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3章  Kriegsbeginn -緒戦-

 あれから3日がたった。
 謎の巨人の解析が進められつつあった。
 しかし、アキラはまだ目覚めない。

 あの直後、アキラは気を失った。
 すぐさま病院に運ばれ、検査の結果、体に何の異常もなく、過労によるものだろうとの結果だった。
 あれほどの重力と戦ったのだ。倒れるほどの疲労がたまってもおかしくはない。
 体に何の異常もなかったのも奇跡に近い。潜在能力が高いのか、それともただ運が良かっただけなのか。それを知っているのは誰もいない。
 ただ運が良かっただけにしろ、鍛えればフェアに適応できるかもしれないという希望が出てきただけでも良かった。

 アキラの病室にはシュッツがいた。
 巻き込んだ責任がそうさせるのか、この3日ずっとこの病室にいて看病をしていた。
 いまだ目覚めないアキラを目の前に何を考えているのだろうか。巻き込んだという自責の念なのか、それとももっと別のことなのか。
 ただ、アキラが目覚めるのを待つ。
「う、ううん・・・」
 シュッツが身を乗り出す。
「ここは・・・」
「病院だよ」
 ようやく、アキラが目覚めた。
「俺、どうなったんだ?」
 体を起こそうとするが、シュッツが止める。
「まだ起きちゃだめだよ。ちょっと待ってて先生呼んでくるから」
 席を離れる。
 1人残されたアキラは途方にくれる。
「病院?どういうことだ・・・」
 記憶がない。
 黒い戦闘機に乗って、それで白いやつと合体して、巨人と敵対して・・・?その後の記憶がない。その後どうなったのか知りたい。
 1人残された病室でそんなことを考える。
 結末はわかっている。たぶん撃退したんだろう。
 そうしなければ、今ここでこうしてベットの上でいることなんてできない。そのどうしたかを一切覚えていない。
「元気そうだね、長谷川君?」
 突然話しかけられ、判断に戸惑う。
「・・・あんたは?」
 声のしたほうに顔を向ける。そこには白衣を着た男が立っていた。
「キミの担当医の柳沢って言うものだよ」
 手首を取り、心拍数を取っている。
「大丈夫だね」
「担当医?」
 体を無理に起こそうとする。
「あーだめだめ。君は安静にしとかなきゃ」
 額に人差し指を当てる。それだけで、起き上がれなくなる。
「君が寝てる間にいろいろと検査させてもらったけど、何にも異常ないから。気にしなくていいよ」
 カルテを片手に状況を知らせる。
「シュッツは?」
「あの子ならもうすぐここに来るよ」
 あの子という響きが気にかかる。まるで知り合いのような雰囲気だ。どういう関係なのかは考えてもわからない。指し図る材料もない。
「アキラ!」
 シュッツが病室に入ってくる。
「あの後、どうなったんだ?」
「あの後って?」
 まさか、アキラの記憶が欠落しているとは思わない。何のことを言っているのかわからなかった。
「ほら、合体した後だよ」
「覚えてないの?」
 柳沢の表情が険しくなる。
「記憶障害が出てるね」
 はっきりとそういいきった。
「ほかに覚えてないことは?」
 考えるが、思い当たることはない。
「ないけど」
「それなら、ショックによって記憶が1時的に飛んだんだろうね」
 さすがは医者だというべきか。
「シュッツ、説明してやってね」
「あ、はい」
 そうして、アキラは知りたかったことが知ることができた。何とか、あの巨人が倒せたことも、倒したすぐに自分が倒れたことも聞かされた。
「あの巨人、どうなったんだ?」
 シュッツと柳沢が顔を見合わせる。言うにいえない。そういう事情がある。
「それを言う前に、聞きたいことがあるんだ」
「何だよ」
「これから先、あの戦闘機に乗る気はある?」
「はあ?」
 一体何を言われているのか良くわからなかった。それでもわかったのは、まだ戦う気があるのかどうかを聞かれていることぐらいだ。
 戦う気があるのかと聞かれれば、あると答える。
 別の町があの横浜のような姿になるのを見たくない。それが防げるのなら、戦ってもいい。
「あるよ。あれに乗ってりゃ、戦えるだろ?」
「本当に?」
 深刻そうな表情で聞き返してくる。何がそんなに聞きたいのだろうか?
「ああ」
「たとえそれが国家機密でも?」
 一瞬耳を疑った。
 それでも、アキラの意志は変わらない。やると決めたら、やる。
 その道が引き返せないものだとしても。
「やるさ」
 シュッツも納得のいく返事だった。
「そっか。じゃあ、退院するのを待ってからがいいかな?」
「それがいいだろうね。あの人から直接聞いたほうがいい」
「いつ退院できるんですか?」
「もう1度検査をして、それから判断だね」
 アキラの知らぬところで話が進んでいる。
「後2、3日待ってくれないかな?」
「あ、ああ」
 了解せざる得ないような状況になっていた。
 話が聞けるならそれでいい、ともアキラは思っていたが。

