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5章  Drill -訓練-

 あれから、何度かの襲撃があった。
 出現はすべて日本国内。明らかにフェアタイディゲンを狙ったものだといえた。
 敵もフェアが侵略を妨害する可能性をわかっているための処置だといえるだろう。
 それらは難なく撃退することが出来た。
 しかし、問題はまだまだある。
 今日の訓練もその問題を1つでも改善しようとするためのものだった。

『これから合体訓練を始める。2人とも準備はいいな!』
 司令室からコクピットに指示が伝わる。
「はい!」
「俺も大丈夫です」
 シュッツはどっしりと構えているようだったが、アキラの様子がどうもおかしい。
 しきりにモニターとタッチパネルを気にしているようだ。
「アキラ、本当に補助なくても大丈夫?」
「大丈夫だよ。大分操作性もよくなってるし、オートだって効くんだから」
 心なしか、声に覇気がなくなっている。
「大体、お前は心配しすぎなんだよ。もう少し任せてみてもいいだろ?」
「でも・・・」
「他人の心配ばっかりじゃ、体壊すぞ」
 そういいきったアキラにいつもの調子が戻っていた。
 しかし、何故ここまでシュッツが心配し、他の者も緊張しているのか?
 その答えは実に簡単だった。
 新しい実験。
 そのためにアキラが慣れないバック処理をし、シュッツが何もしていなかった。
『それでは、訓練開始!』
Andern fernエンダーン フェルン!!」
 浦辺の声とともに、シュッツが叫んだ。
 その瞬間から、アキラの手が忙しそうに動き出した。
 的確に、正確に、パネルのキーを押していく。
 いつもなら、これはシュッツがやっている作業だった。しかし、それにも理由がある。
 そもそも、今まで合体したことがあるのはナーエだけであるというのが理由だった。フェルンには1度も合体していない。

 フェアタイディゲンには、2パターンの合体形態がある。
 1つは、近接戦闘が専門の『ナーエ』
 もう1つは、中・遠距離戦闘が専門の『フェルン』
 この2つの合体パターンはフェアのもととなる2機の戦闘機の合体順番が重要である。
 上がアインで下がツヴァイなら『ナーエ』、上がツヴァイでしたがアインなら『フェルン』となる。
 それぞれの形態をメインで操縦するのは、合体した際に上についた機体のパイロットである。下の機体のパイロットは主に武器管制や索敵を担当している。

 合体は問題なく完了した。
「な、補助なしでも大丈夫だっただろ?」
 シュッツの心配は不要だといわんばかりに言い切った。
「そうだけど・・・」
 シュッツとしてはまだまだ心配なところがあるのだろう。
「初めの頃より簡単になってるんだ。これくらい出来ないとまずいだろう」
 ふう、と大きくため息をついた。
 確かにアキラが始めてフェアに乗った時と比べれば操作はずいぶんと簡単になっていた。
 そして、アキラ自身も相当な訓練をつんでいた。
 ずっとシュッツにばかり頼っていられないのはアキラ自身よくわかっていることだった。
『安心しているところ悪いんじゃが、UMの出現を確認したんじゃ』
 浦辺の声が割り込んでくる。
「場所は?」
 シュッツが確認を取る。
『静岡市内に反応ありとなっておる』
 場所的にはずいぶんと近い。
「それなら・・・」
 それを聞いたシュッツがなにやら思い立ったようだ。
「ここから狙うのはちょっと無理じゃないのか?今回のフェルンへの合体はテストのようなものだろ?さっき確認したけど、最大射程の武装に弾入ってなかったぜ?」
 ここより狙うのはほぼ不可能だろう。
「そ、そうなの?」
 アキラの発言でシュッツが唖然としてしまう。
「ちょっと待てよ、もう一回確認するから・・・・・・やっぱり入ってないな」
 アキラが冷静に状況を伝える。
 その報告を聞いてシュッツはがっくりと肩を落とした。
「今日こそ戦えると思ったのに・・・」
 そんなシュッツの態度を逐一見ていたアキラは吹き出した。
「あ!何がおかしいんだよ!!」
「そんな反応しなくたっていいだろ?今日出たやつを倒したってまだまだ出てくるんだからな。出番はいつでもあるさ」
 あくまでクールに対応しているアキラである。
 アキラのそんな対応にふてくされるシュッツだった。
「とにかく、分離していったほうがよさそうだな」
「うん、そうだね。Trennenトレンネン!」
 フェルンがアインとツヴァイに分離する。
 そして、そのまま現場へと向かっていった。

