レフォルムとの戦いは長引いていた。
国力の弱い国から順に制圧されて行き、6日目に残った国はわずかになっていた。
その数少ない国の内に日本も入っていた。
フェアタイディゲンの量産型ベアハテンによるところが大きい。
しかも、他の国より格段に厳しい侵略を受けていた。
それでも、本来のフェアタイディゲンより弱いものの、数があるためUMはてこずった。
だが、あの2人が乗っていたフェアに比べて、レフォルム側の被害は雲泥の差があった。
あの2人が操縦していたからなのだろうか。
日本政府も頭を悩ませているところだった。
10分の1という出力がいけないのか、それともパイロットの腕が悪いのか。
答えられる人間は1人もいなかった。
そして、7日目の朝がやって来た。
「どうしてだよ、博士!何で行っちゃいけないんだ!」
朝も早くからアキラは浦辺に抗議していた。
ここ6日の間アキラもシュッツも一度も出撃していなかった。
1日目は戦う術が無かったためであるとは納得しているが、2日目以降はベアハテンも研究所に到着し戦う事はできた。
しかし、浦辺はそれを許さなかった。
自衛隊に任せておけばいいと何の手出しもしようとしなかった。
アキラはそれが納得できなかった。
「あのベアハテンはこの研究所を守るために配備してもらったものじゃ。他の用途に使う事は出来ん」
「でも!」
「アキラ君のやりたい事はよくわかる。じゃがの、行かす事は出来んのじゃ」
この研究所はいずれ襲われる。
浦辺はこの事を予期していた。
だからこそ、アキラを行かす事はできない。
そして、アキラを外にやれない理由は他にもあった。
その理由さえ話せばアキラはすぐにでも納得するだろう。しかし、浦辺はそれを話そうとはしなかった。
「もう少し。もう少しだけ待ってくれんか、アキラ君」
「そう言ってもう5日です!」
アキラのしびれは限界に来ていた。
「今日の正午にはケリがつくんじゃ。それまで待ってくれ」
「……わかりました」
浦辺がそこまで言うなら、言う事を聞くしかなかった。
今日の正午というなら、あと数時間待てば済む事だからという事でもある。
今のアキラにできるのは待つ事だけだ。
けたたましく、UMの襲来を告げるサイレンが研究所に鳴り響く。
正午まであとわずかだった。
「状況を!」
今、指令室にいるのはアキラと数人の研究員だけだった。
「はい!UMの1小隊がこちらに向かっています」
「間違いなくか?」
アキラが確認する。
「間違いありません。
このまま進路を取れば、研究所にたどり着きます」
この断定を聞けるのを待っていた。
「博士に連絡を取ってくれ!オレは、出る」
そう言い残して、アキラは格納庫に向かって走り出した。
浦辺が指令室にやって来たのは、アキラが出ていってから間もなくの事だった。
「自衛隊に出動要請。
アキラ君は行かせなさい」
入ってくるなり指示を出す。
「はい」
研究員もそれに従った。
「アキラ君とシュッツ君が乗り込んだのを確認しました」
先程とは別の研究員が報告する。
「回線を開いてくれ」
「はい」
2機のベアハテンと通信回線を開く。
「今回は時間稼ぎが目的じゃ」
『そんな!何でだよ、博士!』
どう言われようと、浦辺は突き通すしかなかった。
「自衛隊に出動要請はしておる。君らがやるのは自衛隊が到着するまでの時間稼ぎじゃ」
『……わかりました』
強気の姿勢を崩さない浦辺にアキラは従うしかなかった。
アキラは納得していなかった。
何故、浦辺はあれほどかたくなにアキラを行かせないのか?
