横浜の中心地より、少し離れた住宅街。
アキラは、とある家の前に立っていた。表札にかかっている名前は『長谷川』。
そう、この家はアキラの家だった。
しかし、自宅というのにずいぶんと入りにくそうにしている。
もうかれこれ10分くらいになるだろうか?門柱と睨めっこをしていた。
「はぁ・・・」
かなり大きなため息をつく。
入りたくても入れないというのが真実のようだ。
帰ってしまおうかと思ったその時だった。
「明君?」
不意に背後から声がかかる。
その声に気付き、振り返ると、そこにはアキラのよく知る人がいた。
「み、美里さん・・・」
長谷川美里。
アキラの叔母にあたる。そして、今は義理の母親でもあった。
ちょうど外出先から帰ってきたところといった感じだ。
「今までどこに居たのよ、明君!」
鬼気迫る感じに問い詰められる。その声から感じられるのは、怒りではなく、心配だ。
「あ、いや、その・・・」
答えられる事ではない。つい、どもってしまう。
「・・・とにかく家に入りましょう。今日は和樹さんも家にいることだし。」
アキラはドキッとした。まさか、今日あの人が家に居るとは思ってなかったからだ。
しかし、美里に見つかってしまった以上、この場から逃げるのは難しかった。
仕方がなく、アキラは家の中へ入ることにした。
長谷川家のダイニングには気まずい空気が流れていた。
今、ダイニングに居るのは3人。アキラに美里、そしてもう一人はこの家の主だ。
長谷川和樹。
アキラの叔父にあたり、義理の父親でもあった。
「明、今までどこに居たんだ?連絡の一つもよこさずに。」
沈黙を破ったのは和樹だった。
アキラとしてもあまり喋りたくない事情がある。沈黙を守るしかなかった。
「何か言ってちょうだい、明君。」
気まずい、としか言いようがなかった。
「それとも、何か言えない事情でもあるのか?」
「・・・はい。」
この質問には正直に答えた。
「それにしても、連絡をしなかったのは何故だ?」
忘れていた訳ではない。浦辺等にやんわりと止められていた節がある。
あの場所、バレると何かまずいのだろう。
「心配してたんだから。
突然あなたが入院したって連絡が入って、場所も静岡の病院だっていうから、あの時とてもじゃないけど、お見舞いに行けなかったし、そしたら、次は防衛庁の人が来て、明君の身柄は預かってるっていわれるし・・・
もう、どうしたらいいのか、わからなかったんだから。」
最後の方は、泣きそうな声になっていた。
アキラも申し訳なく思う。
「すみません・・・」
しかし、あくまで冷静を保っているが内心驚いた。
国立の研究所なのは知っていたが、防衛庁が根回しに出ているとは思ってもみなかったからだ。
「言いたくないのなら、それでいい。それで?もう戻って来れるのか?」
和樹の質問は身に堪えた。まだ当分、この家には戻れない。その事はよくわかっていた。
「そういう訳にはいかないんです。」
ようやく、アキラは話しを切り出した。
既に大学に休学届けを出しにいった事、そしてまだこの家には戻れない事・・・
当然、怒鳴られた。
勝手に行動したからではない。アキラを心配しているからだ。
「私だって心配しているんだ。」
それが、和樹の言葉の締めだった。
「それでも、オレはまだ帰れないんです。オレにはやらなきゃならない事があるんだ。」
力を強く入れる。
「お前にしかできないことなのか?」
「たぶん。」
フェアの経緯はあらかたシュッツに聞いていた。
そして、フェアに乗り操縦できたのはただの二人。それが、シュッツとアキラだ。
相性があったのかもね・・・
そういっていたのはシュッツだった。
だから、フェアの操縦は他の人に任すというのが不可能だった。
「それは、学校にいきながらは無理なのか?」
和樹が立て続けに聞いてくる。
「ちょっと無理ですね。」
そうでなければ休学届けを出そうとは思わなかっただろう。
「・・・何故お前でなきゃならないんだ?」
そう和樹が呟いたときだった。
突然けたたましくブザーが鳴り響く。
何から鳴っているモノなのか理解するのに時間がかかった。
手首につけていた通信機からの音だった。
「すみません、ちょっと・・・」
そそくさとダイニングを離れ、自分の部屋に駆け込んだ。
慌ててヒューズを押す。
『アキラ!』
飛び込んで来たのは、シュッツの声だった。
「何だよシュッツ!」
アキラとしてはそれどころではない。まだ話しは終わっていないのだ。
『UMが出たんだ!』
「何だって!?」
何もこんな時に出なくても・・・
そう思うアキラだった。
『場所は仙台。今から拾いにいくから!』
「わかった!!」
UMが出たというなら行かなくてはならない。
しかし、和樹達をどうするのか?それが一番の問題だった。
「和樹さん!ちょっと行ってきます!!」
わずかにダイニングに顔を出す。
「明、話しはまだ終わってない!」
