Home  Contents  Gallery  Link

2章  Starten -起動-

「これからどうすりゃいいんだ?」
 黒い戦闘機の座席に着いたアキラがつぶやく。
 今まで戦闘機など乗った事はない。いや、普通の旅客機すら乗った事がなかった。どうすればいいかなんて考えもつかない。
 アキラからすれば、どうして今ここにいるのかも飲み込めていないのだ。
 展開が急すぎる・・・
 アキラは苦笑いを浮かべた。
『大丈夫?』
 突然、声が聞こえた。
 一瞬戸惑ったが、スピーカーからの声という事と、その声の主がシュッツだという事が分かると、ホッとした。
「どうしたらいいかだけ教えてくれ」
『じゃあ、目の前にパネルがあると思うけど・・・』
「ああ」
『左上の方に青いボタンがあるよね』
「左上?・・・ああ、これか」
 確かに左上に青いボタンがある。
『それ、押して』
 押すと、どうにもならなかった。
「どうにもならないじゃないか」
『で、次にこう言って。通信システム起動』
「?通信システム起動」
 何かが起動する音とともに目の前が明るくなる。
 次々に何かが浮かび消えていく。
『ツヴァイとの画像通信回線接続』
「???ツヴァイとの画像通信回線接続」
 アキラはもうすでに何が何なのか分かっていなかった。なぜ、こんな事を言わなければならないのかも理解してはいない。
 ただ、目の前がめまぐるしく変化していくのだけは分かっていた。
『ちゃんと、映ってる?』
「へ?あ、ああ」
 こちらを覗き込むような体制のシュッツの姿が映し出されていた。
『驚いてる、よね』
「はっきり言う。わけが分からない」
『だろうね。詳しい説明は後でしようか。・・・とりあえず、ベルトした方がいいよ。体浮いちゃうから』
「ベルト?」
『ほら、僕がつけてるでしょ。シートの後ろから出てると思うけど』
 後方を確認すると、確かにある。かなり複雑な形をしている。
 どうやってつけるのか一瞬悩むが、難無く装着することが出来た。
「これでいいのか?」
『そうそう。それでいいの』
 いったいどうなるのか、わからないまま事が進んでいく。
『アイン、コントロールをツヴァイに移行。両機エンジン始動、発進準備開始。アキラ、出来るだけ操縦覚えて』
 シュッツの手がよどみなく動いているのが良く分かる。着々と準備を進めていく。
 その間、アキラはと言うと・・・
「・・・何やってるのかさっぱりわからない」
 小声で錯乱していた。

Generatorゲネラートア完全動作まであと200」
 コンソールパネルに手を滑らせる。
 甲高いブザーが鳴り響く。
 ツヴァイに直接通信を取ってきたものがいる。モニターに通信主の名が表示された。よく知った、そして、この通信バンドを唯一知る人物の名だった。
 アインとの音声通信の回線を切ると、その回線をつなぐ。
『アインに誰を乗せている!』
 怒声がツヴァイのコクピットを包む。
 シュッツにその声は妙に心地よかった。聞きなれた、声だからだ。
「そんなに怒鳴らないでくださいよ。聞こえてますから」
『誰だ、と聞いておるんだ!』
 アインとの画像回線とは別に新しい画像回線が強制的に開く。白髪の小柄な老人が画面にアップで映された。
「長谷川明。多分この横浜の出身だと」
『何故、乗せた?』
 同時に老人は、モニターの外の人物に指示を出していた。
「直感ですよ。いつもの」
『博士、出ました!』
 声だけが割り込んでくる。
『よし、こっちにまわせ!』
「ツヴァイにも転送してくれませんか?」
『ああ、ツヴァイにこのデータを転送!』
『わかりました』
 送られてきたデータにはこうあった。

 長谷川 明 ―ハセガワ アキラ― 18歳
 東京都出身。
 両親、兄弟、ともになし。
 両親は2年前に失踪。その後、横浜の親戚の家に養子の形で引き取られる。
 旧姓は上谷。
 両親の失踪時期がウンダーズーフン事件と重なるため、巻き込まれたものと考えられる。