今日だってそうだ。
UMをせん滅させるのが目的ではなく、自衛隊が来るまでの時間稼ぎが目的になっていた。
「怒ってるよね?」
シュッツは恐る恐る確認する。
「……誰が?」
イライラしている事は間違いない。
相手の考えが理解できないのはアキラにとってかなり苦痛だ。
その八つ当たりのために今回出撃しているようにシュッツは思えてならなかった。
「援護を頼む」
そう言い残してアキラはUMの団体の中に飛び込んで行った。
「了解」
シュッツもアキラの後を追うような形でついていく。
ベアハテンのタイプNはナーエに似た性能を示していた。
使える武装の数は劣るもの、威力はほぼそのままだった。
効果的にUMを撃墜していく。
自衛隊の操縦するそれとは格段に違う結果を叩き出していた。
しかし、フェアに乗っている時より分が悪い。
それでもアキラはさらに切り込んでいく。
「手加減って言葉を知らないのかなぁ。僕は楽でいいけど」
その頃シュッツは完全に傍観者と化していた。
アキラに言われたとおり、援護はしている。しかし、その援護より先にアキラがUMを撃墜していた。
「
アキラの様子を観察しながら、アキラの撃ちもらしを撃墜していく。
ベアハテンのタイプFはフェルンに似た性能だった。
遠距離からの射撃を得意としているので、シュッツは違和感無く操縦していた。
『あと2小隊来ます!』
指令室からの報告だ。
「自衛隊が到着するまであとどれくらい?」
『10分かからないと思います』
「それまで僕らで何とかするよ」
10分ならベアハテンの性能でなんとかもつだろう。
いかにもたせるか、それが勝負だった。
『こちら自衛隊の者だ、応答願いたい』
やっとの事で自衛隊が到着した。
「僕たちは研究所の者です!」
『噂はかねがね聞いている。これよりは我等に任されたい』
「わかりました。僕らはここで引きます」
シュッツは撤退しようとするが、アキラはその場から動こうとしなかった。
「アキラ!」
「わかった、引くよ」
シュッツの怒声に近い声で、なんとかアキラも動く。
アキラ達が研究所にたどり着くと、所内は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
「どうしたんだ?」
アキラは近くを通りがかった研究員を呼び止める。
「アキラ君、地下の第2格納庫に来てくれと浦辺博士から」
「第2格納庫?」
その場所は今は使われていないはずだった。
不思議に思いながらも、言われたとおり第2格納庫へ向かう。
「あれ、アキラも?」
第2格納庫に通じるエレベータででくわしたのはシュッツだった。
「浦辺博士の伝言か?」
エレベータの階数ボタンと閉ボタンを押す。
扉は閉まり、エレベータは下へ降りていく。
「そうだよ」
「最近の博士の考えてる事がわからない」
浦辺が秘密裏に何をやっているのか、全く検討がつかなかった。
やがてエレベータの扉が開く。
第2格納庫に続く通路が眼前に広がっている。
2人は歩を進めていく。
そして、巨大な扉の前にたどり着いた。
重い音と共に扉が開いていく。
そこには思いがけない光景が広がっていた。
「アキラさん、シュッツさん!」
アキラとシュッツの登場にヤヨイが飛び出てくる。
「ヤヨイちゃん、これは?」
2機の戦闘機らしきものが並べておいてあった。
その風貌はアインとツヴァイに何となく似ていた。
「ノイ・アインとノイ・ツヴァイです」
名前を聞いてさらに驚いた。
確実にアインとツヴァイの後継機だった。
「まさか、フェアの!」
フェアタイディゲンの後継機としか考えられなかった。
「その通りじゃよ、アキラ君」
ヤヨイの背後から浦辺が現れる。
「これがフェアの後継機、フェアタイディゲン・ヴァールじゃ」
アキラは、シュッツもだが度肝を抜かれた。
そして、ようやく納得する。
何故浦辺がアキラを行かせなかったのかを。
「さっき完成したばかりの、できたてなんですよ!」
ヤヨイがVサインを作る。
「シュッツ、アキラ君。悪いがすぐに出てくれんか?状況が悪いようじゃ」
「わかりました!」
2人はすぐさま駆け出し、新しいシュヴェスタに乗り込む。
慣れた手つきで発進準備を進めていく。
『注意してくださいね。フェア・ヴァールの出力は以前の10倍以上に跳ね上がっています』
ヤヨイからの注意だ。
「気をつけるよ」
そう答えて、なおも準備を進めていく。
「じゃじゃ馬馴らしと行きましょうか」
「そうだね」
発進準備は調った。
『今からゲートを開きます。そこを通って地上に出てください』
「了解」
ナビゲートするヤヨイの声に素直に従う。
「さぁ、フェアの復活だ。気合入れていこうぜ」
「言われなくても!」
2人ともやる気は充分だった。
再びフェアは戦場に舞い戻る。
量産型の次は新型です。
フェアタイディゲン・ヴァール。略してフェア・ヴァールです。
フェアの10倍以上の出力を持つこの機体の初陣は次回へ持ち越し。
しかし、ベアハテンと比較してみると、100倍以上の出力差があるんですねえ。
乗れるこいつらはすごいって。(まあ、乗れる理由なんてのもあるんですが。)
ちょっと裏話です。
ベアハテンは今後日本の防衛の要として機能していきます。
作られているのはタイプNよりタイプFの方が多いのです。
さすがに防衛するのに近戦戦闘はあまり必要ないと考えたのでしょうか?
敵に突っ込んでいく勇気のある隊員さんも少ないような気もします。
アキラのような奴がいないかぎり、使い所が難しいのでしょう。
さてさて、それでは次回予告です。
遂に復活したフェアタイディゲン。
名前をフェアタイディゲン・ヴァールと変え、レフォルムと再び対峙する。
パワーアップしているフェア・ヴァールの実力を楽しんでください。
そんなに迫力のない表現になってるような、そんな気もするのですが……
なるべくなら迫力を出したいかな、とは思います。
それでは、See You Agein?