アキラは出掛ける支度をしていた。
「どこに行くの?」
シュッツが気になったのか、声を掛ける。
「横浜。」
そっけなく答える。
「横浜って・・・家に帰るの?」
アキラが横浜に行く用があるとすればそれしかなかった。
「そーだよ。」
大当り。
しかし、アキラに明るい表情はない。
何故なら、かなり不本意で家に帰る羽目になっているからだ。
思い出すだけで嫌になる。らしい。
そもそもは、以前家に帰ったときにUMが出たせいで話が中断してしまったのが原因だった。
帰って来た時にはアキラの養い親和樹は努髪天だった。
そこでアキラは一つの約束をさせられた。
その約束とは、
「何で月一で家に帰らなきゃならん?」
だった。
アキラはブツブツと呟きながら研究所を出た。
アキラが出発してから3時間が経過していた。
研究所は平和そのものだ。
UMが出れば慌ただしくなるものの、普段は訓練が無いかぎり静かなものだった。
アキラが外出しているので今日は訓練といった訓練はない。
シュッツものんびりと構えていた。
「アキラは何してるかな?」
ちょっと気になるらしい。
家族がいる。
それが一番気になることだ。
今の自分には家族はいない。そう思うと少し悲しくなる。
確かに、浦辺は祖父のような存在ではあるが何かが違う。
家族について思うと、少し切なくなるシュッツだった。
今、目を通しているのは、分厚い小説だ。
〈血の呪縛〉。
今流行りの文学小説だった。この作品で著者は何か大きな賞を取ったらしい。
チクチクと時間の合間をぬって読み進めていたが、ようやく最終章までたどり着いた。
何も無ければこのまま、この本を読んでいるつもりだったが、そうもいかなくなってしまう。
突然研究所全体に警報が鳴り響く。
すぐに本を置き、急いで指令室に向かう。
「アキラ君のおらん時に、またか!」
浦辺が睨みつけていたディスプレイにはUMの姿が映し出されていた。
アキラのいない時に現れるのはこれで2回目だ。
「すぐに出ます!」
シュッツは指令室から駆け出した。
「場所は?」
「湘南です。」
アキラがいるであろうと思われる横浜から非常に近かった。
「ツヴァイにデータ転送。アキラ君にも連絡を!」
手際よく指令室でできる事をこなしていく。
『博士、また出たんですか?』
呆れ気味の声が通信機から流れてくる。
「悪いのう、アキラ君。
そっちにシュッツが向かっておる。合流して現場に向かってくれ。」
『了解。』
声が微妙にゲンナリしている。
多分親の説得に嫌気がさしているのだろう。
「苦労をかけるのぅ・・・」
『まぁ、博士が悪いんじゃ無いんですから。
じゃ、通信切ります。』
それでアキラとの通信は切れた。
「二人には頑張ってもらうしか無いのかのぅ・・・」
何もできない自分を不甲斐なく思う。勿論、あの二人なら「博士はちゃんとやっている。」と、言うだろう。
戦っている者と、サポートしている者との感覚はずいぶん違う。
サポートしている側の人間は、もっと戦っている人間を助けたいと思う。代わりに戦えるなら戦っていいと思うほど深刻に思いつめる事もある。
浦辺が思うのはそれに近かった。
「どこに出た?」
アキラはアインに飛び乗る。
「湘南だよ。」
「近いじゃねーか。」
オートをマニュアルに切り替え、発進準備を進めていく。
「家族はどうしたの?」
「聞くな。」
また無理矢理飛び出して来たらしい。表情が引き吊っている。
「ちゃんと説明できないから、ね・・・」
この時ばかりはシュッツもアキラの心情を察知したようだ。
「とにかく、手っ取り早く帰ってくりゃ良いことなんだよ!」
半分ヤケになっているようだった。
「じゃあ、いくよ!」
「おう!」
2機の戦闘機は大空を舞う。
何か、いつもとは雰囲気が違っていた。
確かにそこは、UMが襲撃し、いたる所で火を噴いていた。
しかし、いつもとは何かが違う。
「なぁ、シュッツ・・・」
「何?」
「何だか、いつもと違う事無いか?」
アキラはその何かを感じ取っていた。
「そうかなぁ?」
シュッツは何も感じていないようだった。
「何つーか、人の意志を感じるんだ。敢えて言うなら殺気のような。」
アキラにしてみれば、かなり漠然としたものでさしたる確証はない。
しかし、今ここで論じていても被害が広まるだけだ。
「とにかく、その話は後でゆっくりね。」
アキラの感じた違和感が重要なモノになるとは、この時シュッツも思ってもみなかった。
「そうだな。で、今日はどっちでいくんだ?」
「見た感じ近戦タイプだし、ナーエで行こうか。」
この間のシールドがあれば話は別だが、シュッツはそれは無いとふんでいた。
「わかった!
