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4章  Einsatz -出撃-

 神経を集中する。
 画面の端がチカチカ光る。通信が入ってきていた。
『2時方向より2機接近中』
「了解」
 敵機に迫る。
 あっけなく2機を追撃をする。
「終わりか?」
 安心したところに衝撃が走る。
「何?!」
『レーダーが追いつかなかった!上空から5機!!』
 上を見上げるとすぐそこに敵機が迫っていた。
「ちっ!!」
 タッチパネルに手を伸ばす。
「最適なのは・・・」
 武器を選び出す。
「これか!!Serien Schussゼーリエン シュス!」
 閃光が舞い飛ぶ。光が敵を貫いていった。
 一瞬にして敵機の姿が消し飛んだ。吹っ飛んだ、というより掻き消えたといった方がいいだろう。
「後は?」
『今のところはいないよ』
 事実、センサーには何も反応はなかった。
『よし、テスト終了だ』
 2人の元へ浦辺の声が伝わる。
『2人とも、帰ってきなさい。別々にな』
「了解」
 アキラとしても博士の意図はわかっているつもりだった。
 シュッツのサポートを受けずに帰還できるようにならなければならない。それはわかっているつもりだ。
 だけど、早々できるものでもない。

 アキラは完全に初心者だった。
 戦闘機の操縦はおろか、軽飛行機の操縦もできなかった。まあ、つい最近まで一般人だったのだから当然のことだろう。
 しかし、それでは大いに問題があったのだ。
 当面、アインを操縦できるのはアキラしかいない。何の操縦もできないからといってそのままにしておくわけにもいかなかった。
 あの日からもう3ヶ月も経つ。
 敵の攻撃は未だに無かった。そろそろ世間の中に反発やそういうものが飛び交う頃だろう。
 それこそが狙い目なのだ、と浦辺は言う。
 騒ぎが沈静化を迎える頃に攻撃することによって更なる恐怖を人類に植えつけることができるのだという。
 いつでも攻撃されるという恐怖心を。
 3ヶ月の間わかったことといえば、敵が使用していた機器は現在の科学水準では作ることのできないオーバーテクノロジーの塊であるということくらいだった。
 そして、それに打ち勝つことができるのはこのフェアタイディゲンだけということ。
 他の国にはこのようなことが想定できなかったのか、まったくこういった類の装置が存在しなかったのだ。
 すなわち、世界の人々が今頼れるのはフェアタイディゲンだけであり、敵の狙いもまずここからだろうとすでに見当はついていた。

 アキラは焦っていた。
 何度シミュレートしようと今の今まで手動でまともに発進、離陸、合体、着陸、停止が出来たためしがなかった。
 結局、シュッツのサポートを借りて何とかアインを飛ばしているに過ぎなかった。
 それ以外は何とかなった。今ではアインをうまく操縦することも出来る。合体のプロセスさえどうにかなればほぼ完璧にフェアタイディゲンを動かすことが出来たのだった。
 もし。もしもシュッツがいない状態で発進や着陸をしなければならなかったらどうなるのかと思うとゾッとする。
 しかも、この状況は決して無いとは言い切れない。
 不慮の事故でシュッツが操縦不能に陥ったらどうするのか?
 考え出せばキリが無い。
 だから、不安に陥るし、気持ちに焦りも生まれる。
 焦ったって、自分の技量が上がるわけでもない。アキラもそれをわかっているつもりでいた。
 しかし、実際は焦るものだ。
 自分の両肩に人類の存続がかかっている。そう考えれば考えるほど焦りは悪循環を生み出していく。

