炎の海。
降り注ぐ銃弾の雨。
その中にフェアはいた。
形態はフェルン。
淡い光のシールドを全身に張り巡らせていた。
防御をしているとはいえ、ぐるりと周囲を囲まれ逃げ道はない。
しかし、不思議と絶体絶命という雰囲気はなかった。
フェルンの反撃は、ここから始まる。
両腕をマシンガンに変形させ、無数の銃弾をわずかな時間でバラまく。
装填されている弾が炸裂弾なのか、命中したものから小さな爆発が起こる。
爆発に追い撃ちをかけるために両腕の小さな銃口は絶えず火を噴く。
それでも、UMの攻撃の手は緩まない。
再び、フェルンに銃弾が降りかかる。
直撃すればかなりのダメージにはなるが、そうそう直撃はしない。
防御する事よりも、攻撃する事を考える。
マシンガンのマガジンが次々に排出される。段々と銃身が焼き付いてくる。
まだ、相当な数のUMが残っていた。
マシンガンの形をしていた右腕がバズーカ砲に変わる。
ミサイルが撃ち出される。
直撃を受けたUMは耐え切れずにバラバラになる。
その圧倒的な爆風に何体ものUMが巻き込まれ、吹き飛んだ。
UMが放ったミサイルに誘爆し、さらに爆発は広がる。
その間を縫うように一本のミサイルが飛来する。
フェルンは微動たりとしない。
瞬間、合体を解く。
すぐさま、合体し直した。
形態はナーエ。
残ったUMをけちらしていく。
接近してくるUMをなぎ払い、確実に数を減らす。
そこに、見たことのないUMが現れる。
攻撃を仕掛けるが簡単には当たらない。
あの特殊なUMに間違いなかった。そして、これが隊長機だと悟る。
あらゆるコンビネーションを使い、確実に追い込んでいく。
ナーエならではの戦法であった。フェルンではにぶ過ぎてここまでの動きは出来ない。
UMのバランスを崩し、決定的な隙が出来る。
すかさず、トドメの一撃を加える。
たったの一撃で機能停止に追い込んだ。
必殺技を叩き込まれたUMは糸の切れたマリオネットのように、力無くその場に倒れ込んだ。
隊長機の機能停止を感じ取ったのか、他のUMは蜂の子を散らすように散っていく。
まとまりが無くなったといった方が正しいのかも知れない。
後は、残りのUMを倒すだけだった。
統制が取れていないUMはいとも簡単に破壊されていく。
全滅させるのに、たいした時間はかからなかった。
最近、戦いが激化している。
UMが一体のみで現れるのは珍しくなった。
大概、
今回の戦いもその組合せだった。
しかし、引き連れていたUMの量は過去最高だ。
おかげで戦闘終了までずいぶんと時間がかかってしまった。
研究所に帰ってきた二人は疲れが限界に達していた。
「つ、疲れた・・・」
パイロットの控え室に着いた途端、アキラは座り込んでしまう。
「僕も・・・」
シュッツも相当疲れているようだ。
今回の総戦闘時間は3時間弱。
しかも、最近は出撃が頻繁に続いている。
疲れるのも無理はない。
むしろ、この地点で元気な方がおかしいくらいだ。
「今日のは多すぎるだろ?」
「あはは、確かに。」
普段なら倒したUMの数をカウントしているのだが、この日は途中で数えるのをやめた。
それだけ数がすごかった。
「なぁ、フェルンのアレの事なんだけど。」
「あれ・・・
UMの銃弾とミサイルの雨を完全に防ぎ切った、淡い光のシールドだ。
「そう、それ!」
「何が聞きたいの?」
「あれってさ、ナーエに付けれないのか?」
アキラがこういう事を言うくらいだ。当然、ナーエには防御系の装備はなかった。
しかし、これにも理由がある。
「多分、無理だと思うよ。」
記憶を辿りながら答える。
「総エネルギーの関係上、あんな装備着けちゃったらオーバーロードしちゃうよ。」
つまり、エネルギーがすぐに切れてしまう訳だ。
それでは、役に立たないガラクタになってしまう。
「確かナーエの武装って、エネルギーだいぶん使うんだよな。」
「うん。フェルンは逆に実弾使うのが多いから、ああいうのを装備出来るんだ。」
攻撃でフェルンがエネルギーを消費するのは珍しい。
「使ってるエネルギーはフェルンの方が少ないのか。」
攻撃系武装に関して言えばその通りである。
「ナーエが攻撃に使っている分を防御に使ってるだけだから、たいして変わらないよ。」
フェルンとナーエの決定的に違う箇所の一つだ。
それが防御系武装の有無。
