ヴィッセンは悔しかった。
あの作戦こそ完璧で、完全にフェアタイディゲンを撃墜できるモノだと思っていたからだ。
その思惑は、完全に打ち砕かれた。
この悔しさを治めるためには、もう一度自らの手でフェアタイディゲンを追い詰めるしかない。
その計画は既に立てていた。
アキラは朝早くから柳沢の勤める病院にいた。
何故アキラが病院にいるかというと、健康診断のためだ。
もちろん、シュッツの見舞いも兼ねている。
昼過ぎには晴れて検査も終わり、アキラはシュッツの病室に足を運んでいた。
「元気か、怪我人。」
「それは無いんじゃない、アキラ。」
シュッツの怪我は全治1ヵ月と診断された。
もうすぐ退院をしてもいい頃あいだった。
しかし、柳沢はもう少し経過を見てから退院させるつもりだ。
「お前さ、本当に安静にしてるか?」
この問いにシュッツは動揺してしまう。
アキラはシュッツの怪我の治りが妙に遅い事を見抜いていた。
「何してるんだよ?」
シュッツは黙ったまま答えようとしない。
「内緒にしたいなら、それでいいけどさ。」
アキラも深くは話を聞かない。
シュッツが直接話してくれるのを待っていた。
「あのね、アキラ。」
妙に改まって問い掛けてくる。
「何?」
「あの時、もしフェルンに飛行能力があったら、こんな事にならなかったかなあ?」
シュッツは包帯でぐるぐる巻きになっている左腕をさする。
「さあ?」
アキラはその事に関して興味がなかった。
「さあ?って・・・」
「もし。なんて考えても仕方がないだろ。今オレ達が見なきゃならないのは未来だ。」
過去を振り返っても仕方がない。
振り返るのは全てが終わってからだと、アキラは考えていた。
「うん、そうだね。」
シュッツもそれをわかっていた。
「だからお前はさっさと腕を治せ。」
「わかってる。」
「くれぐれもムチャをするなよ。」
「うん。」
その返事を聞き、安心して席を立った。
「あ、それと、明日は来れないから。」
「どこか行くの?」
「帰るんだよ。家に。」
「そうか、もう1ヵ月経つんだね。」
「明後日はまた来るから。」
「気をつけてね。なんだかイヤな予感がするから。」
「そんな事言うなよ、縁起の悪い・・・」
実際のところ、実家に帰るたびにUMの襲撃が起きている。
運が悪いといってもいいのかもしれなかった。
「じゃあな。」
アキラはシュッツの病室を後にした。
翌日。
アキラは横浜駅にいた。
新幹線に乗って1人静岡から地元横浜まで戻って来ていた。
そこから数駅乗り継ぎ家に帰る。
「ただいま。」
「お帰りなさい、明君。」
叔母であり義理の母親でもある美里が快くアキラを出迎える。
「美里さん、仕事はいいの?」
アキラの記憶が確かなら、美里は派遣会社に所属していて事務をしているはずだ。
今日は平日。仕事が休みだとは考えられない。
「せっかく息子が帰ってくる日なのに仕事なんてやってられないわ。」
アキラは胸が痛む。
美里に息子だと言ってもらえるのはアキラとしても嬉しい。
だが、アキラは本当の両親の事を割り切れずにいる。
「和樹さんも今日はお昼頃には帰るって言ってたから、みんなでお昼にしましょうね。」
何も言えなかった。
「どうしたの、明君。」
アキラの頬には一筋の涙。
「スミマセン、美里さん。」
アキラは慌てて涙を拭う。
泣いてしまうつもりはなかった。
不覚だと言ってもいい。
「まだ義兄さん達の事、気にしてるのね。」
美里は、アキラの涙の理由を知っていた。
「忘れられないか。」
アキラの心の傷はまだ癒えていない。
深く、刺が刺さっているような状態だった。
その刺はなかなか抜けない。
「時々、父さんや母さんがひょっこり帰って来そうな気がするんだ。」
未練、という訳ではない。
アキラの本当の両親は行方不明になっている。
だが、他の人は既に死んでいると考えていた。
アキラはそれを完全に受け止められなかった。
心のどこかでまだ生きていると思っている。
「明君、養子になった事、後悔してない?」
「してないです。」
それはハッキリと言い切れた。
美里と和樹の養子になったのはアキラ自身の意志だったからだ。
でも、もし。
もし、アキラの前に再び両親が現れたなら、アキラはその手を拒めないかも知れない。
時計の針は6時を回ったところだった。
長谷川家の玄関には一家全員が集まっていた。
「また、1ヵ月したら帰って来るんだぞ。」
「わかってます。」
アキラが約束を破らないのはよく知っている。
和樹の目から見てもアキラは律義だった。
「じゃあ、いってきます。」
アキラは家を出る。
和樹と美里はそれを見守っていた。
2人ともアキラが何をやっているのかは知らない。
アキラが教えていないためでもあるし、政府がフェアタイディゲンのパイロットについて厳しい情報制限を掛けているためでもある。
