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6章  Schule -学校-

 浦辺博士の執務室前。決心を決めかねているアキラがうろうろとしていた。
 入らなくてはならない。
 アキラ自身それはわかっていた。
「失礼します」
 心を決めて扉をノックする。
「ん?どうしたんじゃねアキラ君」
 扉を開けたアキラを快く招き入れる。
「博士にお願いがあるんです」
 余計な事は無しで早々に話を切り出した。
「わしにできることならなんでもいってくれ」
「一日だけでいいから、横浜に帰っていいですか?」
 横浜といえば、アキラの出身地だった。
 何故、そこに戻りたいのか?それには理由があった。
「横浜にか?」
「はい。」
「どうしてじゃ?」
「休学届けを出しに行こうと思いまして」
「ほう?」
「このままじゃ、おちおち学校にいってられませんしね。落ち着くまで休学しておこうと思いまして」
「そうじゃったな。君は大学生じゃった。」
 浦辺もその事を忘れていたらしい。
「その事を叔母さん達にも言っておかなきゃいけませんから」
 だから丸一日という時間が欲しかったのだ。
「わかった。いいじゃろう。但し・・・」
 条件をつける。
 何を条件にするのか、アキラはわかってなかった。
「必ず連絡は取れるようにな。」
「連絡ですか。」
 何を言われるかと思ったら、ごく基本的な事だった。
「そうじゃ。いつUMは現れるかわからんからな。」
 それはもっともな事だった。
「一応携帯は持って行きますけど、通じるかどうかは保証できませんよ。」
 近頃のUMの破壊行動のおかげで通話エリアがずいぶんと狭くなっていた。
 日本最初の被害地、横浜の復興は進んではいたものの、完璧とは言えなかった。
 アキラ自身、横浜に帰るのは、あの初めてフェアに乗った時以来である。
 横浜の様子など、知るよしもなかった。
「わかっておるよ。」
 そういいながら、浦辺は引出しの中から時計のようなものを取り出した。
「そのためにこいつを作ったんじゃから」
「なんですか、それ?」
「通信機じゃよ。強力なな」
 言い終わるとその物をアキラに向かって投げた。
 アキラもそれをすんなりと受け取った。
「形は時計ですね」
「もちろん、時計としての機能もある。
 コールが鳴ってからヒューズを押せば通信できる。そいつ自身が発信機にもなっておっての。こちらからアキラ君の位置を割り出すことも可能じゃて」
「へぇ」
 感心しながらその通信機を身につける。
「ヒューズを引けばこの研究所に直通で連絡ができる」
「覚えておきます。」
 他にも機能がありそうだと思うが、今聞いても覚えておけないと思った。
「それで、何時行くんじゃ?」
 肝心な事を言ってなかった。
「できるだけ早く行っておきたいんで、博士がよければ明日行こうと思ってます」
「そうか。それじゃあ明日行ってきなさい。」
 特にこれといった特殊訓練を設定している訳ではなかった。そういうことなら、快く送り出せる。
「しかし。どうしてじゃ?こんな時期に」
 浦辺の疑問ももっともだった。もっと早い時期に休学届けを出す事も可能だったはずだ。
「何て言うんでしょうか?」
 アキラは言葉を選んでいるようだった。
「自分なりのけじめってやつです。」
 もう二度と大学にはいけないかもしれない。
 そんな予感がアキラにはあったのかも知れなかった。
「そうか・・・。スマンな、君を巻き込んでしまって。」
 申し訳なさそうにうなだれる。
 アキラの決意に浦辺は何を思ったのだろうか?
「博士が悪いんじゃないですよ。オレは望んでここにいるんですから。」
 そうキッパリと言い切る。
 確かにアキラには逃れようと思えば逃れられる機会があった。それでも、こうして今研究所にいるのはアキラ自身の意志に他ならない。
「じゃあ博士、明日の朝から横浜に行きますから。シュッツにはオレの方から言っておきます。」
「わかった。気をつけてな。」
「わかってます。何かあったらすぐに連絡しますから。
 それじゃあ、失礼します。」
 そういって、アキラは執務室を後にした。

「そういう訳で、明日横浜に帰る事にしたから」
 あらかたの説明をし終えたアキラはそう言葉を括った。
「また、唐突だね・・・。アキラらしいっていったらそれまでだけど。」
 隣で聞いていたシュッツは呆れてため息をつく。
 唐突な話だった。フェルンへの合体訓練中にUMが静岡を襲撃してからあまり日は経っていなかった。
 それでもアキラが帰る事を決めたのには理由がある。
 それは、覚悟。
 軽い気持ちじゃない真剣な気持ちでいるための。そして、今ここから逃げ出さないためにアキラ自身が自ら戒めるためのモノ。
「帰るったって日帰りだぜ?」
 決意を決めたという悲壮な素振りは微塵も見せない。
「そうなの?」
 シュッツもシュッツで何を考えているのだろうか?皆目検討もつかない。
「あのなぁ、大学に休学届け出しに行くだけなんだから・・・って、お前さっきの話聞いてたのか?」
「聞いてたよ!・・・そういえばそうだったっけ?」
 相変わらず的を得ない答えである。
 アキラは半分諦め気味にため息をついた。
「まあ、そういうことだ。明日オレはいないからな。忘れるなよ。」
「わかったよ。」
 言うだけ言って、アキラは自分の部屋に戻った。

