とにかく、格納庫へ。
その気持ちがアキラを走らせる。
研究所が破壊されない方法があれば、アキラは迷う事なく実行するだろう。
そして、一つだけ思いついた方法があった。
それがフェアタイディゲンで迎え撃つ事。
だからこそ格納庫へと走る。
フェアの整備は辛うじて終わっていた。
アキラはアインに乗り込み、ツヴァイへの通信回線を開く。
もし、シュッツも同じ考えなら間違いなくここへ来ると思ったからだ。
「出れるか!」
「もちろん。」
『二人とも、なにをやっとる!』
突然開かれた回線から浦辺の怒鳴り声が響く。
浦辺は何も指示を出していない。二人の行動は自らの判断によるものだ。
「アイン、ツヴァイ、両機出撃します。」
浦辺に構わず二人は発進シークエンスを進めていく。
『何をするつもりなんじゃ?』
「UMを迎え撃ちます。」
実に簡潔な目的だ。
二人の目的はそれしかない。
『・・・死ぬんじゃないぞ。死んだら元も子もないんじゃからな。』
浦辺の目の前にあるモニターには、マーカーが表示されている。UMを表すそのマーカーの数は昨日の比ではなかった。
心配になるのも無理はない。
「了解。」
もとより死ぬ気など微塵もない二人だ。
浦辺の心配は無用だった。
研究所より南へ20km。
二人はそこでUMを待ち構えていた。
形態はフェルン。
たった一機でここを食い止めるのは難しいかもしれない。
だが、やり遂げるしかない。
「もうすぐ、射程距離内に入るぞ。」
アキラがコンソールを叩きながら状況を確認する。
センサーでは確認できるが、肉眼でほとんど確認する事はできない。
「
フェルンは左腕をライフルに変形させる。
コクピットの中ではトリガーとサイトが迫り出してくる。
「射程距離圏内、入った!」
アキラの声と共にトリガーを引く。
遠くの方から爆発音が聞こえてくる。
続けさま、シュッツはトリガーを引く。
充分に狙いを付けている暇はない。それでも当たるのだから、その数が半端ではないのがよく解る。
可能なかぎり、連射を続ける。
「ライフルの残弾数1。次が最後だ。」
それを聞いたシュッツは最後の一撃を充分に狙って撃った。
サイトでは捉らえられるUMも、まだ肉眼ではほんの小さな点にしか見えなかった。
「バズーカの射程にもう入ってる。」
次に攻撃できるであろう武装の射程に入った事を確認する。
「
アキラの発言など、お構いなしだ。
「
ライフルのときとは別のトリガーが出てくる。
「
声と同時にトリガーを引く。
圧倒的な破壊力を持つ砲弾が、両腕が変形した砲身から放たれる。
周囲を巻き込みながら、UMの大群が部分的に消失していく。
「・・・連射するつもりか?」
その様子を見ていたアキラがおそるおそる尋ねた。
「そのつもりだけど?」
シュッツは即答する。
その答えに、アキラはついため息をつく。
本来
砲身が過度に加熱するため、次の弾を発射するには冷却が必要になる。
但し、今のシュッツにこの事を説明しても、何の意味も持たないだろう。
アキラもそれは悟っていた。
冷静そうで冷静さを欠いているシュッツに「やるな」といって、言う事を聞くはずがない。
「冷却レベル最大!次弾装填。」
瞬く間に砲身が冷却されていく。
「シュッツ、やりたいようにやれ!」
アキラも腹を括る。
徹底的にサポートするつもりだ。
ここから先はサポートの方が忙しくなる。
宣言していたとおり、再度
直撃を受けたもの、周囲にいたものをまとめて吹き飛ばす。
「残弾数は5。冷却も追い付いてる。」
冷静さを欠いているシュッツと対象的に、アキラは冷静だ。
「次弾装填。次、撃てるぞ!」
「わかった!」
すぐさま、次の弾を発射する。
軽々と大量のUMをなぎ払う。
間髪入れず、もう一発放たれる。
その衝撃は、かなりの数のUMを飲み込んだ。
しかし、近付いてくるUMは全く衰えを見せない。
「残り、3!」
「撃てなくなる前に全弾撃つ!!」
接近されると撃てなくなるのが
しかし、単発の武装としては最大級の破壊力を持つこれを使わずにいるのはもったいない。
ならば、UMが接近しきる前に全弾撃ってしまえば無駄にはならない。
残り3発。
「回路が焼き切れるのが先か、弾切れが先か・・・勝負だな。」
博打だった。
連射に耐えられるだけの強度があるのかわからなかった。
それでも、やるしかない。
「次弾装填!」
5発目の砲弾を装填する。
装填を確認するのと同時に発射する。
発射シークエンスにいくつかエラーが出たが、致命的なものではない。
「システムの一部をオーバーライドすれば大丈夫か。」
システムを調整し、なんとか発射できるような状態に持ち込む。
「残弾数2か。もってくれよ!次弾装填!」
次でダメになるかもしれない不安もあるがそんな事はいってられない。