「へぇ。」
感心しているのか、していないのかよくわからない返事だった。
「出力のレベルが上がらないと装備するのは無理なんだな。」
「そういう事。」
フェルンもナーエと逆の事は出来ない。
浦辺達が必死に調整しているが、
「でも、何でそんな事聞くの?アキラの反射神経ならシールドなんてなくても大丈夫でしょ。」
シュッツの言うことは一理ある。
「大きく言い過ぎだ。オレだって当たる時は当たる。」
それでも、その攻撃自体は気付く。タイミングや立ち位置の関係上避けれないだけだ。
もし、シールドが展開できれば破損はもっと少なくなる。
そう思う。
「何にしたって、もう少し出力が安定しないと新しい武装は追加できないよ。」
「そうかぁ。」
実に残念そうだ。
「でも、その事で近々追加人員があるって聞いてる。」
「へぇ、どんな人が来るんだろうな。」
アキラはずいぶんと興味を持っているようだ。
「僕も詳しく知らないからね。」
シュッツが詳しく知らないというのは珍しかった。
「博士が隠してる、とか?」
「それはないよ。」
実は、そうだったりする。
浦辺のチャメッ気だといってしまえばそれまでだが、諸々の手続きに二人を関与させないためでもあった。
「気の合う人だといいな。」
「そうだね。」
研究所で暮らしていると、あまり人に会わなくなるので、新しい人員というのは新鮮だ。
『二人とも、上がって来てくれんかの?』
浦辺の声がスピーカーから響いてくる。
お呼びがかかった二人は、疲れきった体に鞭を打って立ち上がる。
・・・それは間近に迫っていた。
迫り来る敵意。
襲いかかる悪意。
アキラ達の知らない所で、それは確実に近づいていた。
翌日。
昨日は浦辺の話が終わった後、二人とも泥のように眠ってしまった。
清々しい朝だった。
格納庫の方では、フェアの修理と整備が続いている。
さすがに二人は修理にタッチさせてもらえないので、おとなしく見守ることにした。
暇を持て余していたアキラは型をやろうと外に出る。
自然に囲まれているので空気がおいしい。
胸一杯に息を吸う。
そして、体を動かす。
気持ちのいい汗をかき始めた所だった。
不意に警報が鳴り響く。しかも、いつもとパターンが違う。
アキラは慌てて指令室に走った。
指令室は、混乱しきっていた。
唯一冷静だったのは浦辺だった。
「何があったんです?」
急いで浦辺の元へ駆け寄る。
「この研究所の位置がバレたようなんじゃ。」
「本当ですか!?」
気をつけていたはずだった。ここがバレれば狙われるのは目に見えていたからだ。
「すみません・・・」
アキラの口がついたのは謝罪の言葉だった。
「なに、アキラ君の謝ることではないよ。いつかは隠していてもバレるんじゃ。それが早いか遅いかの違いじゃて。」
浦辺が研究所を隠し通すつもりがないのは知っていた。
元々、バレることを覚悟しておいてくれといわれているくらいだった。
「いつ、来ますか?」
「正確な時間は見てのとおりの混乱でよくわからんのじゃが、後2、3時間といった所じゃろうな。」
あまり、時間の余裕はない。
しかも、フェアの整備が終わっているのかは微妙な所だった。
それでも、出なければいけないのは間違いない。
たとえ整備が不十分でもアキラは飛び出すつもりでいた。
無論、シュッツも強引に連れて行くつもりでいる。
ディスプレイに表示されているマーカーを睨みつける。
危機はすぐそこまで迫っていた。
すごーく、途中で終わっていますが、間違いではないのであしからずです。
隠していたのがばれてしまったというお話だったんですが、どうでしたでしょうか?
物足りないかもしれませんね。
文字数に制約かけてやっているもので、どうもすみません。
それでも今回で10章目に突入しました!!
これで予定している過程の3分の1が終了しました!
まだまだ物語の核心には迫っていませんが、もうすぐ出てくるのでお楽しみに。
さて、次回予告です!!
研究所への攻撃を阻止するため、アキラとシュッツは迎撃に向かう。
そこで待ち受けていたのはすさまじい数のUMだった。
その数に怯むことなくアキラ達は立ち向かう。
次回 『第11章 Entgegenstellen −迎撃−』
次回の主役は今まで出番の少ないフェルンです。
それでは、See You Agein?