アキラの、実の両親との再会は、最悪だった。
あの状況で、あのセリフで……
全てがアキラの心を切り裂くナイフとなった。
ズタズタになってしまったアキラは人との接触をやめてしまう。
誰にも会わず、誰の問い掛けにも答えず、アキラは自分の殻に閉じ篭った。
少し昔の話をしよう。
遡る事、3年前。
アキラが、シュッツと出会うさらに2年前の事だ。
雪の降る、寒い日だった。
ある重大な事件が起こった。
ウンダーズーフン事件。
世界中を混乱の渦に叩き込んだ事件だ。
2万人もの人々が行方知れずとなり、3年経った今日でも全く手掛かりが無い。
そして、アキラには、一生忘れられない日になった。
実の両親が目の前で消えてしまう。
初めてUMが現れた時だった。
ほんの一瞬目を取られた間に両親の姿はかき消えた。
アキラは必死で探した。
だが、見つからなかった。
そのショックでアキラは約半年、生気の抜けた、まるで人形のような状態が続いた。
その殻をこじ開け、アキラを引き取ったのが結婚間もない長谷川夫妻だった。
夫妻は驚いた。
アキラの性格がすっかり変わっていたからだ。
元々アキラは、人懐っこく一言でいえば優しい性格をしていた。
それが事件後、一変した。
サバサバした、人の優しさが素直に受け止められない、そんな人間不信といっていい性格に変わっていた。
美里はアキラが立ち直れるように全力でサポートした。
大学では九鬼が親身になってくれた。
だから、何とか大学にはいけていた。
何とか普通の生活ができるようになるまで、また半年、時間が過ぎた。
ウンダーズーフン事件から1年。
アキラはようやく新しい一歩を踏み出す事になった。
アキラが長谷川夫妻の養子の申し入れを受け入れたのもその頃だ。
アキラにとって、新しい人生の始まりだった。
アキラが自室に閉じ篭ってから2日が過ぎた。
誰の問い掛けにも答えない日々が続く。
この日、レフォルムが研究所に牙を剥いた。
アキラが出撃できないこの時を狙ったものだと、すぐにわかった。
パワーダウンしてしまうが、シュッツ1人でも出撃することは可能だ。
アキラがいない分、いつもの戦闘の倍以上、疲れるだろう。
持久戦に持ち込まれると完全に不利だ。
勝負は手早くつけたかった。
それを実践するには以前やった方法しか思いつかない。
それは、迎撃。
こちらが主に使用できるのはフェルンだけだ。
UMの射程距離外から攻撃するしかない。
時間との勝負だった。
「アキラ、行ってくるよ」
シュッツはアキラの部屋の前で声をかけた。
アキラが聞いているのかどうかはわからない。
それでも、声をかけずにいられなかった。
「絶対、ここを守るから。
アキラがちゃんと帰ってこられるように守るから」
それだけ言うとシュッツは格納庫に向かって走り出す。
研究所を守り抜くという、決意を胸にシュッツは戦場に赴いた。
シュッツの声は聞こえていた。
しかし、言葉が出ない。
何を言っていいのか、よくわからなくなっていた。
『何を悩んでいる?』
幻聴なのか、1ヵ月前のあの時と同じ声が聞こえていた。
「……うるさい」
アキラはその声すら拒む。
『お前の言う絆とはそんなものなのか?』
「黙れ!」
いつになく、アキラの機嫌は悪かった。
「……どうすればいいんだ?」
その問いに答える声は無い。
ただ、むやみに時間だけが過ぎていく。
迎撃を開始してから10分ほど時間が経った。
これまで相手にしてきた規模より遥かに小さいとはいえ、シュッツは普段以上に疲れを感じていた。
2人だったからこれまで上手くやって来れたのだと、この時シュッツは痛感してしまう。
『大丈夫ですか、シュッツさん』
シュッツの疲れを感じたのか、ヤヨイが通信を入れてくる。
「問題無いよ。それより、ヤヨイちゃんの方は大丈夫なの?」
『何とか、ってところです』
今、ヤヨイは、本来ならアキラがやっているフェルンの武器管制を研究所から遠隔操作で行っていた。
慣れない作業ではあるが確実にこなしている。
「あと少しだから、頑張って」
『はい!』
持久戦にはならない。
シュッツはそう感じていた。
そんなにイヤな感じはしないし、今回は今この場にいるだけだろう。
そして、その通りになった。
増援もなく、残ったUMは残らず叩きのめされた。
このままではいけない。
シュッツがそう思ったのは2回目の迎撃の後だった。
正直に言えば、アキラの自発的な回復を待つ時間がない。
このままではいずれフェアは倒されてしまう。
そうなる前に、アキラに立ち直ってもらわなければならなかった。
そのためには、どうすればいいのか?