『アキラ』
 分離した直後、シュッツより通信が入る。
『着陸のタイミングは・・・』
「わかってるよ。何度もシミュレーションしたんだ。嫌ってくらい聴いている」
 何度聞いたかわからないシミュレーションソフトの機械音声。そのセリフのほとんどを覚えていた。手順も何もかも覚えてはいる。
「ほぼ水平になるように。だろ?」
 頭の中ではわかっている。しかし、それを実行するとなると思うようにいかないのだ。
「今日こそは、だな・・・」
 慎重に滑走路に近づいていく。
 減速をしながら、なおかつ進入角度にも気を配らなければならなかった。浅すぎれば着陸はできない。しかし、深すぎればお陀仏だった。
 深すぎたことは一度となかった。
 いつも浅すぎるのだ。
「シュッツ、やばかったら・・・頼む。」
『わかってる』
 失敗すればシュッツに機体操縦を委ねるのはいつものことだった。
「アイン、着陸します」
 管制塔に通信を入れる。
『了解』
 着陸態勢に入る。
「あと少しなんだよ・・・」
 操縦桿を握り締める。
「1度深く・・・」
 深く集中している。極限にまでといってもいいだろう。
 この1回が成功すれば後は感覚でどうにかなる。アキラはそれだけの運動神経というか、反射神経の持ち主なのだ。
 ゆっくりと、滑走路に近づいていく。
 スイッチをいくつか押す。
 ランディングのための車輪がすべて出る。
「いくぜっ!」
 車輪が滑走路に着く。角度が浅ければこの地点で浮き上がってしまう。
 今回は・・・
 浮き上がらなかった。
 ここで安心していけない。停止するまでは着陸が成功したとはいえないからだ。
 逆噴射をかける。
 急激に減速がかかる。
 そして、止まった。
「よっしゃ!!」
 やっと、まともに成功したのだった。

 格納庫に戻ったアキラに伝えられたのは浦辺からの呼び出しだった。
 着替えるのも早々に司令室へ向かう。
「何ですか、浦辺博士?」
「祝いの言葉でも、と思ったんだが・・・」
 照れくさいのか、頭をかいていた。
「必要なさそうだな?」
「まあ・・・」
 アキラも申し訳なさそうに頬をかいている。
「祝ってくださるなら完璧に操縦ができるようになってからにしてください」
「それもそうじゃな」
 浦辺はうなり、そのまま考え込んでしまう。
「それだけですか?」
 それだけで呼び出されてはたまったものじゃない。と内心思っているアキラであった。
 反応がなければそのまま訓練の続きをやりに行くつもりだった。
「いや、少し話したいことがあっての?」
 先ほどとは打って変わってまじめな表情になる。
「はい」
 アキラもそれにつられて真剣な面持ちになる。
「・・・もうすぐ、あやつらが襲ってくるじゃろう。それが、今なのか、1時間後なのか、それとも1日後なのかはわからぬが必ず来る。
 じゃが、フェアは完璧ではないんじゃ」
「・・・わかっています」
 この完璧という言葉、武装に関してというわけではない。もっと別の事に関しての言葉だった。
「そして、多分それができないと勝てない」
「そうじゃな」
 それはつまり、今のフェアには欠点があると言っているのと同じだった。その欠点が何なのか今ははっきりとしないが、2人にはわかっていた。
「その弱点がばれないうちに俺が何とかしないといけないんですよね」
 アキラが大きなため息をつく。
「できますかね?」
「それは、わからんよ。君の努力しだいじゃな」
「苦手なんですよね・・・ああいうの」
「わしらとしてももう少し簡略化できるように研究を進めとる」
「お願いします。あいつのためにも」
 突然、司令室が赤く染まる。同時にサイレンが鳴り響く。
「何事じゃ!!」
「来ました!あいつらです!!」
 スクリーンに一気に映し出される。
「・・・いきます!」
 アキラは走り出した。格納庫に向けて一目散に。
「場所は?」
「東京湾上空です。現在、避難活動が行われています」
 場所が悪いといえば悪かった。住民を巻き添えにするわけにはいかない。
 東京は人が多い。
 死傷者が出ないとも言い切れない。
「・・・急げよ」
 そうつぶやく浦辺であった。

「シュッツは?」
「先に出ています!!」
 当然といえば当然だろう。浦辺の元に呼び出されていたアキラとは違い、シュッツは先ほどまでこの格納庫にいたのだから。
「わかった。アイン、発進する!」
 計器のスイッチを入れ、発進準備を進める。
 このときだけはすっかり忘れていた。自分がまともに発進できないことを。
 徐々に機体が動き出し、滑走路へと出る。
 その上空では、すでに発進していたツヴァイが旋廻行動を繰り返していた。
 アキラは余計なことを考えていなかった。ただ、発進する。いや、人々を救うことだけを考えていた。その結果は、すばらしかった。
「い、いけるじゃねーか・・・」
 自力で離陸することに成功したのだ。これで、離着陸の両方ができるようになったといってもいい。
「おめでとうって言ったほうかいいかな?」
 シュッツから茶化すような通信が入る。しかし、離着陸が出来るようになったのは大きな進歩だ。
「余計なお世話だ!!で、正確な場所は?」
 妙なテレを必死に隠しているようにも見える。
「東京湾って大雑把な情報しかないね。いってみればわかるよ」
 可能な限りの速度で東京湾を目指す。

