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13章  Festnahme -捕縛-

 戦いが始まってから、もうすぐ1年が経とうとしていた。
 UMの襲撃、有人機Menschメンシュの登場。
 戦局は時間と共に変化していく。
 そこに大きな問題が1つ。
 それは、今だに兵士を捕らえられない事。
 Menschメンシュが有人機であるのは今までの調査ではっきりとしている。
 だが、撃墜した機体から得られるデータにも限度があった。
 それを打開するには、内部の事情を知る者に話を聞くしかない。
 なんとしてもMenschメンシュのパイロットを捕らえたかった。
 しかし、パイロットの行方は掴めない。
 その足取りが掴めれば、UMの調査はさらに発展すると思われた。

 ごく当たり前のようにスクランブルがかかり、ごく当たり前のように出撃する。
 相手もUMにMenschメンシュといういつも通りの組合せだった。
 しかも、普段より機体数が少なそうだ。
「作戦通りに行くよ。」
「おう。」
 ナーエに合体したフェアは軽々とUMをなぎ払っていく。
 今回の目的はMenschメンシュだけ。
 アキラもシュッツもそう思っていた。
 作戦の事もある。
 どうにかしてMenschメンシュだけを残さなくてはならない。
 周りにいるUMを次々と叩き潰していく。
「どうせMenschメンシュは最後まで残るんだ、気にせずいくぞ!」
 使う武装はSerien Schussゼーリエン シュス
 いつかのような連発はしない。
 囲まれたところで確実に撃墜していく。
 UMは徐々にその数を減らして行き、最後にはMenschメンシュだけが残った。
「アキラ!」
 シュッツの呼びかけに応呼するようにアキラは一気に追い詰める。
「フルパワーだ!Elektron Fangエレクトロン ファング!!」
 ナーエが機体に触れると激しい発光現象が起こった。
 以前使った時とは比べものにならないくらい威力が増していた。
 回路という回路は焼き切れ、完全にその機能を停止した。
「後は頼む。」
 その一言だけ残すとアキラはナーエのコクピットのハッチを開け、Menschメンシュに乗り移る。
 このMenschメンシュ、UM‐18の構造は把握していた。
 アキラは素早くコクピットに続くハッチを見つけ、内部に乗り込んだ。
 そこには、久しぶりに見る全身黒づくめの兵士の姿があった。
「よお。」
 アキラの声に気付き、何かのスイッチを押そうとするが、寸前でアキラの拳を喰らう。
「逃げられるわけには行かないんだ。」
 一撃で兵士を気絶させた。
「捕獲完了。いつでも行ってくれ。」
『了解。』
 リストバンドの形をした通信機でシュッツとやりとりをする。
 当のシュッツは空の上にいた。
 ツヴァイとオートパイロットのアインで、ワイヤーを何本も張り巡らしMenschメンシュを吊り上げようとしていた。
 フラつきながらも研究所まで運ぶ。

 研究所にたどり着いてからが大変だった。
 なにせ初めてMenschメンシュのパイロットが明らかになるのだ。
 政府関係者など、手続きに必要となりそうな人物をかき集めていた。
 そしてその中に白衣を着た人物が1人。
「柳沢先生!」
 シュッツがその姿を見つけ呼びかける。
「やあ、シュッツ君。ご苦労様。」
 柳沢もその声に気付き、傍へと歩いてくる。
「今回一番苦労しているのはアキラですよ。」
 労いの言葉は自分ではなく、アキラにこそ相応しい。
 シュッツはそう考えていた。
「どこに行けばいいのかな。」
「ついて来て下さい。」
 シュッツは柳沢を兵士のいる医務室へ連れて行く。
 医務室のベットには、黒いスーツを着たままの兵士が横たわっていた。
 そのすぐ隣には、様子を観察するためにアキラが座っている。
「柳沢さん・・・」
 柳沢の存在に気付いたアキラだが、兵士から目を離そうとはしない。
 離せない。と言った方が正しいのかもしれない。
 目を離した瞬間、どこかへ行ってしまいそうな気がしたからだ。
「ヘルメットは脱がせました。呼吸、脈拍に問題はないです。今は気絶しているだけです。」
 今の兵士の状態を一通り伝える。
「じゃあ、ちょっと起こしてもらえるかな?」
 シュッツは入口の鍵をロックする。
 医務室を密室に仕立て上げた。
 兵士に逃げられては元も子もないからだ。
「大丈夫だよ。」
 アキラはその言葉を合図に兵士に活を入れる。
 兵士は小さな呻き声と共に覚醒する。
「僕たちは君をけして傷つけない。君の安全は必ず保証する。
 だから、僕たちの質問に答えてくれないか?」
 兵士は頷いた。
 その表情に感情は出ていない。
「君の名前は?」
 かまわず柳沢は質問を続ける。
「J‐137。」
「所属していた組織は?」
「レフォルム。」
 兵士は淡々と答えていく。
「何故、僕たちを襲う?」
「ツェアシュ様の理想のため。」
「ツェアシュとは何者なんだ?」
 シュッツが突然割り込んでくる。
 アキラは気付いていた。シュッツが動揺していた事を。
「ツェアシュ・レリッシュ様は我等の総帥だ。」
 シュッツは愕然となる。
「どうしたんだ?」
 アキラが気になり声をかける。
「な、なんでもないよ。」
 その事を悟られまいとするが、よけいに挙動不審になっていた。
 だが、アキラはそれ以上の追求をやめる。
「ツェアシュの理想とはなんだ?」
「地球人類の滅亡。」
 その場にいた全員の血の気が引いた。
 あの宣言は真実だったのだ。
「オレ、ちょっと風に当たってくる。」
 アキラはそういって立ち上がった。
「アキラ?」
 振り向いたアキラの表情は暗かった。
 疲れているのかも知れない。
 そう思わせるような表情だ。
「悪い。」
 それ以上何も言わずに医務室から出ていく。

