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19章  Abschied -決別-

 研究所に着いたシュッツは美里と和樹をすぐさまアキラの部屋の前まで案内した。
 相変わらず、アキラの部屋の鍵はかかったままだった。
 ドア越しに会話するしかない。
 だが、会話が成り立つかどうかは謎だ。
 アキラが会話自体を拒否するかもしれなかったからだ。
「シュッツ君、この扉開けれる?」
 鍵がかかっていようが、いまいが、美里には関係なかった。
「無理矢理ですか?」
「そう、無理矢理」
 無理矢理でもなければアキラと話すことは不可能に近かい。
「わかりました」
 シュッツも今回ばかりは頼まれた事を拒むという事はしない。
 手際よく、鍵を解体していく。
 そして1週間ぶりにその扉は開いた。
 薄暗く、とてもじゃないが人がいるとは思えなかった。
 アキラは部屋の片隅で、まるでなにかの殻に閉じ篭るように、うずくまっていた。
 瞳は虚ろで、どこを見る訳でもなく、ただ周辺を泳いでいた。
「明君」
 美里の声に反応する様子も無い。
 和樹は苦い表情をする。
 3年前の時と、全く同じだったからだ。
「どこか、広くて明るい場所はないですか?」
 和樹がシュッツに尋ねる。
「この時間だと、まだ中庭が使えるかな?」
 まだ外は充分に明るかった。
 今のアキラの部屋よりよっぽど明るいだろう。
「そこに連れて行ってもらえますか」
「はい」
 和樹はアキラを引きずるようにして、中庭に連れて行った。
「明、義兄さんと姉さんは死んだんだ」
 そう言い切った。
 和樹もこちらへの移動途中、今までの話は聞いていた。
 アキラの本当の両親が敵として現れたこともちゃんと聞いていた。
 それでも、死んだと言い切った。
「もし、2人が生きていたとしてね……」
 不意にUM襲来を告げるサイレンが鳴り響く。
「アキラの事はお任せします!」
 シュッツは迎撃に向かわなくてはならない。
 アキラ達をこの場に残しておくのは心配だが、それでも迎撃しなければ研究所自体が襲われてしまう。
 シュッツは中庭から格納庫へ向け走り出した。
 残された2人はアキラに話し掛け続ける。
「あの正義感が強かった2人が好んで刃を振るうと思う?
 強制されてもしないはずよ」
 美里はゆっくりとアキラを諭していく。
 段々とアキラの瞳の焦点があってくる。
 徐々に気力を取り戻していた。
「ねえ、明君。あの2人を助けてあげられるのは君だけなのよ」
 果たして洗脳から解き放つ事ができるのか。
 それだけは、ハッキリしなかった。
「それなのに、今のままでいいの?」
 アキラは首を横に振る。
 やっと反応が返って来た。
 ここまで来ればあと少しだと和樹は悟る。
「明、『力は心なり』
 義兄さんがいつも言っていた事を忘れたのか?」
 これで返事が返ってこなければどうしようもなかった。
「……忘れてない」
 即答ではないが、ちゃんと返事が返って来た。
 後はたたみかければどうにかなるだろう。
「それに、シュッツ君に任せたままで良いのか?」
 これが最後のきっかけだった。
「良い訳ない!アイツに全部任せておけるか!!」
 アキラ、完全復活の瞬間だ。
「よし」
 正気に戻ったアキラが先ずやった事は、周囲の確認だった。
「あっ……ゴメンナサイ」
 美里と和樹の姿を見つけたアキラは咄嗟に謝ってしまう。
「話は後で聞く。それより先にやることがあるんじゃないのか?」
 そういわれて、ぼんやりと聞こえていたサイレンの音を思い出す。
 確かあのサイレンはUMの襲来を告げるものだったと、記憶のピースをつないでいく。
「いってきます!」
 アキラは慌てて中庭を飛び出していった。
 
