この間自宅に戻ったときから、アキラはほとんど外出しなくなった。
あの事件で明らかに狙われているのが自分だと痛感したからだ。
そんな生活をしているうちに、シュッツは退院し、フェアその修理を完了させた。
シュッツとフェアが帰って来てからは、いつもと変わらない生活に戻った。
ただ1つ違うところは、アキラが何かを考えがちになった事だ。
悩むというほどでもない。
ただ漠然と何かを考えていた。
アキラは、研究所内にあるカフェテラスである報告書を読んでいた。
その内容はレフォルムの兵士達についてだった。
1つ、兵士達は明らかに精神操作を受けている。しかもそれは洗脳と呼ぶのも生温い代物だ。
1つ、兵士達にはナンバーが与えられており、個人が呼ばれる時にはそのナンバーで呼ばれる。
などなど。
10項目に渡って書かれていた。
「あー、居た居た。アキラさーん。」
突然、誰かがアキラに声を掛けて来た。
「ヤヨイちゃん。」
アキラは大きく背伸びをする。
「何か用?」
「はい!浦辺先生が呼んでるんです。」
「わかった、すぐに行くよ。」
アキラは真っ直ぐ浦辺の部屋に向かった。
「よく来た、アキラ君。」
大袈裟に浦辺はアキラを出迎える。
「早速本題に入るんじゃが、かまわんね。」
アキラは頷く。
「あの1件の際に起こったあの現象。アキラ君はどう思うかね?」
1ヵ月前のレフォルムの罠にかかってしまった事件の時の事だ。
アキラはよく覚えていた。
「本来なら有り得ない事だと思います。」
あの時は確かにエネルギーはつき掛けていたし、なにより、あんな武装を装備していた覚えもなかった。
「あれからフェアを調べ直しての。わかった事があるんじゃ。」
「何ですか?」
「アインの
フェアタイディゲンを開発した浦辺ですら何故そんな物がそこにあるのかわからなかった。
設計の段階では確かにその場所は空白だったし、制作段階でもそんな物を設置した覚えもない。
「そのブラックボックスがあれの秘密なんですか?」
「多分そうじゃと思う。」
断定はできない。
それでも、そうだとしか考えられなかった。
「博士、フェアの動力の
知らない事が多すぎる。
最近アキラが痛感している事だ。
「実は、わし等もよくわかっとらんのじゃ。」
そう前置きをして浦辺はヴィレについてわかっている事をアキラに話した。
電気に似てはいるが、全く違う性質を持ち、電気の100倍以上のエネルギーが取り出せるという代物だ。
その正確な実態はわかっていない。
「何か、とんでもないものですね。」
そんな感想しかでなかった。
アキラはもっと得体の知れない物のような気がしている。
「スマンな、アキラ君。そんなよくわからない物が動力で。」
悪くいえば人体実験とも言えたからだ。
「でも、フェアは、電気じゃ動かないでしょ。」
まさにその通りだった。
フェアに搭載してある物と同じサイズのジェネレータでは10分動かすので精一杯だ。
開発セクションによく立ち寄っているアキラは、この話をよく知っていた。
「わしが言えるのは1つだけじゃ。気をつけてくれよ。」
実に得体の知れないエネルギーだ。
人体にどのような影響が出るのか計り知れなかった。
「はい。」
返事をした瞬間、アキラの左腕に痺れが走る。
苦痛に顔が歪む。
「どうしたんじゃ?」
突然の事に浦辺は呆気に取られる。
「大丈夫です。」
そう言いながらも、アキラの声は震えていた。
「最近たまにあるんですよ。」
どうやら痺れは消えたようだ。
「柳沢君に診てもらってはどうかね?」
「もう診てもらいました。」
アキラは痺れが出だしてからすぐに柳沢に相談していた。
しかし、様々な検査をしてみたが何も異常は出なかった。
精神的なモノなのか、それとも他に理由があるのか?
