戦いが始まってから、もうすぐ1年が経とうとしていた。
UMの襲撃、有人機
戦局は時間と共に変化していく。
そこに大きな問題が1つ。
それは、今だに兵士を捕らえられない事。
だが、撃墜した機体から得られるデータにも限度があった。
それを打開するには、内部の事情を知る者に話を聞くしかない。
なんとしても
しかし、パイロットの行方は掴めない。
その足取りが掴めれば、UMの調査はさらに発展すると思われた。
ごく当たり前のようにスクランブルがかかり、ごく当たり前のように出撃する。
相手もUMに
しかも、普段より機体数が少なそうだ。
「作戦通りに行くよ。」
「おう。」
ナーエに合体したフェアは軽々とUMをなぎ払っていく。
今回の目的は
アキラもシュッツもそう思っていた。
作戦の事もある。
どうにかして
周りにいるUMを次々と叩き潰していく。
「どうせ
使う武装は
いつかのような連発はしない。
囲まれたところで確実に撃墜していく。
UMは徐々にその数を減らして行き、最後には
「アキラ!」
シュッツの呼びかけに応呼するようにアキラは一気に追い詰める。
「フルパワーだ!
ナーエが機体に触れると激しい発光現象が起こった。
以前使った時とは比べものにならないくらい威力が増していた。
回路という回路は焼き切れ、完全にその機能を停止した。
「後は頼む。」
その一言だけ残すとアキラはナーエのコクピットのハッチを開け、
この
アキラは素早くコクピットに続くハッチを見つけ、内部に乗り込んだ。
そこには、久しぶりに見る全身黒づくめの兵士の姿があった。
「よお。」
アキラの声に気付き、何かのスイッチを押そうとするが、寸前でアキラの拳を喰らう。
「逃げられるわけには行かないんだ。」
一撃で兵士を気絶させた。
「捕獲完了。いつでも行ってくれ。」
『了解。』
リストバンドの形をした通信機でシュッツとやりとりをする。
当のシュッツは空の上にいた。
ツヴァイとオートパイロットのアインで、ワイヤーを何本も張り巡らし
フラつきながらも研究所まで運ぶ。
研究所にたどり着いてからが大変だった。
なにせ初めて
政府関係者など、手続きに必要となりそうな人物をかき集めていた。
そしてその中に白衣を着た人物が1人。
「柳沢先生!」
シュッツがその姿を見つけ呼びかける。
「やあ、シュッツ君。ご苦労様。」
柳沢もその声に気付き、傍へと歩いてくる。
「今回一番苦労しているのはアキラですよ。」
労いの言葉は自分ではなく、アキラにこそ相応しい。
シュッツはそう考えていた。
「どこに行けばいいのかな。」
「ついて来て下さい。」
シュッツは柳沢を兵士のいる医務室へ連れて行く。
医務室のベットには、黒いスーツを着たままの兵士が横たわっていた。
そのすぐ隣には、様子を観察するためにアキラが座っている。
「柳沢さん・・・」
柳沢の存在に気付いたアキラだが、兵士から目を離そうとはしない。
離せない。と言った方が正しいのかもしれない。
目を離した瞬間、どこかへ行ってしまいそうな気がしたからだ。
「ヘルメットは脱がせました。呼吸、脈拍に問題はないです。今は気絶しているだけです。」
今の兵士の状態を一通り伝える。
「じゃあ、ちょっと起こしてもらえるかな?」
シュッツは入口の鍵をロックする。
医務室を密室に仕立て上げた。
兵士に逃げられては元も子もないからだ。
「大丈夫だよ。」
アキラはその言葉を合図に兵士に活を入れる。
兵士は小さな呻き声と共に覚醒する。
「僕たちは君をけして傷つけない。君の安全は必ず保証する。
だから、僕たちの質問に答えてくれないか?」
兵士は頷いた。
その表情に感情は出ていない。
「君の名前は?」
かまわず柳沢は質問を続ける。
「J‐137。」
「所属していた組織は?」
「レフォルム。」
兵士は淡々と答えていく。
「何故、僕たちを襲う?」
「ツェアシュ様の理想のため。」
「ツェアシュとは何者なんだ?」
シュッツが突然割り込んでくる。
アキラは気付いていた。シュッツが動揺していた事を。
「ツェアシュ・レリッシュ様は我等の総帥だ。」
シュッツは愕然となる。
「どうしたんだ?」
アキラが気になり声をかける。
「な、なんでもないよ。」
その事を悟られまいとするが、よけいに挙動不審になっていた。
だが、アキラはそれ以上の追求をやめる。
「ツェアシュの理想とはなんだ?」
「地球人類の滅亡。」
その場にいた全員の血の気が引いた。
あの宣言は真実だったのだ。
「オレ、ちょっと風に当たってくる。」
アキラはそういって立ち上がった。
「アキラ?」
振り向いたアキラの表情は暗かった。
疲れているのかも知れない。
そう思わせるような表情だ。
「悪い。」
それ以上何も言わずに医務室から出ていく。
