ツェアシュは2人の失敗を追求しなかった。
ヴィッセンとマハトにとってこれほど恐ろしい事は無い。
次こそ失敗すればツェアシュの怒りの矛先は2人に向けられる。
そうなれば、どうなるのか想像するだけで恐ろしかった。
だからこそ、2人は協力する事にした。
知のヴィッセンと力のマハトが手を組めば、出来ない事は無かった。
アキラは横浜の実家に帰っていた。
浦辺の勧めでもある。
いくら、実の両親の事は吹っ切れたとはいえ、今の両親にアキラ自身が説明しないかぎり、今回の事件は終わったとは言えなかった。
「あのさ、和樹さん美里さん」
アキラはゆっくりこの1年間にあった事を話し出した。
和樹も美里も黙って聞いていた。
シュッツからあらまわしは聞いていたとはいえ、実際にアキラの口から聞くと、改めてアキラが関わっている事が物凄い事なのだと認識する。
1年もの間、隠していた訳も充分にわかる。
和樹も美里もアキラを責めるつもりは全くなかった。
2人はアキラが必死になって隠していた理由も理解できるし、なによりアキラを応援してやりたかった。
「今まで黙っていてゴメンナサイ」
アキラは謝るしかないと思っていた。
ハッキリいって今やっている事は命を落とすかもしれない危険な事だ。
そうそう認めてくれるとは思っていない。
だが、その考えが間違っていた事にすぐに気付く事となる。
「お前の話は良くわかったよ、明」
「えっ?」
いつものパターンならここで怒鳴られているはずだった。
「浦辺さんやシュッツ君から大体の話は聞いていたのよ。だから、アキラ君からちゃんと話が聞けてよかった」
アキラはつい脱力してしまう。
「何だ、そういう事だったのか」
安心した。
それが正直なアキラの感想だった。
「もう無理に帰ってこいとはいわない。
たまに元気な顔を見せてくれればそれでいい」
「はい」
アキラにしてみれば、何より和樹に理解を示してもらえた事が一番嬉しかった。
「必ず勝て」
「はい」
それが最高の激励の言葉だった。
その日の内にアキラは研究所に帰りつき、ベットに横たわった時だ。
「っ痛!」
左腕に痺れが走る。
痛みにも似た痺れだった。
この痺れが始まったのは3ヵ月くらい前だと、アキラは記憶していた。
その頃あった事といえばシュッツが大怪我をしたあの事件だけだ。
「あの声、何だったんだろう?」
3ヵ月前を思い出してまず考えるのは、その事だった。
アキラにだけ聞こえた謎の声。
どの計器もその声を捕らえていなかった。
そして、同じ声を半月ほど前に聞いたような気がしていた。
閉じ篭っていた時の記憶はハッキリしない。
だから正確な事は言えないが、アキラは多分そうじゃないのかと思っていた。
なら何故、アキラだけがその声を聞くのか?
それはアキラにも良くわからなかった。
そんな事を考えているうちにアキラは眠りの中に引き込まれていった。
早朝5時。
まだ大抵の人は寝ている時間だ。
そんな事もお構いなしに、研究所内にUMの襲来を告げる警報の音が鳴り響く。
その警報の音を聞いたアキラは飛び起きた。
「こんな時間に来るなよ!」
愚痴をこぼしながらも格納庫に向かう。
アキラは途中パイロットスーツに着替え、バイザーを片手にアインに乗り込む。
「
AIに指示を出す。
「ツヴァイとの通信回路開いて」
サブモニターに映し出されたのは、眠たそうなシュッツの顔だった。
「おはよう、アキラ」
声まで眠たそうだ。
「ちゃんと起きろよ、シュッツ」
「わかってるよ」
モニターの向こうでは、シュッツが眠い目を擦っていた。
『2人とも、場所は鎌倉の沿岸じゃ』
「了解」
場所は結構近い。
シュヴェスタは、朝焼けに染まる空に舞い上がる。
UMをレーダーに捕らえた瞬間、アキラに疑問が浮かんだ。
点灯しているマーカーが1つしかなかったからだ。
「なぁ、狙い撃ちしてみるか?」
「そうだね。イメンスなら充分射程距離内だし」
即座にフェルンに合体する。
「
フェルンの両腕が巨大な砲身に変形する。
「
かなり正確に照準をあわす。
一撃必殺。
これに賭けているようだ。
「
加速された砲弾が砲身から放たれる。
アキラはレーダーでその砲弾を追っていく。
信じられない事が起こった。
確かに、直撃していた。
それは間違いない。
しかし、UMの存在を示すマーカーは点灯したままだ。
それなのに、直撃を受けてもどうにもなっていないのは考えられなかった。
「アキラ、交代しよう。何だかイヤな感じがする」
「わかった!」
ナーエに合体し直し、全速力で接近する。
