その日は、ツェアシュ達レフォルムにとって祝うべき日となった。
「よくやったよ、2人とも」
ヴィッセンとマハトは畏まる。
「あの
それですべて良としよう」
ツェアシュは機嫌がよかった。
「次に成すべき事、わかっているね」
『はっ!』
2人は同時に返事をする。
「兵と兵器を用いて地球人類を滅亡させる」
ツェアシュは瞳をランランとさせていた。
「
マハトが恭しく礼をする。
「
ヴィッセンも負けじと前に出る。
「頼んだよ」
ツェアシュはそんな2人の様子等全く気にかけていないようだった。
「これより、我々レフォルムは最終作戦に入る。我らの復讐が終わるのもあと少しだ。心してかかれ!」
最終作戦、それは地球人類を滅ぼすものだ。
この場にもしアキラがいたならば、速攻で殴りにいったに違いない。
「レフォルムに栄光を」
「レフォルムに栄華を」
2人の姿はアッという間に消えてしまった。
ツェアシュは一人残り、不敵な笑みをたたえていた。
「もうすぐだ。もうすぐ僕の復讐も終わる。
……あの子は元気にしているだろうか?僕の弟は」
言葉に余韻を残しながら、ツェアシュの姿もその場から消えた。
「ハクション!!」
シュッツが大きな声でくしゃみをする。
「風邪か?」
アキラとシュッツは指令室にいた。
ある情報を確認するためだ。
「多分違うと思う」
「そうか?でも気をつけろよ。この間海に落ちたばかりだからな」
アキラはたいした事がなかったように言うが、そうではない。
今、世界の守護神だったフェアタイディゲンは存在しない。
海の藻屑と化してしまった。
元々海中で戦うような仕様ではなかった上、火を吹いているような状態で海水につかってしまったのも原因の1つだ。
アキラの経験上、あの程度でフェアが撃墜されるとは思ってもみなかった。
しかし、浦辺の見解では、UMに与えられたダメージの上に
「なんじゃ、2人ともここにいたのか」
浦辺がヤヨイを連れて指令室に入ってくる。
どうやら、アキラとシュッツを探しているようだった。
そして、浦辺は実に驚く事をアキラ達に伝えた。
「フェアタイディゲンの量産型?」
「そんなのがあるなんて聞いていませんよ!」
アキラはともかく、シュッツも初耳だったらしい。
「ベアハテンと言うんじゃがな。
政府から頼まれとっての。2人には申し訳ないとは思ったんじゃが、秘密裏に作製しとったんじゃ」
政府としても、もしもの時の保険がほしかったのだろう。
「ともかくじゃ、2機こちらに回してもらうように交渉して来たんじゃ」
「2機もですか?」
フェアなら2人乗りで、2機も必要とはしなかった。
「そうじゃ。
フム、ベアハテンについて少々説明しておこうかのう」
浦辺の説明によれば、フェアタイディゲンから合体機構などかなりオミットされた機体になっているようだ。
2タイプに分かれていて、接近戦特化のタイプNと遠距離戦特化のタイプFに分けられる。
しかも、それぞれは1人乗りなのだと言う。
「出力はフェアの10分の1程度じゃからな。2人に取っては物足りんかもしれんな」
その程度まで出力を落とさなければ普通の人間では操縦できなかった。
フェアの出力に耐えれたのは2人だけだ。
「博士、オレらは戦えるだけで有り難いですから」
「迅速な手配に感謝します」
2人に重要なのは戦えるかどうかという事だけだ。出力が低い事はあまり関係ない。
「……私は反対です。
何でアキラさん達がそんなに戦わなきゃならないんですか。今までずっと戦って来たんです、今くらい休んだっていいでしょ?」
確かに、量産型のフェアタイディゲンがあるのなら、それをわざわざアキラ達が操縦する必要はない。
それに、ヤヨイは2人に休んでほしかったのだろう。
「ヤヨイちゃんの言いたい事はよくわかる。
でも、レフォルムが襲ってくるのにゆっくり休んでるなんてオレ自身が許さないんだよ」
「僕も同じような感じかな?」
シュッツもアキラの意見に賛同する。
「でも、耐えられません!