 そして、翌日。
 アキラは新幹線の車内にいた。
 ざっと調べたところ、新幹線なら横浜までいけるようだったからだ。
 肝心のアキラの表情は暗かった。大学に休学届けを出しに行くだけならここまで暗くはならない。原因はもう一つの用にあった。
「あー、気が滅入るなぁ・・・」
 頭をクシャクシャとかく。
「叔母さんはともかく、叔父さんに会うのはやだなぁ・・・」
 それでも、会わなくちゃならないのはよくわかっていた。
 大学を休学するのだ。それなりの理由は追求されるだろう。
「ああ、もう諦めよう。いくらあがいたって会わなきゃならないのは会わなきゃならないんだから。」
 一応踏ん切りはついたらしい。
 アキラを乗せた新幹線は横浜を目指す。

 横浜は、だいぶん復興していたようだった。
 あの襲撃からもう3ヵ月は経っている。
「ボロボロには違いないか。」
 それがアキラが横浜を見た正直な感想だった。
(でも・・・)
 心の中は複雑だ。
 あの時、シュッツが来なければ今ここに自分が立っていられたか?それは定かではない。
 それ以前に、何故自分があんな行動に出たのかはっきり覚えていなかった。
「腹が立ってたのは確かだな。」
 改めて振り返ってそう思う。だからといって理由が思い出せないのは、ふが落ちない。
「考えても仕方がないか。先に大学だな。」
 一ヵ所であまり長居はできない。
 行動を開始する。
 まず最初に向かったのは宣言通り大学だった。
 学生課に向かい、事情を説明する。少し待たされ、現れたのはジャージを着た40代くらいのおじさんだった。
「今まで何やってたんだ?長谷川。」
 その男はアキラの事を知っているようだ。
「先生!?」
 思わぬ人が現れて驚く。
 その人はアキラにとって恩師だった。横浜大学助教授九鬼大介。
「久しぶりに学校に来たと思えば休学届けときたか。何がやりたいんだ、お前は。」
「まあ、色々ありまして。」
 アキラは言葉を濁す。喋ってしまう訳にはいかない。
「何かでっかい隠し事があるな?」
 内心ドキリとする。外れではないからだ。
「当たりか。まあ、立ち話もなんだ、オレの研究室に来ないか?」
「ちょっと待ってもらえますか?手続き終わらさないと・・・」
 あくまで今日学校にきた目的は休学届けを出すことだからだ。
「はい、これでOKですね。あなたが復学願を出される事を祈ってますよ。」
 そのセリフが物語っているのは復学する者が少ないということだ。今のところ、アキラは事が統べて終われば復学するつもりでいた。
「じゃ、オレのところに来れるな。」
 そのまま、無理矢理といった感じで九鬼研究室に連行されてしまった。
「勘弁してくださいよ。九鬼先生。」
 強制的に連行され、そのまま椅子に座らされてしまった。
「で、長谷川?何を隠してる。」
 秘密もへったくれもないらしい。とりあえず喋れと強要していた。
「先生相手でも喋れませんよ。」
 アキラも頑として話そうとはしない。決して、浦辺と約束している訳ではない。アキラ個人の判断だ。
「じゃあ、お前今どこにいるんだ?横浜にいるわけじゃないんだろ?」
 この九鬼という男、なかなか鋭かった。
「静岡です。」
「静岡ぁ?そんな所で何やってるんだ?」
「それは・・・」
 正直、九鬼にだけは話してもいいような気がした。それでも、アキラは話そうとはしなかった。
 巻き込みそうな気がしたからた゛。
 後悔しないためにも、巻き込みたくはなかった。
「それだけは勘弁してくださいよ。」
「まあ、お前の性格だ。巻き込みたくないって言うのが真相だな。」
 軽く笑っていた。が、イヤミではない。
「わかってるなら聞かないで下さい。」
「そういうな。オレだって教え子が何やってるか知りたいのさ。」
 その貪欲な好奇心に敬意を評したくなる。
「簡単に教えれるモノなら、すぐにでも教えてますよ。」
 少し呆れながらそう答えた。
「おいおい。教えられないモノってなんだよ。」
「だから、教えられないんです!」
 完全に堂々巡りになろうとしていた。しかし、それはアキラの呟きによって一瞬のうちに消えてしまった。
「人類の命運かかってるんだから。」
「なんだって?」
 九鬼は一瞬耳を疑った。空耳かとも思った。しかし、確かにその言葉はアキラの口からもたらされたモノだった。
「まさか、お前・・・」
 一つの想像が九鬼の頭を掠める。その想像とは・・・
「それ以上の事は先生の想像に任せますよ。」
 シラを切るような形で席を立った。
「待て!長谷川!!」
 アキラはスッと退室した。
「アイツがあのロボットのパイロット?」
 唖然としてしまった。

 アキラは大学の敷地外へと出ていた。
「悪いな、九鬼先生。」
 本当は、全て話したかったのかもしれない。それでも、それをしなかったのは巻き込みたくないというアキラの意志だったのだろう。
 アキラは大学を離れる。
 二度と戻れないかもしれない学び屋を背にして。
 決して振り返らない。
 それがアキラの決心だった。


あとがき

 全文を携帯で書くという暴挙に出てみました。
 わりかしちゃんとかけるものやねぇ(感心)。そしてちょっとびっくり。
 FOMAってすごいわ。

 学校シーンやらが思っていた以上に長くなってしまいました。
 おかげで、この回でやろうと思っていたことを2話に分けて書くことにぃ!!
 と、いうわけでこの話は完全に続く形で終わっていますね。
 次こそ敵を書くぞ!!(一応気合入れとこ)

 次の話はいよいよアキラの養い親が登場します。
 気になっていた人も、ならなかった人も、どんな人なのか楽しみにしておいてください。

 ・・・次も携帯で書くかもしれない・・・

 それでは、See You Agein?

2004/05/09


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