アキラが向かった先は、研究所の中心に位置する大きな中庭だった。
戦闘があったのは昼過ぎだったが、もうすっかりと日は落ち夕闇が辺りを支配していた。
周囲に自然が多いせいか、この辺りは星が綺麗だった。
アキラは芝の上に寝転がり、星を見ていた。
「オレは・・・」
自分の考えが正しいのか、アキラにはわからない。
「だけど、アイツは・・・」
あの兵士の顔、見覚えがあった。
本当にアキラの考えが正しければ、とんでもない事になる。
そして、微かな希望が生まれる。
忘れたかったあの事件。でも、忘れられなかった。
「アキラさん、こんな所にいて大丈夫なんですか?」
アキラの視界の中にヤヨイの顔が入り込む。
「風にあたりに来ただけだ。」
そういってアキラは身体を起こした。
「考え事、してましたね。」
「まあな。・・・ウンダーズーフン事件、覚えているか?」
隠す必要もない事だ。
むしろ、人から意見を聞きたかった。
「え、あ、はい。
あの大量の行方不明者が出た事件ですよね。
私の知り合いも行方不明になったので、よく覚えています。」
ヤヨイも間接的な被害者だった。
アキラほどではないだろう。それでも、多少なりのショックは受けたに違いない。
「捕まえた兵士、見覚えがあるんだ。
記憶が確かなら、そいつはあの時行方不明になった。」
友人だった。
だから、よく覚えている。
「それって、つまり・・・」
そこから導き出される答えは1つしかない。
「あいつらの兵士はウンダーズーフン事件の被害者かもしれない。」
これがアキラの答えだった。
しかし、それしか考えられないのも、また真実だ。
「それ、シュッツさんに言ったんですか?」
「いいや。でも、言うよ。医務室に戻ったらな。」
中庭に来てようやくまとまった考えだ。
もちろん、今もシュッツが医務室にいるという保証はない。
だが、会えば必ず伝えるつもりだった。
「そうですか・・・」
「シュッツに何かあるのか?」
言葉を濁すようなヤヨイの態度が気になったようだ。
「この作戦が決まってからシュッツさん暗くって。
気になってたんです。」
アキラは苦笑いをする。
シュッツの事は知っていた。
しかしヤヨイに気付かれてしまうとは、シュッツがどれだけわかりやすい性格をしているのかよくわかる。
「なに笑ってるんですか、アキラさん。」
「いやな、アイツらしいと思って。」
アキラに言わせてみると、シュッツの行動は単純そのものだそうだ。
思ったことがすぐに態度に出てしまう。
これほどわかりやすいモノはない。
「でも、ヤヨイちゃん。アイツが何を心配してたか知ってるか?」
「いいえ。」
「オレ、なんだとよ。」
今回のこの作戦、一番負担が大きいのはアキラだった。
アキラの安全性などまったく考慮されていなかったため、シュッツは猛反対していた。
しかし、それを押し切ったのは何を隠そうアキラ本人だった。
だから、シュッツはずっとアキラを心配していたらしい。
「そうなんですか?」
「アイツはかなりの心配性だからな。」
「はあ。」
イマイチはっきりとしない返事だ。
「そのうち、わかるようになるさ。」
1年も付き合っていれば嫌でも。
さすがにここまで言ってしまうのは気が引けたのか、言葉をそのまま飲み込んだ。
「あまり解りたくないかも・・・」
これがアキラの笑いのツボにヒットした。
笑いを抑え切れなくなり、腹を抱えて笑い出してしまう。
「ア、アキラさん?」
「悪い、悪い。面白くってな。
あー、こんなに笑ったの久しぶりだ。」
アキラは思い立ったように立ち上がる。
「さてと、そろそろ戻るか。」
考えがまとまったのと、笑って気分がすっきりしたのか、さっぱりとした表情に戻っていた。
「私も浦辺先生の所に行かなくちゃ。」
「そっちも頑張れよ。」
「はい!」
気持ちのいい返事を残して、ヤヨイは浦辺の下に向かった。
「ここからが勝負だな。」
月を一瞥すると、アキラは医務室へ戻った。
ようやくアキラ達に敵対する組織の名前が伝えられました。
この話はもうちょっと早くても良かったかなぁ、と反省気味。
ちなみに捕らえられた兵士の名前は『杉本 翔太』といいます。蛇足ですが参考程度に。
アキラが東京に住んでいたときのお友達です。
その後の彼は柳沢先生の病院で静養中です。
記憶がすっかり飛んでいるのでその回復に努めています。
さてさて、次回なんですが、なんとレフォルムが仕掛けた罠に嵌ってしまいます。
だから14章のタイトルが −謀略− なんです。
実は次回から始まるお話は、2話の構成になっています。
なので14章だけでは中途半端で終わってしまいますが、
それは『とぅー びー こんてぃにゅーど』というわけなので、
完結まで少々お待ちください。
それでは、See You Agein?