。突っ込んでいった皆さんとコウさんの間にいてください」
小介のメガネの端が光る。
「なしてこないな所にいると?」
コウを最後尾にして矢のような形に散開しているからだ。
「皆さんの撃ちもらしの処理です」
2段階に分けて処理をしようということだった。
宇宙怪獣がラー・カイラムに向かって1直線に来ることはわかっている。その前に1体でも少なくしなければならない。
コウの機雷だけでは防ぎきれない。それならば2段に構えるだけだ。
「あ、なるほど・・・?」
「わかってないんとちゃうんか?豹馬」
「なんだと!」
今すぐにもケンカが始まりそうな険悪なムードになっていた。
「もう、こんな時にケンカなんてしなくてもいいから・・・」
ちずるが呆れるように呟いた。いつものこととはいえ、この緊迫した状態でよくもまあケンカが出来るものだと半分感心もしていた。
「わ、わ!来ました!!」
4機が撃ちもらした宇宙怪獣が押し寄せてくる。
「逃げてきたやつの退治って事か」
いまさらながら納得する豹馬だった。
「やーっぱり、わかってなかったんやないか」
「十三くん、もういいから」
さらに吹っかけようとする十三をちずるがなだめる。
「いくぜ!超電磁ヨーヨー!!」
そんなやり取りを無視して、迫り来る宇宙怪獣に仕掛ける豹馬だった。
「機雷が流される?」
最後尾のコウは迫る嵐を感じている。
「嵐が来る」
まだ来ない宇宙怪獣をその目で捉えていた。

「無理やり突っ込むな、ジュドー!!」
何とか、ジュドーに追いついたタスクは呼び止める。
もちろん、周囲にいる宇宙怪獣を倒しながらだ。
「いるんだよ!」
吐き捨てるように叫ぶ。
頭に響く断末魔はさらに大きくなる一方だ。
「何?」
「この声をまとめているやつがいるんだよ、この先に!!」
近付くにつれわかっていく。どの個体がリーダーなのか、この断末魔を送っているのかが。
方向はもうわかっていた。後は近付けば位置も特定できる。
「なんだって?」
耳を疑った。
もちろん、タスクにもジュドーほどのボリュームでないにしろ、この断末魔が聞こえていた。声といわれれば予想はついた。
「そいつさえ倒せば!!」
断片的な言葉になる。
うるさいのだ。頭をめぐる断末魔が。
「サイコウェーブが途切れるって言うのか?」
タスクが問いただす。
「この群れも散らせる。そいつがボスだ!」
もう、ジュドーはそれしか見えてなかった。どうしてもそいつを叩き潰す。それだけのために突っ込もうとする。
「だからって、待てよジュドー!」
タスクを振り切るように加速をかけ、群れの中心へと進む。
進めば進むほど嵐が激しくなっていく。
νガンダムの動きが鈍くなっているのがわかる。これじゃあ、まずいかもしれない。そう思った瞬間だった。
目の前に宇宙怪獣が現れる。今まさにビームを発しようとしているところだった。
今のνガンダムの機動力では避けきれない。
「やばい!」
直感で回避行動をとり、直撃を避けようとはする。
しかし、ビームは直撃どころか掠めもしなかった。
一瞬何が起こったのか、わからなかった。
「・・・Iフィールド?」
フィンファンネルが3機展開していた。三角形を形作り、その間には薄い膜のようなもの、エネルギーシールドを形成していた。
「使えるのか、フィンファンネル」
フィンファンネルの動きをトレースする。
動く。
ジュドーは確信した。アムロ用に調整されているものとはいえ、同じN.Tだ。動かせないものではない。
「いっけぇ!フィンファンネル!!」
8機のフィンファンネルすべてを展開させる。
片っ端から宇宙怪獣を落としていく。
宇宙怪獣の群れをかいくぐり、断末魔をまとめている本体へ近づいていく。
それにつれて、嵐が激しくなっていく。
機体がきしむ。それでも前に進まなくてはならない。
そして、中心へとたどり着く。
嵐はやみ、そこの空間だけ何もなかった。唯一そこにあったのは1体の宇宙怪獣。他とは形が違った。
「見つけた。お前がボスだ!」
残っていた1機のフィンファンネルから光がこぼれる。
一瞬、すべての宇宙怪獣が動きを止めた。