「あいつか・・・」
 東京湾に居座っていたそれはいつか横浜で見た機体と酷似していた。
Unklar Maschineウンクラール マシーネ確認しました、博士」
 シュッツがすかさず浦辺のいる研究所に通信を入れる。
『こちらでも確認した。様子はどうじゃ?』
 しばらく様子を見るが、特にこれといった動きは無い。
「さしたる動きは無しってところです。俺らが来るのを待ってたんじゃないんですかね?」
 アキラは思い付きでモノを言っていた。確かにそういう雰囲気ではあるのだが、確証は無い。
『その可能性もありうるの。相手もこちらの戦力を知りたいじゃろうから』
「そういうもんなんですかねえ?」
 半信半疑であることには違いない。こちらの戦力といってもたかが知れている。相手もそれを知っているはずだ。そのくせ、待ち伏せ。これは完全にフェアを狙ってきているといっても過言ではない。
『こちらも相手の戦力を知っておいて損は無いぞ?』
「う〜ん、確かに」
 浦辺の意見ももっともである。相手とは違ってこちらはほとんどデータがない状態だ。データが採取できたのも先の横浜での戦闘だけである。
Unklar Maschineウンクラール マシーネに熱源反応!!」
 アキラと浦辺の会話にシュッツの声が割り込む。
「・・・動くか?」
「こちらに気づいたのは確かだと思う」
 熱源反応が出たということは、いつ攻撃してきてもおかしく無い状態になっている。相手に動きが見られればそこから戦闘開始だ。
「・・・なあ、シュッツ。その『うんくらーる ましーね』って呼び方面倒くさくないか?」
 突然何を言うのかと思えば、そんなことだった。
「え?」
 戸惑いが隠せない。
「頭文字とって『UM』でいいと思うけど」
 確かにちょっと名称としては長いかもしれないが、そこまで短くしてしまってもいいものなのかどうか。
『ワシもそれに賛成じゃな』
「博士?」
『もともとワシらのつけたコードネームじゃからな。ワシらのほうで勝手に縮めても誰も咎めはせん。名前は短いのに越したことはないしの?』
「短すぎるのも、問題あると思いますが・・・」
「ま、原形一応とどめてるからいいんじゃないか?」
 ノー天気に対応する。これだからこそアキラだといえるのだが。
「アキラ・・・」
 明らかにあきれていた。シュッツもこれ以上反論する気はない。
 アキラがこういう対応をするということはよくわかっていたからだ。
 シュッツがため息をついた瞬間、けたたましくブザーが鳴った。
「何だ!?」
 あわててアキラも確認する。モニターの向こうにはUMがかすかに振動を始めていた。
「あのUM動く?」
 そう、間違いなくまもなく動くだろう。
「シュッツ!!」
 アキラが叫ぶ。
「わかってる!ちょっとまってて!」
 一気にあわただしく動き始める。
 忙しくシュッツはパネルのキーをたたく。シュッツ側のモニターの端にはものすごい量のソースが流れていた。
「今は一応自動で行くけど・・・大丈夫?」
「自動って言うんならな」
 アキラの表情は微妙に引きつっていた。
「戦いながらだと手動なんだよな・・・」
 ため息混じりにつぶやく。
 なにやらどうも苦手なことでもやるらしい。
「大丈夫。これ以上の変形はしないよ。今日はこの1度きりにするから」
 なおもキーをたたいている。ソースの流れる速度はさらに速くなっていた。
「ナーエだけでやってしまえって事か?」
 アキラは少しだけ低くうなる。シュッツがたくらんでいることが少しばかりだが見えてきたようだ。
「そういうことだよ。他に意味ある?」
「・・・お前って微妙に嫌味だよな」
 続けざまにため息を漏らす。
「ストレートだっていってよ」
 さすがのシュッツも嫌味とは言われたくなかったのだろう。
「ま、仕方がないよな。フェルンの方は無理だからな」
「あれはアキラの努力しだいでしょ?」
 一瞬言葉に詰まる。
「オレにはお前みたいな処理能力はないんだよ!」
 吐き出すように言い捨てた言葉だった。シュッツはシュッツで完全に無視を決め込んでいる。
 いつの間にか、キーをたたく音はなくなっていた。