 アキラが向かった先は、研究所の中心に位置する大きな中庭だった。
 戦闘があったのは昼過ぎだったが、もうすっかりと日は落ち夕闇が辺りを支配していた。
 周囲に自然が多いせいか、この辺りは星が綺麗だった。
 アキラは芝の上に寝転がり、星を見ていた。
「オレは・・・」
 自分の考えが正しいのか、アキラにはわからない。
「だけど、アイツは・・・」
 あの兵士の顔、見覚えがあった。
 本当にアキラの考えが正しければ、とんでもない事になる。
 そして、微かな希望が生まれる。
 忘れたかったあの事件。でも、忘れられなかった。
「アキラさん、こんな所にいて大丈夫なんですか?」
 アキラの視界の中にヤヨイの顔が入り込む。
「風にあたりに来ただけだ。」
 そういってアキラは身体を起こした。
「考え事、してましたね。」
「まあな。・・・ウンダーズーフン事件、覚えているか?」
 隠す必要もない事だ。
 むしろ、人から意見を聞きたかった。
「え、あ、はい。
 あの大量の行方不明者が出た事件ですよね。
 私の知り合いも行方不明になったので、よく覚えています。」
 ヤヨイも間接的な被害者だった。
 アキラほどではないだろう。それでも、多少なりのショックは受けたに違いない。
「捕まえた兵士、見覚えがあるんだ。
 記憶が確かなら、そいつはあの時行方不明になった。」
 友人だった。
 だから、よく覚えている。
「それって、つまり・・・」
 そこから導き出される答えは1つしかない。
「あいつらの兵士はウンダーズーフン事件の被害者かもしれない。」
 これがアキラの答えだった。
 しかし、それしか考えられないのも、また真実だ。
「それ、シュッツさんに言ったんですか?」
「いいや。でも、言うよ。医務室に戻ったらな。」
 中庭に来てようやくまとまった考えだ。
 もちろん、今もシュッツが医務室にいるという保証はない。
 だが、会えば必ず伝えるつもりだった。
「そうですか・・・」
「シュッツに何かあるのか?」
 言葉を濁すようなヤヨイの態度が気になったようだ。
「この作戦が決まってからシュッツさん暗くって。
 気になってたんです。」
 アキラは苦笑いをする。
 シュッツの事は知っていた。
 しかしヤヨイに気付かれてしまうとは、シュッツがどれだけわかりやすい性格をしているのかよくわかる。
「なに笑ってるんですか、アキラさん。」
「いやな、アイツらしいと思って。」
 アキラに言わせてみると、シュッツの行動は単純そのものだそうだ。
 思ったことがすぐに態度に出てしまう。
 これほどわかりやすいモノはない。
「でも、ヤヨイちゃん。アイツが何を心配してたか知ってるか?」
「いいえ。」
「オレ、なんだとよ。」
 今回のこの作戦、一番負担が大きいのはアキラだった。
 アキラの安全性などまったく考慮されていなかったため、シュッツは猛反対していた。
 しかし、それを押し切ったのは何を隠そうアキラ本人だった。
 だから、シュッツはずっとアキラを心配していたらしい。
「そうなんですか?」
「アイツはかなりの心配性だからな。」
「はあ。」
 イマイチはっきりとしない返事だ。
「そのうち、わかるようになるさ。」
 1年も付き合っていれば嫌でも。
 さすがにここまで言ってしまうのは気が引けたのか、言葉をそのまま飲み込んだ。
「あまり解りたくないかも・・・」
 これがアキラの笑いのツボにヒットした。
 笑いを抑え切れなくなり、腹を抱えて笑い出してしまう。
「ア、アキラさん?」
「悪い、悪い。面白くってな。
 あー、こんなに笑ったの久しぶりだ。」
 アキラは思い立ったように立ち上がる。
「さてと、そろそろ戻るか。」
 考えがまとまったのと、笑って気分がすっきりしたのか、さっぱりとした表情に戻っていた。
「私も浦辺先生の所に行かなくちゃ。」
「そっちも頑張れよ。」
「はい!」
 気持ちのいい返事を残して、ヤヨイは浦辺の下に向かった。
「ここからが勝負だな。」
 月を一瞥すると、アキラは医務室へ戻った。


あとがき

 ようやくアキラ達に敵対する組織の名前が伝えられました。
 この話はもうちょっと早くても良かったかなぁ、と反省気味。
 ちなみに捕らえられた兵士の名前は『杉本 翔太』といいます。蛇足ですが参考程度に。
 アキラが東京に住んでいたときのお友達です。
 その後の彼は柳沢先生の病院で静養中です。
 記憶がすっかり飛んでいるのでその回復に努めています。

 さてさて、次回なんですが、なんとレフォルムが仕掛けた罠に嵌ってしまいます。
 だから14章のタイトルが −謀略− なんです。
 実は次回から始まるお話は、2話の構成になっています。
 なので14章だけでは中途半端で終わってしまいますが、
 それは『とぅー びー こんてぃにゅーど』というわけなので、
 完結まで少々お待ちください。

 それでは、See You Agein?

2004/06/30


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