躊躇いなく、シュッツはトリガーを引いた。
6発目を撃ち終えた途端、回路が悲鳴を上げた。
全システムをオーバーライドするが、警報が鳴り止まない。
「アキラ!?」
「大丈夫だ、心配するな!」
声では平静さを保っているように思えたが、表情は必死だった。
「冷却システムが問題じゃないな。出力が安定しないのか!?」
最後の砲弾を撃つために調整をかける。
「出力制御用の回路を切って、こっちで代用させれば!」
手早く、スイッチ類を切り替えていく。
ようやく警報が鳴り止んだ。
「次弾装填!最後だ、シュッツ!」
アキラの言葉が終わらない内に最後の弾を撃ち出した。
発射を確認すると即座に
同時に砲身と化していた両腕も元に戻った。
「大丈夫?」
「問題ないさ。」
オーバーロード寸前だったが、なんとかなる。
この辺りは、エネルギーを大量消費するナーエとは違う。
「それより・・・」
UMを示しているマーカーの数を確認する。
「連射が効いたみたいだな。」
3分の1程度までUMはその総数を減らしていた。
それでも昨日の襲撃と同じくらいの機体数は残っている。
この大群を研究所に近付けさせるのだけは、阻止したい。
「まだ、フェルンの射程だね?」
「充分過ぎるな。」
遠距離攻撃を得意とするフェルンの射程内に、大多数のUMが存在した。
アキラは、使用できる武装を確認する。
ほとんどの武装に
「バズーカならすぐに使えるぞ。」
「O.K。」
右腕がバズーカ砲に変化する。
そのまま、ろくに狙いも付けずに乱射した。
ほとんどの砲弾が命中する。
しかし、距離がまだあるのか、爆風をあまり感じない。
「アキラ、残弾は!」
ここから先、さっきのような無茶はできない。
「残り15。」
確実に撃墜していかなければならない。
そんな責任感がシュッツに生まれる。
「ショットガンも使えるな。」
UMの位置を確認しながら、射程距離の確認もしていく。
「
フェルンの左腕がショットガンに変化する。
散弾に混じりながら、バズーカの砲弾も飛んでいく。
搭載している弾丸を全て使い果たそうとする勢いだ。
「バズーカの残弾0。」
少しずつだが手数は少なくなっていく。
「マシンガン、使える?」
左腕のショットガンを放ちつつ、次の手を講じる。
「大丈夫だ。問題ない。」
「
バズーカ砲だった右腕がマシンガンに変わる。
乱れ撃ちだった。
炸裂弾がUMに食い込み、派手に爆発する。
「そろそろ、ブーメラン使えるぜ。」
「うん、わかった。」
フェルンの武装は銃火機だけではない。
「
ショットガンだった左腕が普通の腕に戻る。
その腕で腰の辺りにある突起を掴み、引きずり出す。
それは、巨大なブーメラン。
フェルンの隠し武器の一つになる。
「いっけぇ!!」
勢いよく空に向かって投げた。
大きく弧を描き、UMを薙ぎ倒していく。
「UM、残り10体。」
確認してみて驚いた。
必死で戦っている間に思っていたより多くのUMを倒していたようだ。
しかし、残りの10体は
「代わろうか?」
フェルンでは荷が重いと思ったのだろう。
「10体でしょ?ナーエでもキツいんじゃない。」
「でもよ・・・」
フェルンで
普通の攻撃では避けられる。直線的な攻撃ではなおさらだ。
「避けられるなら、どうしても避けられない状況を作るよ。」
軽い調子で答えるが、簡単な事ではない。
しかし、それを難無くやり遂げるのがシュッツという男だった。
一機、また一機と確実に数を減らしていく。
「ラスト!」
最後の一機も呆気なく撃墜される。
辛うじての勝利だった。
「残弾は、マシンガンが一発だけ。こんな状態でよくやるよ。」
アキラは呆れていた。
「でも、弾数が足りたのはアキラのおかげだね。」
冷静なアキラがいたからこその成果だったのかもしれない。
「褒めてもなにもでないぞ?」
「わかってるよ。」
そんな他愛のない会話を楽しむだけの余裕が生まれる。
目的は既に果たしていた。
あとがきです。
だからって何?って感じですが・・・
12回も書いてるとだんだんネタがなくなってくるんですよね。
いや、こんな事、ここで愚痴っても仕方がないんですけど・・・
本編書ききってからあとがき書くまでに時間があるせいなのかもしれませんが。
今回はフェルンが大活躍でした。
ただカウンターアタックをするためにはナーエでは射程が足りなかっただけなんです。
射程が足りていたらどうするんだといわれれば、多分ナーエで描いたでしょう。
次回は、新しいキャラクターが出てきます。
16歳の女の子なんです。
いまどきの女子高生というわけではありません。(というか、私はそんないまどきの女子高生なんて書けません・・・)
どんな女の子なのかは次回のお楽しみということで。
それでは、See You Agein?