アキラ達は絶体絶命の危機に瀕していた。
「12門こっちに狙いを付けてる。」
360°の一斉射撃。
避け切ることは不可能だ。
しかも、アキラは避けようともしない。
「ちょっと、アキラ!?」
ナーエに向かって砲弾は直進してくる。
「避けれないなら防ぐしかないだろ。盾代わりならある。」
避けることもなく、全ての砲弾をその身に受けた。
しかし、機体には傷1つ付かない。
「どうだ!」
破られない自信があったようだ。
「
この状況でなければ、シールドのないナーエに取っては有効な防御手段だと言える。
しかし、今、飛行できなくなれば一貫の終わりだ。
その危険だけは犯してはならなかった。
「次にああ狙われたら終わりって訳か。」
「そういう事。」
アキラは大きくため息をついてしまう。
機体に掠めただけでも衝撃は大きい。
それが度重なれば、機器にも影響が出てくる。
アキラ達に残された時間は少ない。
浦辺やヤヨイは研究所からこの状況を見守るしかなかった。
アキラ達に通信を入れることはできる。
それで状況が良くなるのならやっていた。
ヤヨイはじっとモニターを見つめる。
そこには明らかにフェアが劣勢と見て取れる光景が映し出されていた。
ヤヨイは思う。
実際に戦っている者の痛みや苦しみは研究者側からはわからない。
だけど、その苦しみが、痛みが、いくらかでも軽減するなら、自分はどんな苦労も惜しまないだろう。
それが、自分によくしてくれるアキラやシュッツのためなら、なおさらだ。
後は、彼等が無事に帰ってくる事を祈るしかなかった。
戦闘が始まってから4時間が経過しようとしていた。
UMの数は減ってきてはいたが、それでもまだ数は多い。
それよりも、アキラの消耗が激しかった。
「はぁ、はぁ・・・」
アキラは汗を拭う。
すでに気力だけでフェアを操縦していた。
そして、フェアのエネルギーも底を尽きかけていた。
「後、どのくらい動ける?」
「10分が限界。」
「そうか。」
逃げるにしても、時間がなさ過ぎる。
もし、フェルンに合体できれば稼働時間は一気に倍に跳ね上がる。
しかし、できないものを望んでも仕方がなかった。
ナーエで切り抜けるしかない。
アキラがそう思った矢先だった。
一瞬、視界が白く染まる。
直後に激しい振動がフェアを襲った。
何が起こったのか、全くわからなかった。
「な、何が?」
アキラは咄嗟に周囲を確認する。
コクピットが所々火を吹いていた。
かなりの衝撃が襲ったのが目に見えてわかる。
「シュッツ?おい、シュッツ!?」
呼びかけるが反応はない。
直通のモニターは壊れていたが、音声まで繋がらないはずがなかった。
「外部映像を、生きてるモニターに!」
AIに指示を出す。
モニターに映し出された映像はショッキングなものだった。
「なんだよ、これ・・・」
アキラは言葉を無くす。
穴が開いていた。
胴体に、巨大な穴がポッカリと開いていた。
人間で言えばちょうど腹部。アインとツヴァイの継ぎ目の部分だ。
そこが右半分大きくえぐれていた。
アキラの血の気が一気に引く。
何故なら、そこにはツヴァイ側のコクピットがあるはずの場所だったからだ。
「ツヴァイ側のコクピット内の映像を出してくれっ!」
確認をしたかった。
シュッツが生きているのかどうか。
一拍間を置いてノイズ交じりの映像がモニターに映し出される。
そこに映っていたのは、血まみれでパイロットシートに横たわっているシュッツの姿だった。
映像だけでは生きているのかわからない。
しかし、生きているならすぐにでも病院に連れて行かなければならないだろう。
「シュッツ!」
何度も呼びかけるが返事は全くない。
気絶しているだけなのか、それとも。
最悪の想像が頭をよぎる。
送られてくる映像はノイズが多すぎて当てにならない。
必死で呼びかけるしかなかった。
だが、いくら呼びかけてもシュッツは反応しない。
だからといって諦める訳にはいかない。
アキラは決心をする。
何としてもこの場を切り抜ける事を。
改めて操縦レバーを握る。
しかし、機体の状態は辛うじて宙に浮いているといったところだった。
「もっと力があればっ!」
今更後悔しても遅いが、それでも悔やみたかった。
もっとうまく操縦できていれば結果は違ったのだろうか。
それはわからない。
『何のために力を欲する。』
突然、声が響く。
「だ、誰だ!」
辺りを見回すが、何もあるはずがない。
『何のために力を欲する。』
また、同じ問いが繰り返される。
「守るためだよ!」
アキラは叫ぶ。
声の主が何者かなんて関係なかった。
『何を守るのだ?』
「オレが守りたいのは・・・」
様々な思いがアキラの中を巡る。
「絆だ!!」
肉親でも友人でもなかったシュッツとの間に始めにできたモノ。