始めて見る、新型のUMだった。
傷一つついている様子は無い。
どうなっているのか、サッパリわからなかった。
とにかく先手必勝だ。
「
全速力のままUMの懐に飛び込んだ。
しかし、無残にも弾かれてしまう。
「ダメだ、アキラ。
やっぱりバリアが張られてる」
「まさか、UM‐9と同じバリアなんじゃ?」
UM‐9とはずいぶん前に登場したUMだ。
特記すべきはナーエの攻撃をほとんど通さなかったバリアである。
『アキラ君のいっておるのでほぼ正解じゃ』
浦辺が解析を終え2人に通信を入れてくる。
『そちらにデータを転送します!』
ヤヨイの声があとに続く。
転送されたデータのほとんどはシュッツの方で展開される。
「どうだ?」
返事はしばらく帰ってこなかった。
「……UM‐9のさらに発展形、改良ヴァージョンだといっていいね」
直後、機体に大きな衝撃が走る。
「よそ見はするなってか?!チクショウ!!」
機体を立て直す。
UMがどんな攻撃をしてきたのか、最初は検討がつかなかった。
その正体が判明したのは次に仕掛けて来た時だった。
「アキラ、1時方向に高出力反応!」
「ちぃっ!」
すぐに反応し、その方向に向き直る。
「バリア展開して突っ込んでくるだって!」
信じられない光景だ。
「緊急回避するぞ、
咄嗟に避けられないと判断したアキラは分離する事で事なきを得る。
しかし、再度ナーエに合体した瞬間を狙ってUMが突っ込んでくる。
このタイミングでは避けられないし、受け身も取れない。
接触の衝撃がナーエを襲う。
一瞬にして様々なシステムに異常が出る。
「大丈夫か、シュッツ?」
「な、なんとか」
衝撃で壊れた計器を停止させながらシュッツは返事をする。
『不様だな』
不意に声が聞こえる。
アキラには聞いた事のある声だ。
「なんだと!」
「どうしたの、アキラ?」
シュッツにはこの声が聞こえていないようだった。
「なんでもない」
三度、機体に衝撃が襲う。
UMにしてみれば、フェアの内部事情など関係ないようだ。
『どうした?手が出せないのか』
攻撃を仕掛けても弾かれ、相手から仕掛けてこられれば手が出せなかった。
「まずいよ、アキラ。このままじゃ……」
フェアが破壊されるかもしれなかった。
あと2、3回あの攻撃を受ければ間違いなくそうなるだろう。
「シュッツ、あのバリアを破るにはどうすればいい?」
「バリアの出力よりももっと高いエネルギーで攻撃できればかき消せると思うけど、今のフェアじゃ無理だよ」
不可能ではない。
アキラにはわかっていた。
「力を貸せ」
謎の声に呼びかける。
「そのために話し掛けて来たんだろ?」
『御名答。力を貸そう』
あの奇妙な感覚がアキラを襲う。
「
フェアを中心に膨れ上がった光は一気に放出される。
凄まじい威力だった。
UMのバリアは、一瞬にしてかき消えた。本体もそのまま蒸発してしまう。
しかし。
『脱出しろ』
「なんだって?」
『間もなく落ちる』
何がと聞き返したいところだった。
それよりも先に、シュッツの悲鳴に近い声が飛び込んでくる。
「アキラ!フェアがもたない!」
それは必死の避難勧告だった。
「脱出するよ!
強制的にコクピットから排出され、2人は海に落ちた。
アキラは空にいるはずのフェアを目で追う。
発見したその姿は痛々しかった。
装甲は剥がれ、関節部分は火を吹いている。
一目見てもうダメだとわかってしまう。
小さな爆発を繰り返しながら、フェアは徐々に高度を下げていく。
海に完全に沈むまでたいして時間はかからなかった。
フェアタイディゲンをぶっ壊してしまいました。
勢いではなく、予め予定していた事なのであしからず。
修理できるんじゃない?と思っている人もいるかも知れませんが、完全な再起不能です。
復活させる予定はありません。
じゃあ、次回からどうするんだよ。という声が聞こえて来そうな気がしますが、ご心配なく。
と、いう事で次回予告です。
フェアタイディゲンを失い、なす術がないアキラ達。
そんな中、浦辺より意外な事実を聞かされる。
それは、フェアタイディゲンの量産型が存在するという事だった!
量産型ってどないやねん!
と、言われてしまいそうな気もしますが、そういう事です。
日本政府もフェアがもし破壊された時の保険がほしかったのでしょう。
勝手に作ったのではなく、ちゃんと浦辺博士に依頼して作ってもらったものなので、信頼性はかなりあります。
詳細は次回をお楽しみに。
それでは、See You Agein?