『この子も、被害者か』
「そうですね」
 あの事件の傷は大きい。改めてシュッツは思う。
 こんな所にも、被害者がいるのだから。
『シュッツ?おーい、シュッツ?』
 アキラが回線に割り込んできた。
「博士、1度回線を切ります」
『わかった。無事帰ってこいよ』
「はい」
 博士との回線を閉じる。
『シュッツってばよ〜!!』
 大声が切ったすぐの回線に流れ込む。
 画面に大きく映りこんだアキラの姿を見て失笑する。あまりにも間抜けに映っていたからだ。
 しかし。
 なぜ、切断したはずの回線が開いたのだろうか?
 そんなことはアキラに何も言っていないし、何しろ、できるはずがない。
 フェアはそんなに単純ではない。
「何?」
『発進しなくていいのか?』
 そんな事を気にされるとは思っても見なかった。
 Generatorゲネラートアは完全に動作している。いつでも発進できる。
「アキラ、1つだけ注意しとくよ」
『何だよ』
「フェアは相当危ないんだ。もし、少しでも気分が悪くなったりしたらすぐに言って」
 そんなものではない。
 その手のプロでさえ、フェアを乗りこなせないのだ。ただの人であるアキラが簡単に乗れるはずがない。誰もがそう思うだろう。
 しかし、シュッツの直感が言っている。アキラは、乗れる。
 彼の直感は良く当たる。
 なぜだかはわからない。しかし、よく当たるのだ。
『お、おう』
 声の調子でわかったのだろうか?この危険な行為を。
「いくよ!アイン、ツヴァイ、発進!!」