シュッツは悩む。
答えはなかなか見つからない。
アキラの過去をあまり知らないためでもある。
さすがに、今からアキラに聞いても答えてはくれまい。
だから、自力でどうにかするしかない。
シュッツがその答えを見つけたのは、アキラが閉じ篭ってから1週間後の事だった。
アキラが閉じ篭ってから1週間が経った。
シュッツは浦辺の部屋を訪ねていた。
「それで、どうなのかね、アキラ君は?」
シュッツは横に首を振る。
何も変わっていない。
「そうか……」
「元々、レフォルムはこれが狙いだったのかもしれません」
戦略的には有効なのかも知れない。
だが、やられた方は堪らなかった。
「ここまでやられるとはのう」
「昔にも似たような事があったんでしょう」
アキラの過去に何があったのか、浦辺もシュッツも知らない。
調べれば何かわかったのかも知れなかったが、調べようとはしなかった。
「だから、アキラをある人達に任せてみようと思うんです」
アキラの過去を知っているはずの人に任せてみるしか、他に方法が思いつかなかった。
「どうするつもりじゃ?」
「横浜に、行ってきます」
横浜。
それはアキラの実家のある場所だ。
「アキラの養い親に頼むしか無い。
そう思います」
これが、シュッツの出したアキラを救うための答えだ。
「わかった。
アキラ君も今まで事情を話せんで困っておったじゃろうしな。
これが良い機会なのかもしれん」
「それじゃあ、博士」
「気をつけるんじゃぞ」
横浜といえば、半月ほど前にアキラが襲撃された場所でもある。
気をつけるのに越した事は無い。
「はい」
シュッツは一礼して浦辺の部屋を出た。
1時間後。
シュッツは横浜にあるアキラの実家の前に立っていた。
少し緊張しているようだ。
チャイムを鳴らす指が少し震えていた。
「はい?」
チャイムの音を聞いて、美里が玄関の扉を開けた。
「長谷川美里さんですね」
「そうですが?」
「あなたにお願いがあるんです」
後から考えてみればよくこの地点で締め出されなかったものだ。
全く知らない人間に頼みがあるといわれて、すんなりと受け入れる人間がどれほどいるだろうか?
「お入りになりますか?」
シュッツのただならぬ気配を感じたのか、美里はシュッツを家に招き入れた。
応接間に通されたシュッツはどこか落ち着きがない。
「ええと、あなたの名前は聞いていいかしら」
「シュッツェン・フィルフェと言います。普段はシュッツと呼ばれています」
丁寧に自己紹介をする。
「それで、私に頼みって何かしら?」
「アキラを助けてほしいんです」
実に単刀直入だ。
「あなたは、明君の何?」
美里は驚きを隠せなかった。
アキラの名前が出てくるとは夢にも思ってなかったからだ。
「仲間です」
シュッツは1から美里にアキラが今まで何をしていたのか、詳しく説明をした。
美里は終始驚いていた。
そして、今アキラが陥っている状況を説明する。
「義兄さん達が生きていたの?」
「アキラの言っていた事が本当なら、そうなります」
シュッツはそれ以上上手く説明できなかった。
「それで、また閉じ篭ったのね」
シュッツは首を縦に振る。
「僕と一緒に来ていただきたいんですが、良いですか?」
「明君のためだもの、断る理由はないわ。
だけど、ちょっと旦那に電話をしてもいいかしら?」
和樹に話をしておきたいのだろう。
「はい。構いませんよ」
その返事を聞いた美里は、玄関の近くに置いてある電話に向かった。
それから5分くらい待っただろうか?
ようやく美里が応接室に戻って来た。
「シュッツ君、旦那も連れて行っていい?」
「ええ」
断る理由は無い。
アキラを救う手立ては調った。
後は、美里達を連れ研究所に戻るだけだった。
この話の思い出といえば、ここ10話くらいで一番制作に時間がかかった事ですね。
昔話はするものじゃないです。
つじつま合わせというか、正確な時間合わせというか……
ともかく大変でした。
ここでも矛盾がちらりほらり。
適当に設定組んじゃダメですね。
あはははは。
今回は、ダメなアキラ君炸裂!って感じでしたね。
閉じ篭っちゃダメでしょうとは思いますが、実際にアキラ君のような状態に追い込まれるとどうなるのか、想像もつきません。
物凄いショックは受けるでしょう。
しかも、アキラ君の場合は両親に対する思いもあった訳ですから、なおさらです。
案外アキラ君って悲劇の主人公なのかも知れません。
さて、次回予告です。
美里と和樹が直接アキラを立ち直らせに研究所に向かう。
無事、アキラは立ち直り、戦場へ帰る事となる。
アキラは実の両親と決別する事ができるのだろうか。
次回、フェルンの新武装が登場します。
お楽しみに。
それでは、See You Agein?