「散っていく・・・」
トーレスが宇宙怪獣の動きを確認する。
動きを止めた後、群れの中心から遠い固体から糸が切れたたこのようにふらふらと群れから離れていく。
ラー・カイラムのレーダーからもそれがよくわかった。
「やってくれたのか、たったの6機で」
その光景を見ていたブライトがそう呟いた。
信じてはいた。しかし、どこかで信じてはいなかったのかもしれない。だからこそ、信じられなかった。
ラー・カイラムにたどり着いた宇宙怪獣は0だった。

嵐もやんで、宇宙怪獣も散り散りになり、あらかた片付いた宇宙空間に出撃した6機が勢ぞろいしていた。
どの機体もたいした損傷はなく、誰にも怪我はなかった。
「まったく、無茶しやがって」
突っ込んだことについてやはりタスクは文句があったようだ。
それについてはショウも同感のようだった。
「ごめん」
平謝りのように聞こえるが、仕方がないだろう。
「まあ、いいさ。無事ならね」
どうやら、コウはジュドーが突っ込んだことについて何も言うつもりはないらしい。
結果的には、ジュドーのその行動で早く宇宙怪獣を散らせることが出来たのだ。だからこそ何も言うつもりはないのだろう。
「よかったぁ」
ノリコが安堵とともに喜んでいた。
「どうしたの、ノリコ」
喜び方がなんともいえなかったのだろう。カスミが心配して声をかける。
「だって、みんな怪我もなかったんですよ」
確かにそれは喜ぶべきことだった。
しかし、その安堵の声の片隅から罵声が聞こえてきていた。どうやら、豹馬と十三がケンカをしているようだ。
「こっちではケンカが始まっちゃってるんだけどね」
もうすでにあきらめた声のちずるだった。
「そんなにケンカしてたらコンバイン解けちゃいますよ」
小介の制止もむなしく、コンバインは解ける寸前だったようだ。いともあっさりと合体は解除されてしまった。
それを見ていたジュドーは緊張の糸が切れたらしく、一気に吹き出してしまった。
『笑うな〜!!』
コン・バトラーチームの声が辺りに響いた。

何とか今日も無事くぐり抜けれたらしく、サイコウェーブの照射も止まった。
パイロット全員が復帰できる日も近い。


あとがき

はー、長かった・・・
ロンド・ベル隊の日常の中でもっとも長い作品になってしまいました。
テーマがややこしかったのがまずかったのかな?
ともかく、最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

今回の主人公はジュドーです。
どことなくタスクも喰ってきてますけど、頭を潰しているあたりからしてジュドーですよね?

なんかはじめ考えてたのとずいぶん路線が違ってきてたりするんだよな・・・
で、今回のネタなんですけど、ちょっと前に読んだ漫画が元になってます。
タイトルは・・・・・・まったく思い出せません!(苦笑)
でも作者の方は思い出せるので書いときましょう。長谷川祐一先生です。
その中にあったんですよ、ジュドーが特別なN.Tだって話が。それが印象に残っていてこの話を組み立てるにいたりました。
アムロがその説明をするのは、そのセリフをアムロが言っていたからなんです。

しっかし、なんでこんなにジュドー好きなんだろう?
ZZ見たことないのにねぇ・・・
声か?声だな。矢尾さんだし。声つながりでダンクーガの忍も好きだしね。
今度は忍とジュドーの絡みをやってみたいかな、なんて・・・

2003/12/22


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