自衛隊の操るベアハテンの小隊は追い詰められていた。
戦車や戦闘機とはまた違う操作性に戸惑っている隊員もいたが、なにせ相手の数が違い過ぎた。
だが。
隊員の一人は思う。
先に戦っていた2人はこんな状況も苦にせず戦っていた。
そんな2人の前で引くわけには行かなかった。
「これ、どこに出るの?」
シュッツが第2格納庫のゲートを抜けたすぐにアキラに尋ねた。
「たしか、今戦闘をやってるすぐそばだ」
かなり都合のいい位置に出るようだ。
「というか、気にしなくてもすぐに出る」
既に目の前には外の光が見えていた。
「短いのね」
「そりゃな」
そんなあまり意味の無いやり取りをしながら外へ飛び出していく。
一瞬でレーダーが真っ赤に染まる。
「追加が来てたのか」
興奮する事は無い。
少々久しぶりとはいえ、今まで相手にして来た数と大して変わらない。
「ちょうどいいリハビリ相手かな」
フェア・ヴァールの肩馴らしには最適だろう。
「そんな事いってたら、また妙なのが出てくるぞ」
「それはヤダなぁ……」
「とにかく、やるしか無いな。
ヤヨイちゃん、キーフレーズの変更は?」
『ほとんど変更はありません。そのまま使ってください!』
間髪入れず、ヤヨイがアキラの疑問に答えた。
「わかった。
ナーエへの合体シークエンスが開始される。
「のわっ!」
アキラが妙な声を上げる。
以前のフェアと全く同じならこんな声を上げる事はなかっただろう。
アキラは突然迫り出して来たパーツに戸惑っていた。
しかも、コクピットが立てるくらいに広くなっている。
『あ、アキラさん、DynamicMoveTraceSystem実装しておきましたから』
少し伝えるのが遅かった。
「もうちょっと早く言え!」
ものがわかれば話は早い。
素早くパーツの中に体を納める。
「ヤヨイちゃん、フェルンの操作系に変更はある?」
シュッツにDMTSは無用の長物だ。
運動神経が並の人間ではDMTSの本来の効果は発揮されない。
『特にないです』
「そう。それならいいよ」
それだけ聞いておけば、一応安心できる。
ぶっつけ本番で、全く知らないシステムを使わされるより、よほどマシだ。
「前より派手に動くぞ。酔うなよ」
動かしているアキラはともかく、シュッツはかなり揺られるだろう。
「失礼だな。酔わないよ」
アキラより長い間訓練をして来たシュッツには気遣いはあまり必要ではなかった。
「じゃ、遠慮なく行くぜ!」
ナーエが敵陣に突っ込んでいく。
「あれは?!」
自衛隊の隊員の1人が何かを捉らえた。
辛うじて目で捉らえられるスピードで何かが通り抜けて行く。
その姿はベアハテンに共通する部分があった。
それがフェアタイディゲンだと気付くのにしばらく時間がかかる。
今まで見て来たフェアタイディゲンとは雰囲気は残しているものの、ほとんど違う外見になっていた。
『聞こえるか、自衛隊さん!』
若い男の声だった。
『ここはオレ達が引き受ける。できれば撤退してくれ!』
隊長の命令がなければ、即座に撤退することは難しい。
「総員撤退!」
よく通る隊長の声が生き残っているベアハテン全機に届く。
1機、また1機と戦列を離れていく。
フェアの戦いを見届けたいとは思うが命令は絶対だ。
全ての自衛隊隊員は基地へと引き返して行く。
「ここまで妨害なしっていうのは、気持ち悪いな」
自衛隊の撤退にUMの妨害がほとんど入らなかった。
「僕たちが出て来たから驚いてるってのが妥当じゃない?」
「そうだろうな」
一見してみるとそのほとんどが確認した事の無いUMだった。
おそらく、全て
無人機なら、フェアが出て来たところで躊躇はしない。
「驚いてるついでに全滅させてやろうか」
「アキラったら悪人」
「悪人はあいつらだろうが!」
端から見ると遊んでいるようにしか見えない。
しかし、2人には遊んでいる暇はなかった。
ようやく指示が広まったらしいUMが問答無用で襲いかかってくる。
「なかなか早いな」
「待ってる僕らも僕らと思うけど」
「オレは自衛隊が撤退し切るのを待ってたんだ」
「そうなの?」
迫り来るUMを片っ端から殴り倒して行きながらも会話が弾む。
暇はないが余裕はあるらしい。
「……ちょっと振り回されるな」
そう呟いたのは6機ほど撃墜した後だ。
それでも、瞬く間にその6機を撃墜していた。
「パワーがかなり上がってるみたいだけど、そのせい?」
「多分な」
DMTSに慣れていないためでもあるが、それは口にしなかった。
フェアの10倍以上の出力とは伊達ではない。
純粋なパワーだけでも相当上がっている。それについていくのも容易ではなかった。