 それから、2日がたった。
「よし、もう大丈夫だ。今日で退院っていう手続きにしようか」
「ありがとうございます」
 病室でアキラが診察を受けていた。
 後遺症も出ず、完全に異常なしと診断された。
「じゃあ、手続きしてくるから」
「ちょっと待った!」
 柳沢が病室を出ようとした所でアキラが止めた。
「なんだい?」
「あの人って誰です?」
 どうしても聞きたいことだった。誰に会いに行くのか、それくらいは知りたかった。
「浦辺恭也博士。その道の人には有名らしいけど」
「そうですか」
 そうして、柳沢を見送った。
 浦辺恭也という名前に聞き覚えがある。
 確か、ロボット工学の権威。エネルギー工学でも名を馳せている。ただ、ここ最近は学会でも姿を見せないという話を聞いている。
 そんな有名な人と会えるなんて、思っても見なかった。
 しかし、妙な噂も聞いている。
 今の科学では考えられないエネルギーを発見しただか、なんだか。その噂が出始めた頃、博士はもう学会には出ていなかった。真偽はわからない。
「アキラ?」
「シュッツ・・・」
 気付けばシュッツがたずねてきていた。
「今日退院だってよ」
「うん、さっき柳沢先生から聞いたよ」
「そうか。で、会わしてくれるんだろ。浦辺博士に」
「何で知ってるの!?」
 ずいぶんと大げさに驚いているように見えた。
「聞いたんだよ」
 それで、どうやら合点がいったようだった。
「そうか、そうだよね」
 納得しているシュッツの隣でアキラは退院の準備をしていた。たいして持っていくものはない。着の身着のまま、身内の人が見舞いに来た痕跡もなかった。
 こういうのは実に感慨深いものだ。
 離れて住んでいるとはいえ、見舞いもない。そもそも、入院しているのを知っているのかも謎だ。
 それでもいい、とアキラは思う。
 無理やり転がり込んだ居候の身だった。これ以上迷惑はかけたくない。
 そんなことを考えている間に片付いてしまった。
「後は、退院許可だけか」
「そんなに時間はかからないと思うよ」
 その時間すらわずらわしい。
 それから待つこと10分ほど。
 やっと柳沢が帰ってきた。
「OK。これで晴れて退院だ。また何があった時には来てね。ぼくが誠心誠意看病してあげるから」
 その笑顔は怖かった。何かをたくらんでいるような笑みだったからだ。
「い、いいです・・・」
 そういうのが精一杯だった。
「行こう、アキラ」
 アキラが固まったのを察ししたのか、外に出るのを促した。
「ああ」
 シュッツについて病室を出る。
「そんな事いわずにさ、またおいで」
 笑顔でアキラを病室から見送った。
「また、何回かは必ず来るだろうけど」
 遠ざかるアキラの後姿を見ながらつぶやいた。