「ぐ、ぐ、ぐ・・・」
 すさまじいGがかかる。シートに押しつぶされそうだ。
「何だよ、このGは」
 愚痴を言う余裕はあるようだ。
『大丈夫?』
 シュッツからの通信が入る。
「ちゃちなジェットコースターよりひどいGだな」
『その調子じゃ大丈夫だね』
 確かな手ごたえを感じているようだ。
『じゃあ、ぶっつけ本番。とんでもない事やってみようか』
 何を、と一瞬思う。
 とんでもない事というくらいなのだから、もしかすると、命のかけるほどの覚悟が必要になるかもしれない。
 そして、命をかけてもいいか、とも思う。
 ああいう者に今住んでいる所を荒らされ、記憶が確かなら、あれは両親をさらった者だ。
 許せない。
Andern naheエンダーン ナーエ
 聞いたことのないような響きの言葉だった。
 その声とともに今まで並行に飛行していた2機が黒い機体が先行し、その真後ろに白い機体が続く。
 さらに加速し、Gが増加する。
「く、くそぉ」
 体がシートに押さえつけられる。めり込みそうだ。
「うっ・・・」
 胃の中身が逆流する。
「あーーー」
 汚物がコクピットに散乱する。
 すっぱい臭いが充満する。その臭いでまた吐きそうになる。
「もう、吐いてたまるか・・・」
 口を押さえようとする。が、腕が動かない。Gで押さえつけられたままである。
 そして、1つのことに気付く。
 白い機体がこちらに接近している。
 激しくブザーが鳴り響く。
「なっ!シュッツ、どういう事だ!!」
『これが、とんでもない事だよ』
 シュッツの表情も必死になっている。
 しかし、異常な接近。このままでは両方ともだめになってしまう。
 何とか回避を、と思うが、どうにもできない。そもそもの操縦がわからないのだ。どうにかするとか以前の問題だ。
 通信回線とは別のモニターに次から次にと文字が浮かび上がる。
「プログラムが走っているのか?」
 最後の文字列にはこうあった。≪合体モード、起動≫
「合体?」
 合体というのならば、この異常な接近もうなづける。しかし、こんな戦闘機が合体するとは信じられないし、そんな技術があるとも思えない。だが、こんな機体に冗談が表示されるはずがない。それなら、この合体という文字は信じられることとなる。
「信じるしかないのか?」
『・・・ぼくも賭けなんだ。シミュレーションでは成功してるんだけどね』
 シュッツの声が飛び込んでくる。
 成功を天に祈る。
 どうにもできないのがじれったい。どうせ死ぬなら最後に少しでもあがきたいものだ。
 機体が揺れる。
 真後ろに白い機体が見える。どうやら、接続だけはできたようだ。
 ≪接続確認。変形開始≫そんな文字がモニターから読み取れた。
 それに伴い、コクピットに変化があった。目の前にあったパネルがなくなり、代わりにかなりの数のレバーが出てきた。めまぐるしくあたりが変わっていく。
「お、おい・・・どうなってるんだ、これ」
 答える暇もなさそうにシュッツは回線の向こうで、パネルを操作していた。
 突然、シートに押さえつけるようにあったGがなくなり、上に持ち上げられそうになる。外を見れば、地上にだんだんと近づいていくのが良くわかった。今、この機体は落下しているのだ。
 強い衝撃が走る。
 しかし、音が変だ。2機の戦闘機が墜落したような音ではない。何かこう、どこかで聞いたことのあるような音。
 ようやくブザーが鳴り止んだ。
 ≪変形完了。合体モード終了≫モニターにそう表示された。
『ど、どうにかなったね・・・』
 回線の向こうでシュッツが胸をなでおろしている。
「どうにかなったって、どういうことだよ!」
 おいてきぼりを食らっていたアキラが怒鳴り返す。
『後でちゃんと説明するよ。だから、今はあれを倒すことだけ考えて!』
 前を見ると、あの、町を壊した巨人がいた。
 倒さなくては。と思う。だが、周囲のレバーを握ってみてふと思い出す。
「・・・これどうやって操縦するんだ?」
『好きにやっていいよ。こっちでサポートするから』
「そんな事言われても!」
 レクチャーも何も受けてはいない。というより、さっき初めて乗ったのだ。わかるはずがない。
「でも、感じ的にこうだよなあ?」
 適当にレバーを動かす。
 前に進む。が、何かおかしい。どうも、車輪で動いているようではない。
「外部カメラってないのか?」
 その言葉に反応したのか、新しい画面が現れる。そこには、外からこちらを見たであろう映像が映し出されていた。
 位置的に自分がいる位置には、人形の巨大なロボットがいた。
 アキラは息を飲む。
 信じられないことが続きすぎる。あきれるのと同時に疲れがどっと出る。でも、今、参ってしまうわけには行かない。気力を振り絞る。
『できるだけ、その巨人に近づいて』
「ああ、わかった」
 1歩、1歩、ゆっくりと巨人に近づいていく。
『そこでストップ』
 レバーの操作をやめる。
「で、どうするんだ?」
 巨人が間近に見える。外部の映像からは後10メートルといった所だろうか。
 この距離からできることといえば、攻撃。
『右手は、今右手で持っているレバーから真下のレバーに持ち替えて。左手は、左斜め上から伸びてるレバーを持って』
 確認しながらそのレバーを探す。
「これでいいのか?」
『それでいいよ。で、両方とも振りぬくような感じで動かして、同時にこういって。『Doppelt Schockドッペルト ショック』』
「わかった」
 言われた通りに体を動かす。
「ドッペルト ショック!!」
 ロボットの両腕が同時に動き出す。右腕は横から、左腕は振り上げている。
 エネルギーが両腕に集中する。
 これだけの近距離ではずすこともなく、命中させる。
 両腕に集中していたエネルギーが巨人にたたきつけられ、光が発生する。
「うわぁ!!」
 コクピットが光に包まれる。
 そして、衝撃もコクピットに伝えられる。

 巨人は大破し、いまだ煙を上げている。
 その傍らにいるフェアタイディゲンは動かない。
 夕日が見える。
 しかし、この戦いは始まったばかりだ・・・。


あとがき

 ようやく、終わりました。第2章。
 でも・・・
 全然駄目だぁ〜。
 な〜んにもできていないよ。
 やっぱり博士がちゃんと出せてない。出番あったけど。
 これからこれから・・・

 3章は宣戦布告な話です。
 敵方の意思がわかるはずです。
 多分、ですけどね・・・
 最善は尽くします。

2003/03/18


動作確認 【Windows98SE : IE6.0 : 解像度 1024×768 : 文字サイズ 中】
Copyright 2002-2004 white rabbit. All rights reserved.