フェアタイディゲン・ヴァールの登場で、日本の戦局は一変した。
レフォルムの襲撃に日本は耐え切ったのだ。
しかし、今だに多くの国々は、レフォルムの魔の手から逃れるのもままならなかった。
通信が寸断され、全く消息の掴めない国もある。
日本が世界最後の砦になっていた。
「防衛庁から出撃要請がきておるんじゃよ」
浦辺は所長室にアキラとシュッツを呼び出していた。
研究所は非公式ながら国立の施設だ。この日本の国自体の要請なら断る理由は特にない。
「俺らに相談しなくても博士の一存で決めてくれていいですよ」
アキラもそれを知っていたし、浦辺の命令は素直に聞くつもりだ。
「日本国内ならもちろんそうしておるんじゃが、何せ今回はアメリカ絡みじゃからの。君らの意見も聞かんと」
どうやら、今回は浦辺だけでは決めかねているようだ。
「理由は、フェアですね」
何となくだが、すぐに理由はわかった。
これ以外に、アメリカが日本に頼ってきそうな事などなかった。
「そうじゃ。詳細までは聞いてはおらんが、ある施設を奪還したいらしいんじゃよ」
アメリカの国力はかなり疲弊していた。防衛するだけで攻撃には移れない状態だ。
そこで、余裕のありそうな日本の主戦力の手を借りようとしている。
「どうするかの?」
浦辺は2人に意見を求めていた。
「ま、行くしかないんでしょうね」
断る理由は無く、そして今、自由に動け、なおかつ、反撃できるのは、フェアをおいて他に無い。
アキラはその事をしっかりと悟っていた。
「アキラはそれでいいの?」
「いいも悪いも……。やれる事をやるしか無いだろ?」
「シュッツもそれでいいんじゃな」
「はい」
シュッツは頷いた。
「わかった。ヤヨイ君、長官に連絡をしてくれんか」
「わかりました」
ヤヨイは、手早く自衛隊を束ねる防衛庁の長官の元へホットラインを開いた。
アキラ達は防衛庁長官に会うことになった。
正直な所、アキラは会いたいとは思わなかったが先方がどうしてもといってきたらしい。
「彼等がそうなのですか?」
長官は目を白黒させていた。話には聞いていただろうが、実際のパイロットを目の前にしてその若さに驚いたのだろう。
「そうじゃ。話はそれくらいにしておいて、本題に入ってくれんか?」
まるでアキラの意志を汲み取ったように浦辺が話を進めようとする。
「わかりました。君、資料を」
隣にいた部下に声をかける。
それぞれに英語で書かれている資料を手渡した。資料が行き渡ったのを確認すると長官は説明をし始めた。
その内容はいたって簡単なモノだ。
軍事施設の奪還。
しかし、そこは既にレフォルムによって改造され、巨大なUMの製造工場になっている。
アメリカの軍事力をもってしてもレフォルムの本拠地と思われる場所に攻撃を仕掛けるのは難しい。
「奪還できれば世界各地の状況は改善されると見込んでいます」
「わかりました」
これで断る2人ではない。むしろやってやるという気が強かった。
「場所はどこですか?」
「アラスカです」
アメリカ国土でも極寒の地が次の戦いの舞台だった。
翌日。
アキラとシュッツはアインとツヴァイのコクピットに座っていた。
「変な感じだな」
「そうだね」
格納庫にいつもの慌ただしさはない。実に静かなものだ。スクランブル発進では無いためだろう。
「こちらから攻撃を仕掛けるのは初めてだし、緊張しているのかも」
「馬鹿言え。それは無い」
「アキラはそうかもしれないけどね」
そういうシュッツも緊張している様子ではない。むしろ緊張しているのは、スタッフのほうだ。
初めて攻撃を加えるという事実は、この戦いが防衛のみの戦いでは無くなったという事を意味していた。
だが、それで余裕ができたのかといわれれば、それは否定される。
この奪還作戦は重要だ。
その結果は今後の戦局を間違いなく左右するといっても過言では無い。
だが、アキラ達にしてみれば、目の前に横たわっている障害を1つずつ取り除いているだけだ。
『2人とも、時間じゃ。準備はいいかね?』
浦辺の声が2つのコクピットの中で響く。
出撃の時間が来た。
「いつでも行けます、博士」
「僕も大丈夫です」
発進の準備はもう既に整っていた。
『無事に帰って来るんじゃぞ』
「了解」
アキラとシュッツは研究所を飛び立った。
アラスカ上空。
眼下には目的の軍事施設が佇んでいる。
そろそろレフォルム側のレーダー圏内に入っているはずだ。
「さてと」
アキラは身構える。
いつ、敵が現れてもおかしくないからだ。
「作戦通り行こう」
「わかった。アキラに任せる」
2人の考えた作戦は結構単純だ。
施設の破壊を最小限に抑えるため、ナーエで施設に向かい、
この作戦の背景には浦辺からの「施設をできるかぎり原形を留めたまま、奪還せよ」という命令もあった。
「
合体が完了すると地上へフリーフォールを始める。
フェアの襲来に気付いたらしいレフォルムはようやく数体のUMを送り出してきた。
アキラはそれを手間取る様子もなく撃墜する。
UMの強さは日本に襲来したものより少し弱く感じられた。
これならどんなUMが来ても問題無い。
迫り来るUMを薙ぎ倒し、フリーフォールを終える。
施設にたどり着いたアキラ達が見たものは、ざっと数えても100体以上は確実にいるUMの群れだ。
シュッツは思わず、さすが製造工場と感心しそうになる。
そんなシュッツをよそに、アキラは構わずUMを薙ぎ倒し施設の奥へと突き進んでいく。
そして、最深部にたどり着く。
そこで2人が見たものは聞いていた話とは掛け離れたものだった。
「工場か?」
「違うと思う」
そこにあったのは巨大な、全長が40メートルほどある筒だ。多分なにかの装置なのだろう。
「注意して!あの筒から高エネルギー反応!」
「注意しろって、避けられねーぞ!」
この筒がもし兵器なら、フェアの逃げ場はどこにもなかった。
「多分、兵器じゃ無いから」
シュッツがそう言い終わらない内に筒から大量の光があふれだす。それはエネルギーの放出だ。
「な、なんだ?」
光に一瞬目が眩む。
「アキラ!前見て!」
シュッツの声で、弾かれるように回避行動を取る。
先程までいた場所には今までいなかったはずのUMがいる。
「UM?転送装置か!!」
そう、目の前にある巨大な筒の正体は転送装置だった。
しかし、現れたUMに対して下手な攻撃はできない。もし、攻撃が外れれば、装置ごと破壊しかねないからだ。
「また高エネルギー反応!まだ来るよ!!」
装置に光が再び集まり出す。
これ以上UMに囲まれてしまえば手も足も出なくなってしまう。アキラは選択を迫られていた。
「しゃあねぇ、壊すぞ!