「よし、これで大丈夫。いつでもいけるよ」
 ソースは流れ終わり、シュッツ側のモニターには≪合体準備完了≫の文字が浮かび上がっていた。
「うっし、Andern naheエンダーン ナーエ!!」
 アキラの声をきっかけにして、アインが加速を始める。それに伴って、ツヴァイも加速を始めた。
 なんとなく、最初に乗ったときを思い出す。
 あの時はこの加速についていけなくて、胃の中身をすべて戻したものだった。
 今はそういうことはない。
 3ヶ月という期間は偉大だ。できなかったことを今では平気でできるようになっている。アインの操縦がその際たるものだろう。
 あの時、シュッツにあわなければ、こんな経験一生味わなかっただろう、と今更ながら思うアキラだった。
 モニターには≪合体モード。起動≫の赤い文字が浮かんでいた。
 オートだからはっきりいってやる事はない。
 やらなくてはならないことが山積みなのはシュッツの方だった。
 再びパネルのキーをたたく音がツヴァイの中に響いている。
「・・・確かにこれはきついかな?」
 処理しなければならない情報量にげんなりとするシュッツだった。
 振動が2機を襲う。
 モニターには≪接続確認、変形開始≫の文字が浮かぶ。
 コクピットが変形を開始する。
 横にかかっていたGが縦に変化する。
 ≪変形完了。合体モード終了≫モニターにはそう表示されていた。
「よっしゃ、やるか」
 気合がはいる。
「もう、アキラ!Flugelフリューゲル出して!これじゃあ落ちちゃうよ!」
 真下は海だ。自然落下してしまえば海に落ちてしまう。
「おう、悪い悪い。Flugelフリューゲル展開!」
 アキラの声とともにフェアの背中に翼が生える。
 落下は止まり、その場に停止した。
 どうやら、なにやら力場が展開したらしい。重力に逆らって停止するとはただ事ではない。
「・・・動く前に落とすか?」
「動くの待つ必要ないと思うけど?」
 それはそうだ。対応が遅れて町を破壊されるより、少々卑怯でも先制攻撃を仕掛けたほうが被害は少なくてすむ。
 むしろそうすべきだ。
「そうだよな」
 腕を組んで納得するようにうなづいた。
「よし、それじゃあいくぜ!『Doppelt Schockドッペルト ショック』!!!」
 フェアの両腕にエネルギーが集中する。
 振りぬく瞬間、動いたように見えた。しかし、避けられるようなことはない。
Doppelt Schockドッペルト ショック
 この技はフェアの持つ技の中で、最大の攻撃力を誇る。掠めただけでそれなりのダメージを与えることが出来、命中すれば一撃必殺になる。
 今回は一撃で追撃することが出来た。
「これでいいのか?今回」
 あまりにもあっさりとかたがつきすぎたようにも思えるからだ。
「いいんだよ」
 あっさり終わったからといって、罠さえなければ問題はない。
 今は罠を張っている状態ではないだろう。
「帰ろうか?」
 撃墜すればやることがなくなってしまうのが戦闘班である。
「そうだな」
 しかし、戦闘班がやることがないというのはいいことだ。
 これからどうなるのかは、神のみぞ知るのか・・・


あとがき

 4章終了です。
 なんか、微妙な感じですが勘弁してください。

 あー、今回は何がやりたかったんでしょうか、敵さんは。
 まったく持って不明です。
 それはその内わかるかなぁ?なんてね。
 それもこれも私次第ですよね・・・。はい、がんばります。
 全30話のつもりなのでゆっくり行くつもりです。(ああ、あいまい表現ばかりですみません・・・)

 今回は何が“出撃”なんだよ!!って話になってしまいました。
 正式な初戦だったってことで勘弁してください。
 これからはタイトルに沿った内容の話にしていきます・・・

 続きまして5章なんですが、アキラ君の訓練模様とフェアのもう1つの形態の話です。

 それでは、See You Again?

2003/04/29


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