何で、アキラさんやシュッツさんだけがそんなに傷つかないといけないんですか!」
どうしてもヒステリックになってしまう。
「ヤヨイちゃん、オレはみんなを守るためにやれる事があるならやっておきたいんだ」
アキラの決意は堅い。
ヤヨイもこれ以上なにも言わなかった。
「ヤヨイ君、今回はアキラ君達を出動させるというわけではないんじゃ」
「どういう事です?」
シュッツは一瞬自分の耳を疑った。
「じゃから、さっきも言ったじゃろ。ベアハテンは量産型のフェアタイディゲンじゃと。
ベアハテンの量産は既に始まっておるんじゃ。もう各地に配備されておる」
博士がベアハテンを要請した理由、それは研究所の防衛のためだ。
浦辺には2人をどこかに派遣しようという気はまったくなく、いざという時のために残しておこうと考えていた。
突然、指令室の一角が騒がしくなる。
「どうしたんじゃ?」
浦辺は研究員達に報告を求める。
「世界各地にUMの大群が現れました!」
指令室に備え付けられている巨大モニターに次々と世界各地の映像が映し出される。
アメリカ、イギリス、フランス、中国。世界の主要な都市が襲撃を受けていた。
しかし、一方的にやられているわけではなかった。
UMへの反撃の手段がフェアだけだったのは、もう1年以上昔の事だ。
各国でも、日本から提供された資料を参考に兵器の制作が進められていた。
その成果が今現れている。
さすがにフェアのような人型機動兵器はないが、それなりに効果は出ているようだ。
その様子を見ていたアキラが少し不安に感じた事があった。
単発なら大丈夫なのかも知れない。しかし、もし長期戦になればどうなるのだろうか。
おそらく、レフォルムが圧倒的に優位に立つ。
そうなれば、地球人類の命は風前の灯火となってしまう。
アキラは、それを防ぐためにはフェアタイディゲンの復活は必須なのではないかと考えていた。
しかし、浦辺はフェアの回収をする様子もなかった。
浦辺が何を考えているのか、アキラに知る術はなかった。
「博士、オレ達は?」
「なにもしなくていいんじゃ。ベアハテンの搬入には今しばらく時間がかかるからのう」
要するに、指令室からこの様子を見ているしかなかった。
「聞きたい事があるんです」
どうしても、アキラは浦辺に聞いておきたい事があった。
「なんじゃね?」
「どうして、フェアを回収しないんですか?」
シュッツが後ろから突いてくる。
「その事なんだけどね、アキラ……」
「なんじゃ、シュッツ。まだ説明しとらなんだのか」
「すみません、博士。言い出しづらくって」
「どういう事だ?」
どうやら、アキラがなにも知らなかった原因はシュッツにあるようだ。
「フェアについてなんだよ」
そうしてシュッツは順を追って説明を始めた。
今までのフェアタイディゲンがプロトタイプである事。そして、プロトタイプであるが故、予備の機体が一切ない事。
今までの戦闘の中で相当痛んでいたようで、もう既に修理が不可能なところまで来ていた。
なので、浦辺もサルベージをしようとはしなかったのだ。
「何でそんな事をさっさとオレに言わない」
アキラは怒っていた。
一目見てわかるほどだ。
「だから、言い出しづらかったんだって」
アキラはシュッツの目から見てもフェアを凄まじく大切にしていた。
そこに修理不能の事実なんて物を伝えた時点で何をされるかわかったものではなかった。
要するに恐かったのだ。
「フェアが沈んだ時にでも言ってくれてたら、あんなにショック受けなくて済んだのに」
アキラの小言も言いたい事はよくわかる。
「まとめちゃうと、全部シュッツさんが悪いという事でいいんじゃないですか」
「ま、そうだな」
アキラはうんうんと頷いていた。
「えー、僕だけ悪役?」
「シュッツに頼んだままじゃったわしにも責任があるかもしれんの」
「博士は悪くないですよ。全部悪いのはこいつですから」
笑顔でシュッツにアイアンクローをくらわしている。
あまりの痛さにシュッツは悶絶しそうになっていた。
研究所に2機のベアハテンが届いたのは、その翌日の事だった。
ベアハテンの登場です。
位置付け的にはフェアの量産型という事になります。
合体できない、2タイプに分かれている等、様々な面でフェアとは違います。
一番大きいのはトータルの出力が10分の1程度になっているという事でしょう。
そのせいでかなりの数の武装がオミットされています。
それでも上手く立ち回るんでしょうね、あの2人は。
フェアをなきモノにしたレフォルムが総力を上げて世界各地を襲い始めました。
地球人類を滅ぼそうとしているから当然といえば当然です。
一方、アキラ達はレフォルムの本拠地すらわかっていません。
反撃するのもかなり難しいでしょう。
どうなるのかは次回以降のお楽しみに。
それでは次回予告です。
ベアハテンは届いたものの、浦辺の命令で出撃できないアキラ達。
そんな中、レフォルムの部隊が研究所に強襲を掛ける。
浦辺がアキラ達に命じたのは、せん滅ではなく、時間稼ぎだった。
その命令を不服に思いながらもアキラとシュッツは出撃する。
タイトルを吟味していただくと、その意味がよくわかるかと思います。
辞書なんかで調べてみてください。
それでは、See You Agein?