ナーエに合体し、UMの元へ舞い降りる。
「一撃で決めてやる!」
考えを払拭するかのように速攻をかける。
「
いつもなら、これで決まっていた。
しかし・・・
「避けた・・・?」
信じられなかった。
勿論、今まで避けられたことが無かったせいでもある。
だが、それはUMが無人機だったためだと、研究所の方で結論を出していた。
「ヒトが乗ってるのか?」
そんな考えが頭を過ぎる。
「でも!」
「わかってる。やるしかないんだ。」
殺したくないとか、そんな事を言ってる場合では無いことは充分に承知していた。
ここは戦場だ。
殺るか、殺られるか、二つに一つだ。
腹はくくっていた。
「追い込んでトドメを刺してやる!」
アキラの操るナーエがUMを追い込んでいく。
打撃の応酬だ。
「まだだ!」
UMを蹴り上げる。
浮いた所を跳躍し叩き落とす。
「これで終わりだ!
叩き落とされ、身動きができなくなったところに必殺技を叩き込む。
容赦無い攻撃だった。
「UMの機能停止を確認。」
胴体を貫かれ、動かない。
「帰るぞ。」
突然だ。
しかし、帰りたい理由がアキラにはある。
「何もそんなに急がなくても・・・」
そこまで言って思い出す。アキラが抱えている状態の事を。
「帰らしてくれ!」
それは懇願にも近かった。
気付いたシュッツはすぐに行動をとったが、この後アキラがどうなったのか、知るよしも無かった。
ただわかっているのは、アキラのこの日の帰りが非常に遅かった事だけである。
UM‐13の調査も一段落し、浦辺達の元に報告書が送られて来た。
「識別ナンバーってまだ13だったのか?」
もっと倒していると思っていたらしい。
しかし、同じ型のUMが出て来たりしていたため、倒した数=型番とはならない。
「博士、内容はどうだったんです?」
変な所に関心があるアキラは置いて、シュッツは話を進めようとする。
「それがのぅ・・・」
新しい兵器が積んであるという事はない。
一番、目を引いたのは、次の一文だった。
《コクピットが存在する。》
この文が意味することは、UM‐13にはパイロットがいるということだ。
「アキラの感じた事は本当だったんだ。」
あの時、アキラは人の気配を感じ取っていた。
「でも、これって兵士がいるって事にならないか?」
「そうじゃな。」
浦辺も決して否定しない。
「・・・そうだよ!思い出した!」
アキラは何かを思い出したらしい。
「あいつらに兵士はいるんだよ。間違いなく!」
断言できるのには理由がある。
「会った事ある。」
「ホントに?」
なんだか信じられなかった。
会ったことがあるなんて、とてもじゃ無いが信じられない。
「ほら、最初の横浜の襲撃、覚えてるだろ?」
この襲撃、アキラは絶対忘れることは無いだろう。
「アキラがUMの頭に立ってた。」
そしてシュッツにとっても、忘れられない事件になっていた。
「あの時、確か何人かのしたはず。」
あれは、敵の兵士だったのかもしれない。そう思ったのはこれが初めてだった。
「よく生きてたね・・・」
呆れたというか、関心したというか。
しかし、アキラの格闘能力を考えると、当然なのかも知れない。
「まぁ、オレは強いから。」
こればっかりは自慢できる。
「でも、兵士はどこにいったんだろう?」
報告書にも事は書いてあった。
「行方知れず。じゃ。」
探しても発見できなかったのだ。
何の痕跡も残っていなかった。
パイロットがヒトなのかどうかもわかっていない。
しかし、ヒト型なのではないのかという推論はあった。
「人間なら戦いたくないな。」
同じヒト同士、話せばわかると思ったのだろうか?
「でも、話がわかる相手ならこうならないと思うけど?」
声明を出してきたのは向こうが先だった。というか、こちらは防戦一方だ。
「わかってるよ。」
アキラもヒトと戦うことは覚悟していた。
あの日、あの兵士達に会った時から。
戦い抜くと決めた、あの時から。
決意は揺らがない。
「兵士をとっ捕まえられたらいいんだろうな。」
敵の詳しい情報を掴むにはそれしかない。
「うん。」
シュッツもこれに同意する。
「しかし二人とも、無理は無しじゃぞ。」
二人の性格を考えると、無理をしそうだと思った浦辺は釘を刺す。
『は〜い』
二人は同時に気の抜けた返事をする。
敵が有人機を投入してきた事がどういう事なのか、この時はわからなかった。
この時より、戦いは激戦化していく・・・
この頃から設定に行き詰まりを感じ出したり・・・
ちょっとずつ設定に矛盾が出てきだしているんです・・・すごく情けないんですけど。
だから、この回で結構わけのわからない事になっています。(自分で言うなよ、オイッ!)
UMが無人機だったって言う構想はこの回で無理やり考え出したものです。
それでも後々重要になってくるんですけどね・・・
で、次回予告です!!
激化する戦いを何とか切り抜けていくフェアタイディゲン。
その中で、最悪の事態が起こってしまう。
それは・・・
研究所へのピンポイント攻撃。
次回 『第10章 Nahern −接近−』
見所は冒頭のコクピット内の会話なしの戦闘シーンでしょうか。
ちょっと、チャレンジしてみました。
文章だけで迫力を出すのは難しいですね。
それでは、See You Agein?