何もわからなかった。
「特に異常は無いみたいですし、困る事もありませんから。」
「それならいいんじゃよ。」
アキラがそういうなら、浦辺はそれを信じるしかない。
「博士、どうしてあいつらは来ないんでしょうね。」
ふとアキラはそんな事を言った。
フェアの修理が終わるまで待っているというのはおかしな事だし、何よりフェアのいないこの機を逃しているのが変に思えて仕方がなかった。
「何やら企んでおるのかもしれんな。」
何を企んでいるのかは検討が付く。
次こそ確実にフェアを叩き潰す準備をしているのだろう。
「もうすぐ、次の手を打ってくるじゃろう。」
前の襲撃から1ヵ月以上が経つ。
いつ襲撃があってもおかしくなかった。
「そうですね。」
アキラもその意見に賛同する。
シュッツでは無いがアキラもイヤな予感がしていた。
シュッツに聞けば同じ事を言うかもしれない。
そう思った時だった。
けたたましく警報が鳴り響く。
1ヵ月ぶりに聞く、UM襲来の警報だ。
「いってきます!」
「気をつけてくれよ。」
「はい!」
アキラは浦辺の部屋を飛び出した。
目的地は三重県。
シュヴェスタのレーダーはUMの存在を既に捉らえていた。
レーダーの指し示す位置は伊勢湾沖の小さな島だった。
1ヵ月前と比べれば遥かに少ない数だ。
だが、その中にアキラ達が確認した事の無いUMが2機あった。
片方が赤で、もう片方は青でカラーリングされていた。
おそらく、ただのUMでは無く
何故なら、その機体の上に人が立っていたからだ。
片方には男、もう片方には女が立っていた。
2人とも普通の兵士ではなさそうだ。
まるで陣頭指揮を取っているようにも見える。
到着する少し前にナーエに合体する。
待ち受けられているのはよくわかっている。
だから、むやみに突っ込むような真似をするつもりはなかった。
ゆっくりと、周囲を警戒しながら接近していく。
肉眼でUMの姿を確認できる距離まで近付いた時だった。
『聞こえるか、フェアタイディゲンのパイロット。』
突然、男の声が通信システムに割り込んでくる。
アキラはその男の声に何故か懐かしさを感じてしまう。
『話をしましょう。』
次に飛び込んで来た声は女の声だ。
「どこかで聞いた事のあるような?」
アキラは記憶の糸を辿るが答えは出てこない。
だが、どこか懐かしく、しかも、安らいでしまう。
「知ってるの、アキラ。」
「いや?レフォルムの兵隊に知り合いなんていないし。」
思い当たる節も無く、声の主を確認するためにさらに接近する。
「なんだか、気味が悪いね。」
いつもならこれほど接近する前に攻撃を受けているはずだ。
あの男女が何か企んでいるのかも知れない。
「また幹部クラスか?」
普通の兵士では無いことは一目見てわかる。
しかし、その姿を確認した途端、アキラは動揺してしまう。
「・・・嘘だろ?」
思い出してしまったのだ。
何故、その声を懐かしいと感じてしまったのか、安らぎを感じたのか。
「どうしたの?」
「そんな事、あってたまるかよ・・・」
シュッツの問いに答えられる余裕も無い。
『そこにいるんでしょ、明。』
女の方がさらに語りかけてくる。
『出て来て、顔を見せてちょうだい。』
「母、さん・・・」
確信してしまう。
今、目の前にある事は事実なのだと。
『明、帰っておいで。』
「父さん・・・」
アキラの戦意が喪失されていく。
「母さんと父さんって、もしかして・・・」
どうやらシュッツも気付いたようだ。
「何で、こうなるんだよ!」
アキラの叫びがこだまする。
ある程度の事態は想定していた。
しかし、実際に事が起こってしまえば状況は違う。
「落ち着いて、アキラ。あれは本物のご両親なの?」
「本物だ。」
偽者かもしれない。
アキラも確かに始めはそう思った。
だが、姿形が似ているだけの偽者に安らぎを覚えるだろうか。
そんな訳が無い。
ささいな仕草、声のトーン、全てが記憶の中の両親と一致する。
忘れるはずが無い。
『二度と離さないよ、明。』
この言葉がアキラにトドメを刺した。
「あ・・・」
アキラの思考は完全にストップしてしまう。
「アキラ!どうしたの、アキラ!!」
シュッツの呼びかけにも応じない。
これではどう考えても戦う事は不可能だ。
「
アイン側にあった主導権をツヴァイ側に移し替える。
しかしこれも応急処置だとしか言えない。
今は撤退するしかなかった。
どうでしたでしょうか?
ショッキングな両親との再会。
そのためにアキラ君は思考を停止させてしまいます。
精神崩壊まではいっていませんが、それでもかなり危ない状態に追い込まれています。
それほどアキラが両親と再会するというのはショックが大きかったのです。
彼は立ち直れるんでしょうか?
それは後のお楽しみという方向で。
前回のあとがきで予告したと思いますが、これは3回シリーズの1回目です。
あと2回続く訳ですが、次回ではアキラ君の過去が少しわかるかも?
アキラの過去といっても3年程度前の事ですが、今回あのセリフでアキラがフリーズしてしまった訳がわかるかも。
(ハッキリしなくてスミマセン・・・)
フェアのブラックボックスが何故できたのか、なんていう謎も今回誕生してしまいました。
これは多分後々わかると思います。
今回、やっと
それでは、See You Agein?