「ここ。で、いい訳?」
 アキラは目を疑った。
 確かに煙は上がっている。破壊行動もあったらしい。しかし、そこに目標とするUMはいなかった。いや、見つけられなかったというべきか。
 破壊行為は今も続いている。
「博士、反応はどうです?」
 フェアに備え付けられているセンサーはUMがそこにいることを示している。だが、まったく姿が確認できない。
 そこで、備え付けのセンサーよりも強力なセンサーがある研究所に確認をとることにしたのだ。
『確かにそこにおる。しかしな、こちらからも姿が確認できんのじゃ』
 センサーには確かに反応はあるのだが、姿が見えない。
「・・・新しく煙が上がっているあたり、殴りに行ってみないか?」
「へ?」
 突然の、とんでもない提案に素っ頓狂な声を上げてしまう。
「いやさ、ただモニターに映らないだけだとかあるかもしれないだろ?」
「・・・そうか、そうだよね。やってみよう!」
「そういうことなら・・・Andern naheエンダーン ナーエ!!」
 アキラの声とともに合体プロセスが開始される。
 何度も合体をしてきたためか、すっかり手馴れたようだ。
 あっという間に合体は完了する。
「さてと・・・」
 アキラは辺りを見回す。
 今、破壊されているところを確認するためだ。
「あすこか!」
 煙が間近に上がっているのを確認し、すぐさまそこに向かう。
 振りかぶるモーションに入る。
 振り切ろうとしたとき、強い衝撃が走った。
「当たりだ」
 衝撃が起こったあたりにノイズが走る。
「光化学式迷彩!?」
「みたいだな」
 ショックで装置に影響が出たのか、徐々にその姿が浮かび上がる。
 やはり、といえよう。UMだった。
「ま、早々にぶっ壊しましょうか?」
「できるだけ原型をとどめてね」
「O.K」
 UMに迫る。
Flamme Speerフランメ シュペーア!!」
 右腕に仕込まれていた刃が飛び出し、膜のようなものに右腕が包まれる。まるでその腕は、炎に包まれた槍のように見える。
 その膜に包まれた腕をUMに突き出した。
 UMの装甲を易々と貫く。
 そして、ゆっくりと腕を引き抜いた。
 胴体に大穴を開けたUMはそのまま動きを止める。

 それから数日後。
 相変わらず訓練は続いている。
「それで?この間のどうだったんだ?」
「あれほど巨大なのははじめて見たけど、光化学式迷彩で間違いないみたい」
「何の目的でああいうの持ってきたんだろうな。俺らを壊すのが先じゃなかったのか?」
「向こうも向こうで何かあるんだろうね。こっちだけを相手にするわけにもいかないんじゃない?」
 こう話している間も訓練をしている最中だ。
 最近はフェルンの形態を中心とした訓練が続いている。もう少しこれが続けば次は手動合体の訓練になっていくだろう。
 こうなれば、戦略に幅が増える。
「今度は何をしでかすつもりなんだ?」
「さあね」
 敵の動向が気にかかるらしい。
 できる限り、先手を打たなければ防戦一方となってしまう。
「どこから仕掛けてくるのかわかればな」
「それは仕方がないよ。博士のほうも調べてるみたいだけど、はっきりしないみたいだしね」
「時間がかかるな」
「うん」
「・・・覚悟を決めるか」
 ボソリとつぶやいた。
「何か言った?」
「いや?何も」
 呟きを隠すかのようにしらばっくれる。
 覚悟を決める。
 これがどういうことなのか、シュッツは知るよしもなかった。


あとがき

 あくまで訓練が中心の話です。
 敵にも少し動きもありましたが・・・
 フェルンの活躍はまた今度。ナーエとは違った攻撃の幅があるので、戦略を考えるのは楽しいかも。
 アキラの覚悟は何なのか。これは次回判明(のつもり)。

 次回タイトルは『Schule −学校−』
 つまり、アキラが大学生であるということを忘れないでくださいということです。
 ちょっと敵サイドの話も入れてみようかなとも思っています。
 敵の名称も確定させておかなければならないし、これはもっと早く出しておいたらよかったかなぁ、と今になって反省・・・
 はあ・・・
 弱気にならずにがんばります。

 それでは、See You Agein?

2004/04/25


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