 病院を出て1時間ほど歩いた。
 病み上がりの体には少々つらかったが、わかったことがある。ここが横浜ではないこと。そして、どうやら山が近いこと。
「つらい?」
「大丈夫だ。まだ歩ける」
 体はずいぶんと重い。それでも、久しぶりに運動できるのがうれしかった。
「もうすぐだから」
 目の前にとてつもなく大きい門が見えてきた。この奥に何があるのか想像がつかない。
 門の前に行くまで、まだしばらくかかった。
 その奥には台形のような形をした巨大な建物が建っていた。
「ようこそ。国立エネルギー第0研究所に」
「こ、国立だって!」
 驚きを隠せない。しかし、これでなぜ国家機密だといわれた理由がやっとわかったような気がしていた。
「そんなに驚かなくても」
 アキラのあまりの驚きようにシュッツまで驚いてしまった。
「とにかく中に入ろうか」
 シュッツが先導する。
 研究所の敷地は果てなく広かった。下手をすると迷いそうでもある。
 遠くで爆発音が聞こえる。
「な、なんだあ?」
 音のした方向に顔を向けると、煙が上がっていた。
「気にしなくてもいいよ。日常茶飯事だからね」
 先ほどと変わらぬ足取りでシュッツは進んでいく。アキラはとりあえずシュッツの後をついて行く事にした。こんな所ではぐれてしまえば迷うのは目に見えている。
 しかし、こんな爆発が日常茶飯事とはどういう所なのだろうか?
 謎である。
 そんなこんなで考えをめぐらしているうちに目の前にあった巨大な建物の中に入っていく。
 玄関ホールも広かったが、受付らしき所はない。完全に外部からの立ち入りがないようだ。そうでなければ受付カウンターくらいはあるだろう。
 奥に入っていくとエレベータが2機、構えていた。そのうちの1機に乗る。
 エレベータの階数パネルには14階までしなかったが、シュッツがそのパネルの下に微妙に開いていた隙間にカードを差し込み、すべてのボタンを押した。
 一度もエレベータの扉は開くことなく上っていく。階数表示は14階を越していた。
 階数表示が20階を指したとき、やっとエレベータが止まった。
「この先だよ」
 ようやく、浦辺恭也に会えると思うとドキドキした。ある種尊敬している人と会えるのだ。緊張して当たり前だ。
 エレベータの扉が開く。
「博士、連れてきました」
「忙しいところ悪かったの、シュッツ」
 白髪の小柄な白衣を着た壮年の男が部屋の奥から出てきた。
「それで、こいつがそうかい?」
 アキラのことをさしているのが良くわかる。
「はい」
 この男が浦辺恭也。
 じろじろとアキラの事を見ている。人を見透かすようなそんな目だった。
「君には悪いと思ったが、少々君の事を調べさせてもらったよ。横浜大学の1年生で、横浜在住。ハセガワアキラ君じゃな」
「あ、はい。そうです」
 緊張が声に出る。どうしても落ち着かない。
「そんなに硬くならんでもいい。君には長くここにいてもらうことになるだろうからな」
 長くここにいる。その言葉を聞いたとき、アキラの中で何かが騒いだ。危険というのかそれともただの思い違いか。思い違いだといいとは思うが、そうとも言い切れない。
「博士!!」
 研究員らしき人の一人から悲鳴に近い叫び声が響く。
「なんだ!?」
「電波ジャックです!全世界にこの放送と同様の放送が行われているようです!」
「その映像を出せ!」
「はい!」
 巨大なモニターに映像が映し出される。
「この放送の出先は?」
「それが、どうも地球上からではないようです」
「そうか」
 一人の男が画面に映し出されている。顔にはじみなマスクがつけられていた。それが、影を落とす印象を与えている。
『地球に住む人類に告ぐ』
 背筋が凍るような声だ。
『期限は5日。
 それまでに全てを我々に明け渡せ。
 そうでなければ・・・
 地球に住む人類よ、お前たちは滅ぶものと思え。
 見ただろう?パース、アーメダーバード、ヨコハマの惨状を。
 あの無残な惨状を再び見たくはないだろう?
 人類よ、選べ。
 服従か、滅亡を。』
 そこで放送は途切れた。
「宣戦布告じゃな」
 浦辺ははっきりとそういった。
「しかし、何のためにフェアがおると思う?のう、アキラ君?」
 突然の問いに戸惑うがそれでも何とか答えを出す。
「守るため・・・ですか?」
 これは確かシュッツが言っていた事だった。
「そうじゃ。察しがいい。こうなることはもともと想定しておったんでな。問題はその後なんじゃな」
「その後?」
 こちらは想像がつきそうでつかなかった。
「そう、問題はいかにして守るのか?その答えがフェアなんだよ。アキラ」
 いかにして守るのか?
 その答えが、フェア。つまり、戦うこと。
「シュッツ・・・」
 そう言い切るシュッツの姿には固い決意のようなものが見え隠れしていた。
「シュッツ、もうすぐ政府からの要請があるじゃろう。それに対応してくれないか?」
 まるで話題をそらすかのように浦辺がシュッツに行った。
「わかりました、博士」
 シュッツがその場から離れた。その場に残されているのはアキラと浦辺、2人だけだ。
「さて、アキラ君?」
「はい!?」
 やはり、どうしてもまだ緊張は抜けないらしい。声が張ったままになっている。
「ひとつ、言っておきたいことがあるんじゃ」
「・・・死ぬかもしれないってことですか?」
 覚悟はできているつもりだった。
「そうじゃあ、ない。いや・・・確かにそれもあるが、シュッツのことなんじゃ」
 意外な答えが返ってきた。
「シュッツですか?」
「あの子には隠していることがたくさんある。それを聞かないでおいてくれんじゃろうか?」
 いわれれば気づく。シュッツに謎めいた感じがあることを。
 浦辺はそれを聞くなという。浦辺なりのシュッツへの気遣いなのだろう。
「わかりました」
「すまんの、アキラ君」
 申し訳なさそうに浦辺がうなだれる。
「あいつと組むことになるんでしょう?俺がフェアに乗るんなら」
 わかりきっていた事だったがあえてそれを言った。
「そうじゃな・・・」
 言い聞かせるようにつぶやいた。

 5日後。
 人類は戦うことを選んだ。
 その決定の影にはフェアタイディゲンの存在が影響したことをここに記しておこう。
 破壊することができるなら、守ることはできる。
 守るための戦いが、今始まった。


あとがき

 やっと敵さんの登場です。
 結局何者かは良くわからなかったんですが・・・
 ここからようやく話が進みだします。
 宣戦布告もしましたし、人類も戦うことを決意したようです。
 現実世界でこんなことが起こったのならたまったものじゃないんですね。

 博士のフルネームとどんな人なのかがようやくわかりました。(え、わかんないって?すみません・・・)
 そして、柳沢君にも時々出てもらいます。

 さて4章ですが、少し訓練を受けたアキラの正式な出撃のお話。

 それでは、See You Again?

2003/04/29


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