しかし、アキラは気にする様子も無い。
何にしろ、必ずマスターしなくてはならない。
この程度でへこたれている場合ではなかった。
「シュッツ、正確な数、わかるか?」
「ちょっと待って」
3小隊も来ているのだ。数の把握は簡単ではない。
「全部で53機」
「オレが半分だけ落とす。後は任せた」
楽がしたいという訳では無い。
フェルンにも合体しておかないと、後々困る事になるのは自分達だとわかっていたからだ。
「できるだけやりやすく残しておいてね」
「わかってるよ」
アキラが狙うのは、UMの中でも近距離攻撃を得意としていそうな機体だけだ。
新型といえど、現行のUMとフェア・ヴァールの力の差を見せ付ける形になっている。
単一の武装を使うだけで2、3機のUMを巻き込んでいた。
「ヤヨイちゃん、何か新しい武装無い?」
試す事ができるものは全て試すといった調子だ。
『アキラさん、
新しい武装という訳ではないが、使い所の難しかった武装が使いやすくなったようだ。
「じゃあ、ちょっと使ってみるか」
ナーエはUMが固まっている場所へ飛び込んでいく。
「
以前は手のひらからしか出なかった高出力パルスが全身よりほと走る。
UMの動作回路に作用し、次々に機能を停止していく。
そのまま地上に落下するUMも少なくなかった。
「後で回収だな」
その様子を見ながらアキラは呟いた。
「残り25機。そろそろ交代だよ、アキラ」
シュッツが交代を促す。
「わかったよ。
「
間髪入れずにフェルンへ合体し直す。
UMが待ち構えている位置より少し後方に降り立った。
フェルンのレンジを考えるとこの距離が最適だろう。
「感じはあまり変わらないか」
コクピット内のパネルを一枚ずつ触りながら確認していく。
「残弾数も確認。
博士、最初っからこうなる事を予測してたな」
テスト前なら弾数がフル充填されているという事はまずなかった。
「ここまで準備ができてると逆に疑っちゃうよね」
シュッツもそれに同感なのだろう。
「でも、反撃するならおあつらえ向きだけどな」
「そうだね」
こうして戦うのなら、誰の企みだろうが準備万端整っているのはありがたかった。
特に実弾系の武装がほとんどのフェルンに取っては死活問題となる。
「さぁ、やりますか」
フェルンに内蔵されている武器であるブーメランを引き抜く。
それを集団目掛けて放り投げた。
「
脚部の一部が迫り出し、ミサイルの発射口が現れる。
「
シュッツの声と共にミサイルが一斉に発射される。
着弾地点で爆発が起こる。
相当数のUMが巻き込まれたようだ。
「新しい武装を使わせてもらうよ」
「何だよそれ!」
「調べたもの勝ち」
シュッツはそう言いのけた。
アキラは腑に落ちない。
新しい武装が使えなかったのが気に食わないのだろう。
「
フェルンの周囲に無数の球体が出来上がる。
それは矢の形になり、四方へ飛んでいく。
やすやすとUMの装甲を貫き、機能を停止させていった。
「無差別攻撃かよ」
「フェルンは動きが鈍い分、派手だからね。
それに、ほら、終わった」
最後に残っていたUMも力無く地上に崩れ落ちる。
自衛隊が撤退してからわずか20分の出来事だった。
「反撃はこれからだな」
「世界中を飛び回らなきゃ行けないかもね」
今回だけで終わりでは無い。
本当の戦いはこれからだ。
フェア・ヴァールの活躍はいかがでしたか?
とりあえず、前のフェアより格段に強いという事を認識してくれていれば大丈夫です。
フェアの10倍以上のエネルギーゲインを持つので当然といえば当然ですね。
ナーエにしてもフェルンにしても新しい名称はあるんです。ただ、出して来ていないだけで。
正確にはノイ・ナーエとノイ・フェルンと呼ばれます。
多分、今後も使わないような気がするので今の内に書いておきます。
本当はもう少しメカの設定とか出していきたいんです。でも、私が書くと文章がぐたぐたになりそうなので、何か機会があった時に書きたいと思います。
次回予告です。
フェア・ヴァールにより日本はレフォルムの魔の手から逃れる事ができた。
しかし、世界各国はまだレフォルムの侵略が進んでいた。
アキラ達はレフォルムの侵略を食い止めるため、奪われた軍事基地の奪還に挑む。
どこに行くのかはまだ決めていませんが、アメリカの軍事基地というのは決めてあります。
レフォルムは基地を改造して軍事工場として動かしているようです。
足掛かりを崩す事により侵略を食い止めようという事みたいです。
詳しくは次回をお楽しみに。
それでは、See You Agein?