UMを停止させるパルスが、フェアを中心に一気に放出される。
そのパルスを受けた転送装置は徐々に輝きを失っていく。
「装置のエネルギー反応消失。破壊を確認」
シュッツは、装置に向けられていたセンサーを1つずつ確認していく。
「これで最後か?」
「ちょっと待って……センサーに反応なし。UMは全滅したみたいだね」
あとは、アメリカ軍なり何なりが制圧すれば問題無いだろう。
「作戦終了!さぁ帰るぞ!」
施設を脱出した2人は帰路についた。
そして、あの奪還作戦から1週間が経った。
「実際、侵攻の手は弱まっているのか?」
アキラとシュッツは研究所内にあるカフェで話をしていた。
「アメリカ、カナダは大丈夫みたい。でも、ヨーロッパとかは全然」
あの施設を破壊したことで侵攻の手がゆるまったのはアメリカ大陸の北側とロシアの一部だけだった。
他の地域では相変わらず侵略が続いている。
「まだ、ああいうのがあるって事か」
この事実から考えられる1つの答えだった。
「多分ね。どうなのかは解析次第だけど」
今、浦辺はアキラ達が破壊した転送装置らしき物を昼夜を問わず解析していた。
その解析が終われば何か打開策が生まれるかもしれない。
「あんなの、解析できるのか?」
「今までもUMを解析してきた実績があるからね。何とかなるって博士も言ってたよ」
「そうか」
この解析に望みを託さなければならないのも、現状だ。
「もう少し時間がかかるって言ってましたよ」
「ヤヨイちゃん」
気付けば、両手に大量の書類を抱えたヤヨイが2人の背後に立っていた。
「えーとですね、お2人にこれ、渡してくれって頼まれまして」
アキラとシュッツに厚さが1センチほどある分厚い資料を手渡す。
「なんの資料だい?」
タイトルの記載がないこの紙の束の中身がなんなのか、シュッツは確認を取る。
「解析の途中経過です。目を通しておいてください」
「わかったよ」
「何か手伝えるといいんだけどな」
パイロットであるこの2人は、もし何かがあっては困るので解析の手伝いは一切任されていなかった。
「今はないです。でも解析が済めばすぐに出撃かもしれませんよ」
ヤヨイも何をしてくれということはなかった。だが、次に起こりうることへの示唆はする。
「急だな」
「先手必勝。敵も馬鹿じゃない。対策を取られる前に叩くのがベストだよ」
シュッツの言う事ももっともだ。叩ける内に叩いておくべきだろう。
「そうか」
アキラは決意と共に月を一瞥した。
意外なことに、今回が初めての反撃となります。
全30回+αの予定は変えておりませんので、だいぶん後半になってからの反撃となっております。
でも、突然話がワールドワイドになってしまいました。
まあ、レフォルムの目的を考えると当然なのですが、海外旅行に行った記憶があまり無い私にとって、土地の描写はかなり難しいのです。
それでもあと3回は海外が舞台となるので頑張らねば。
では、次回予告です。
アラスカで破壊した装置から判明したのは、同じような施設があと3箇所もあるという事実だ。
アキラとシュッツはそのうちの1箇所であるアマゾンへ向かう。
突入した施設の最深層で出会ったのは、実に意外な人物だった。
既に登場している人物と衝撃の出会いを果たします。
それが誰なのかは見てのお楽しみに。
その人物のおかげでアキラはシュッツに疑いを持つようになってしまうんですよ。
謎が増える部分もあれば、解決する部分もあるでしょう。とにかく、最終話に向けてここから加速していきます。
全ての事がうまくまとまればいいなと思っています。
もう、ほとんどのサブタイトルも決まってるんですよ。
30話のサブタイトルなら想像がつくかもしれませんね。
それでは、See You Agein?