それでも、薄々と感付いてはいた。
アキラが危ない事をやっているのではないか、と。
しかし、和樹はそれを止めようとは思わなかった。
アキラのやりたいようにやらせようと決めていた。
それにアキラの性格も充分にわかっている。
止めても止まるはずがない。
いつか話してくれる事を信じて待つしかなかった。
どうしてこうもシュッツの予感は当たるのか。
アキラは不思議でならなかった。
実際今日も言われた通りになっていた。
周囲を黒のボディスーツを着た何者かに囲まれている。
アキラがこうして狙われる心辺りはただ1つ。
レフォルムに他ならない。
「いい加減仕掛けて来たらどうかな、レフォルムの。」
アキラがしびれを切らし、周囲に牽制を掛ける。
あまり時間を取られる訳にも行かないし、何よりここは自宅から近すぎた。
できることなら手っ取り早く済ませたい。
「仕掛けてこないか。ならこっちからいくぞ!」
アキラは視線の方向にいた1体を目掛けて突進する。
気絶させるだけならたやすい。
そのまま、周囲を巻き込み連続で黒い兵士達を気絶させていく。
レフォルムは完全に目測を誤っていた。
アキラがここまで生身で強いとは考え切れなかったようだ。
「他にいるんだろっ!出て来いっ!!」
アキラは黒幕の存在を感じ取っていた。
「ここまでパイロットが強いとは、計算外だな。」
マントを纏った理系の男が立っていた。
お世辞にも好感が持てる顔とは言えなかった。
「あんたがレフォルムの親玉か?」
アキラは身構える。
今、目の前にいる人物がレフォルムの親玉でなくても、かなり高い地位の人物だと感じとれたからだ。
「我が名はヴィッセン・ケントンス。ツェアシュ様の参謀にしてレフォルムの最高幹部の1人だ。」
ヴィッセンは淡々と語る。
「で、その幹部がオレに何の用だ?」
何の用もないのに幹部クラスが出てくるとは思えなかった。
「貴様を抹殺するか、あわよくば捕らえようと思ったが、計算違いもいいところなのでな、ここらで退散させてもらおう。」
ヴィッセンは大きく手を広げる。
マントの中から霧のようなモノが湧き出てくる。
「1つ聞かせろ!何故オレを狙った!?」
わざわざ横浜までやって来て、アキラだけを狙うというのが腑に落ちない。
怪我をして動けないシュッツの方を狙った方が確実に命を奪う事ができるからだ。
「貴様の行動は把握していたからだ。」
ヴィッセンの姿は霧と共にかき消えた。
気絶せずに残っていた兵士達もヴィッセンの後に続く。
その場に残ったのは気絶した兵士達とヴィッセンの残した言葉に疑問を抱くアキラだった。
その後、アキラは急いで浦辺に連絡を取った。
気絶させた兵士達が気付いて逃げられる前に何とかしなくてはならなかったからだ。
浦辺もその連絡を聞いて驚いた。
まさかアキラ自身が狙われるとは思ってもみなかったし、何よりあの作戦以来久しぶりにレフォルムの兵士を捕獲できたと聞いたからだ。
浦辺は帰って来たアキラを出迎える。
「怪我はないかね、アキラ君。」
「大丈夫ですよ、博士。」
実際、アキラに怪我はない。
「オレ、すごい奴に会ったかも知れません。」
ヴィッセン・ケントンスの事は何よりも先に報告しなければならなかった。
自ら最高幹部だと名乗った男の特徴を詳しく浦辺に伝える。
「博士、覚えはありませんか?」
もし、ウンダーズーフン事件のときに行方不明になった学者なら浦辺と面識があるかもしれないと思った。
「スマンが、記憶にないわい。」
「そうですか。」
「じゃが、アキラ君。これはラッキーだと思うぞ。」
名前以外何もわからなかったレフォルムの幹部の顔が1人とはいえわかったのだ。
幸運といっていいだろう。
だが、アキラには気になっている事があった。
ヴィッセンの言葉がどういう事なのか知りたかった。
しかし、アキラはこの事を浦辺に話そうとしなかった。
この言葉の真相は、後日知る事になる。
自分的に今回は不発。
言い換えれば不満だらけ。
自分で書いておきながらこいつ等は何がしたかったんだろうな、と真剣に考えてしまいます。
まあ、レフォルムがアキラの行動を調べていた訳というのは存在します。
パイロットの行動パターンが辛うじてわかったのがアキラだった、というだけの話です。
アキラ君は本編中でもありましたが、生身でかなり強いです。
まず、元々身体能力が高い事。
そして、その上に格闘技のノウハウを持ち合わせている。
上手く行かなくても無敵かも知れません。
次回は、そんなアキラ君にとって試練の時が訪れます。
心の傷をえぐるような出来事が起こってしまうのです。
アキラ君の心の傷はこれまでに何度か紹介してきました。
次回のサブタイトルで内容がわかってしまう人もいるでしょう。
この度は3回シリーズになる予定です。
初のシリーズ予告ですね。
それでは、See You Agein?