和樹は後を追うが、アキラはもう玄関で靴を履いていた。
「また帰ってくるから!」
叫んで慌てて外に出た。
「とにかく広い所に・・・」
アキラは必死に思い出そうとする。この近くにある広い場所を。
「学校か!?」
たしかこの近くに小学校があったはず・・・
曖昧な記憶を頼りに走り出す。
小学校にたどり着いたと同時にシュッツが現れた。
そのまま、アインに飛び乗り一路仙台へ。
「ったく、なんたってこんな時に出るんだよ・・・」
アキラは一人ブツクサと呟いていた。
それはもう、不本意極まりなかった。即効でブチのめそうと心に誓ったアキラだった。
「何ブツブツ言ってるの?」
事情を知らないシュッツは何故アキラがここまで恨みがましく思っているのか皆目検討が付かなかった。
「話しなんて全然終わってなかったのに・・・」
「アキラ?」
「!・・・何だよ。」
シュッツの呼びかけに驚いたのか、しどろもどろしている。
「何があったの?」
聞かれて当然だった。
あれだけブツブツ言っていれば気にもなる。
「・・・父親と母親に話しをしてたんだよ。」
「えっ?でもアキラの両親って・・・」
口に出しかけて、やめた。
「義理のだ。」
シュッツは両親のことを知っている。
それを思い出すのにそう時間はかからなかった。
「ん?あれ・・・」
どうやら肉眼でUMを捕らえたようだ。
「デカくないか?」
周りの建物と比べるとよくわかる。明らかにそのUMはいつもより大きかった。
「お、大きいね。」
『もう見えているかね?』
浦辺からの通信が入る。
『無理を言うようで悪いんじゃが、できるだけ原形を留めたまま機能停止させてくれんか?』
新型なのだろう。今後のためにもサンプルが欲しいようだ。
「了解!わかってますよ浦辺博士。」
通信を切り、戦闘体制に入る。
「あれ、使いたいんだけどいい?」
何かいい手を思いついたらしい。
「あれって、この間ナーエに搭載したあれ?」
「そうそう、それ」
新兵器、ということになる。
「博士の方からOKは出てるから使ってみようか?」
「よっしゃ!
合体シークエンスにすぐ様入る。UMとの距離はもうたいしてなかった。
「接近してみると大きさがよくわかるなぁ。」
あんぐりと口を開ける。
ナーエの3倍ほどの大きさだった。
「早くするよ!」
今は何もしていないUMも、いつ動き出すのかわからない。早々に決着をつける必要があった。
「わかってるって!
UMの外装に両腕をあて、手のひらから一気にある種のパルスを放出する。
UMはブスブスと煙を出し始める。ナーエの発したパルスが内部回路を焼き切ったようだ。
「これで終わりだな。
でさ、シュッツ。悪いんだけどな、横浜からオートパイロットでアインを持って帰ってくれないか?」
「いいけど、どうしたの?」
モニターの向こうでアキラが苦笑いをこぼす。
「・・・親との話しがまだ終わってないんだ。」
「うわっ・・・」
シュッツもその気まずさを感じたらしい。
二人の間から渇いた笑いがこぼれ出すのにそう時間はかからなかった。
そこは、何もなかった。
何もない、ただ平坦な空間。
そこにボヤっと玉座が現れる。
「また、失敗ですな。」
玉座の右隣に化学者風の男が現れる。
「人工知能ではあれが精一杯。」
続けて、左隣に武人風の男が現れた。
「それでも僕らには次がある。問題ないね、ヴィッセン。」
誰も座っていなかった玉座に若い男が座っていた。
マントでほとんど体付きがわからなかったか、この男、どことなくシュッツに似ている。
「はっ!弱点は既に突き止めてあります。」
化学者風の男が答える。
「マハト、人工知能の準備は?」
「既に。ツェアシュ様。」
武人風の男が答える。
「次が最後の見極めだ。
あのマシン、本腰を入れて倒す価値があるかどうか・・・楽しみだな。」
言葉に余韻を残し、若い男は玉座ごと消えた。
「レフォルムに栄光を。」
武人風の男が消える。
「レフォルムに栄華を。」
化学者風の男も消えた。
そして、そこには誰も居なくなった。
また携帯で書いちゃいました。
さすがにあれな所はPCで直しましたが、ほぼそのまま携帯で打ったまんま!!
やったね!!(何が?)
ちなみにこのあとがきはPCで打ってます。
最後のほうに出てきた3人様は、敵様です。
よくわからなかったかもしれませんが。
敵は自ら「レフォルム」と名乗っているようですが、当のアキラ達はそのことを知りません。
その名前を知るのはもうちょっと後のお話です。
現在無人機、将来は・・・・・・?ということです。
さて次回のお話は、レフォルムが発見したフェアの弱点をついてくるというお話です。
皆様はわかりますか?
よく読んでみるとわかるかもしれません。
ヒントは1つ。
レフォルムはまだ研究所を発見できていないということ。
さあ、考えてみてくださいね。
それでは、See You Agein?