同じ思いを共有する。
それがアキラのいう『絆』だった。
「それに、誰かがいなくなるなんて事は御免だしな。」
ここで力が足りず、シュッツを失うなんて事は真っ平御免だった。
それに、別れの痛みを再び味わいたくない。
「だから、力を貸してくれ!」
『・・・我を求めよ。しからば、力を貸さん。』
変化が起こる。
アキラの頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。
「なんだ、これ・・・」
アキラの顔に苦痛が浮かぶ。
今まで体験したことのない感覚だった。
様々なイメージが浮かび消えていく。
それは一瞬であるようだったし、永遠でもあるようだった。
「
あるキーワードが飛び込んでくる。
アキラはそれを無意識のうちに唱えていた。
突然光が膨れ上がる。
その光はフェアを包み込む。
そして、拡散する。
アキラの意識はそこで途切れた。
一瞬でフェアタイディゲンの周囲にいた百数体のUMが消滅した。
「・・・ヴィッセン。」
ツェアシュは静かに怒っていた。
完全に追い詰めたところからの逆転劇。
ツェアシュの描いていたシナリオとは大きく違うモノだ。
「も、申し訳ありません!ツェアシュ様!!」
ヴィッセンもこの結果は予想していなかった。
詰めが甘いという問題でもない。
チェスでいうならチェックメイトの状態。
どう考えてもフェアタイディゲンに次の手はなかった。
「し、しかし相手も満身創痍。次こそは!」
どれだけ言い繕っても動揺は隠せない。
「その役目、私にお任せ下さい。」
マハトがヴィッセンを押し退ける。
「・・・次の失敗は許さないよ。」
今のツェアシュにはどんな言い訳も通用しないだろう。
彼が欲しいのは実証だ。
「お任せ下さい。必ずや。」
深々と礼をする。
マハトには自信があった。
必ずフェアタイディゲンを、いや、そのパイロットであるアキラを再起不能に陥れる事のできる秘策があるからだ。
その内容が何なのか、ヴィッセンは知らなかった。
アキラが気付くと、そこは研究所の医務室だった。
「アキラさん!」
アキラが目を覚ましたのに気がついたヤヨイは勢い余ってアキラに抱き着いてしまう。
「お、おいおい、ヤヨイちゃん?」
アキラはヤヨイを引きはがした。
ヤヨイの顔は涙でグチャグチャになっていた。
「どうしたの。」
「どうしたの。じゃありませんよぉ。」
名前を呼ばれたときには気付かなかったが、ヤヨイの声が泣き声になっているのに気付く。
「もう、本当に心配したんですから!」
話を聞けば、墜落寸前で研究所に戻ってきたフェアから、アキラは気絶したまま医務室に運ばれて来たらしい。
しかも、丸1日気を失ったままで、今まで眠っていたようだ。
「シュッツは?」
アキラは自分の事よりもシュッツの事の方が気になっていた。
あの赤い映像が頭にこびりついて離れない。
「シュッツさんは入院してますよ。
大量出血してて、左腕の裂傷もひどかったんですけど、命に別状はないそうです。」
アキラはひとまず胸をなで降ろす。
もし、シュッツが死んでしまったら、いくら後悔しても後悔し切れないだろう。
一生悔やんで生き続けたかもしれない。
「明日、一緒にお見舞いに行きませんか。」
「いいよ。」
シュッツの命に別状は無いとはいえ、やはり気になってしまう。
「じゃあ、私、フェアの修理の方、見てきますね!」
「なら、オレも。」
アキラは起き上がろうとするが、ヤヨイに阻まれてしまう。
「アキラさんはまだ寝ててください!
今動いちゃうと、私が柳沢先生に怒られます。」
柳沢に安静にさせるようにと頼まれているらしい。
「わかったよ。行ってきな。」
これではアキラも諦めるしかなかった。
「はい、いってきます!」
元気よくヤヨイは医務室を飛び出していく。
アキラはそれを見送った。
大きなあくびをする。
アキラはまた、眠りの世界に引きずり込まれていく。
さすがに某合体ロボットアニメみたいにパイロットを殺すという事はしませんよ。
それでなくてもシュッツ君は重要人物ですから、殺すはずがありません。
ツヴァイのパイロットとしてだけではなく、ある事についても非常に重要な役割を担ってます。
コレについては、後々出てきますのでお楽しみに。
さて、アキラ君の方なのですが、何の声を聞いたのでしょうか?
そして、敵将マハトが仕組んでいるアキラを再起不能に陥れる罠とは?
次回やるわけじゃないんです。ごめんなさい。
じゃあ、次回はといいますと、タイトルは―標的―といいまして、アキラ君が狙われる話です。
しかも、フェアに乗っているアキラではなく、生身のアキラが狙われてしまいます。
どうなるのかは次回のお楽しみにしてください。
それでは、See You Agein?