 フェルンはすっかり周囲を取り囲まれていた。
 マシンガンで応戦するものの、ほとんど決定打にはならない。
 これ以上接近されれば、打つ手は無い。
 相手もどうやらそれを知っているようだった。
 ジリジリと近寄られてくる。
Erde Hammerエーアデ ハンマー!」
 掛け声と共に右腕方向の一角が吹き飛んだ。
 一斉に周囲にいたUMがフェルンから距離を取る。
「フェルンに近距離用の武装がないなんて誰がいったの?」
 間合いが取れれば、まだまだ戦いようはある。
『シュッツさん。Erde Hammerエーアデ ハンマー、あと150秒使えないです!』
 遠隔操作で武装の管制を行うと、どうもアバウトになるようだ。
 慣れていないとはいえ、疲れる役回りをヤヨイはしていた。
「ありがとう、ヤヨイちゃん」
『いえ、アキラさんが立ち直るまでの間だけですから』
 ヤヨイは疲れを見せるような真似はしなかった。
 疲れているのはシュッツも同じだからだ。
『シュッツ、朗報じゃ』
「博士?」
 先程までヤヨイと話をしていたところに、突然浦辺が割り込んで来た。
 しかも朗報だと言う。
『今アキラ君がそちらに向かっておる』
「アキラが立ち直ったんですか!?」
『そうじゃ。今ヘリでそっちに向かっているところじゃ』
 シュッツは小さくガッツポーズをする。
 俄然やる気が出てくる。
 アキラが来る瞬間だけでも安全地帯を作る必要があった。
「ヤヨイちゃん、ちょっと無理するよ!」
『あ、はい!』
 腰の突起から2枚のブーメランを引き抜く。
 2枚とも同時に放り投げた。
 両腕をマシンガンに切り替え、さらに攻撃をたたみかける。
 ブーメランが戻ってくる頃に腕を戻し受け止め、そのまま、第2投目を放り投げる。
『シュッツ!分離しろ!!』
 1週間ぶりに聞く覇気のある声だった。
 近くにヘリの姿を捉らえる事ができる。
「了解!Trennenトレンネン!!」
 アインのコクピットハッチを開け、ヘリの真下へ誘導する。
『へへっ!よくわかってるじゃないか』
 ヘリからアキラが飛び降りた。
 上手くパイロットシートに着地する。
「迷惑かけたな」
 すぐさま通信用の回路を開いた。
「仕方がないよ」
 心の傷は誰にでもある。
 それをえぐられてしまったのだから、仕方がないとしか言いようがなかった。
「今から挽回するさ。Andern naheエンダーン ナーエ!!」
 この合体も1週間ぶりだ。
 ナーエの姿を発見したUMの一部が戦線を離脱する。
 報告をするために本隊のいる場所へ行くのだろう。
 アキラはそれを知りながらも、わざと手を出さなかった。
「……いいの?」
「いいんだよ」
 いつかは必ず戦わねばならない。
 それがわかっているからこそ、手を出さなかった。
 本隊が来るまでの間にできるかぎり、UMを叩いておく。
 シュッツはその凄まじさに思わず見とれてしまう。
 やはり、2人乗りには意味があったのだとしみじみと痛感してしまう。
 しかし、不意に鳴ったアラートでそんな気分も吹き飛ぶ。
「アキラ、来るよ。本隊だ!」
 あの時のMenschメンシュが2機とも出て来ていた。
 乗っているのは、間違いなくアキラの両親だろう。
『明、どうして出て来たの?』
 1週間前のように通信回線に割り込みをかけてくる。
「これがオレのやるべき事だからだよ」
 あの時のように怯む様子は全くなかった。
『私達の言う事を聞くつもりはないのか?』
「3年も会ってなかったのによく言う」
 ナーエは2機の懐に飛び込む。
「それに、今のオレには別の両親がいるんだ!Doppelt Schockドッペルト ショック!!」
 膨大なエネルギーを纏った拳が炸裂する。
 本来なら両方の拳をぶつけるものだが、2機に一発ずつ当てたためその威力は半減する。
『何て事をするの、明!』
「あんた達は俺達の敵だ!」
 例え母親だろうとも容赦はしない。
「お別れだ、母さん。
 Flamme Speerフランメ シュペーア!」
 紅蓮の槍が赤い方の機体を貫いた。
『明!お前は!!』
「子供ってのはいつかは親離れするだろ!」
 青い機体との距離を一気に詰める。
Doppelt Schockドッペルト ショック!」
 エネルギーの奔流が青い機体を突き抜けた。
 隣り合った2機は、ほぼ同時にナーエを巻き込むほどの大爆発を起こす。
 この爆発では、中に乗っていたパイロットは助からない。
 それでも、アキラの目に涙はなかった。
「あー、腹立つなぁ。……チクショウ」
「アキラ?」
 悔しくないはずが無い。
 助けられるものなら助けたかった。
「おもいっきり暴れてやる」
 ボソリと、だがハッキリとアキラはそういった。
「え、えっ!ちょっと!」
 その口調からアキラが本気なのだとシュッツは気付く。
 だが、今日だけはアキラの好きにさせようと思った。
 やはり、両親を失った悲しみがないといえば嘘になる。
 それを少しでも晴らせるなら、それで良かった。
 
「サヨウナラ」
 戦闘が終わったあと、アキラは小さく呟いた。


あとがき

 アキラ君が無事立ち直ってくれてホッと一息。
 で、心を鬼にして両親を倒したわけです。
 キツイものがあるかな、とは思いながら、結局やってしまいました。
 アキラ君、ごめんなさい。
 
 さて、ちょっぴり蛇足です。
 アキラ君のご両親についてです。
 名前は上谷雅明さんに上谷千歳さんといいます。(忘れちゃいけません。アキラ君の旧姓は上谷です。)
 ちなみに千歳さんの方の旧姓が長谷川です。和樹さんのお姉さんにあたります。
 夫婦仲はよかったそうです。
 ちょっと過保護気味だったようですが。
 
 いつもならここらで次回予告なんですが……
 次回予告しちゃうと面白みが半減するかもしれないので、やめておきます。
 タイトルから推測してみてください。
 多分、予想はつくと思いますので。
 結構衝撃的だと思いますよ。
 
 次回から後半戦に突入です。
 フェアも解決に向かって進んでいきます。
 いくつかの謎も解決していくかも知れません。
 
 それでは、See You Agein?

2004/09/02


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