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25章  Misstrauen -疑心-

 ツェアシュの前に展開されているディスプレイから得られる情報は、ある1つの結果を導き出していた。
「基地が潰されたか」
「申し訳ありません!」
 ヴィッセンは深々と頭を下げた。
「かまわん。ここが残れば何度でも立て直しはできる。
 それにしてもしぶといな、フェアタイディゲンとは」
 一度は潰した。そういう報告をツェアシュは受けていた。
「一度は確かに撃墜したのですが、新型の様でして」
「だからてこずる。……いい言い訳だな、マハト」
 冷徹に言い放つ。
「め、滅相もありません!」
 その言葉にマハトは恐縮してしまう。
「よい。次は私が出よう」
「ツェアシュ様のお手を煩わすような事は!」
「気にする必要はない。ただ見ておきたいだけだ。我等に盾突く愚か者をな」
「……了解しました。Waffeヴァッフェユピテルの出撃準備を進めておきます」
「見極めてやろう。フェアタイディゲンを」
 ツェアシュは怪しげな笑みをうっすらと浮かべていた。
 
 指令室にアキラとシュッツは呼び出されていた。
 しかし、ここに呼び出した当人である浦辺の姿はまだない。
「いや、遅くなってスマン」
 2人のいる所へ浦辺が息を切らせながら走ってくる。
「博士、訓練を切り上げて来いって、何かあったんですか?」
 そのせいで、2人ともパイロットスーツをきたままだ。
「大ニュースと言ってもいいかもしれん。なにせ2人にはすぐに出撃して欲しいんじゃ」
「出撃?解析が終わったんですか!」
「そうじゃ」
 アラスカへの出撃から2週間が経過していた。
「次はどこです!?」
 勢い余ったアキラは浦辺に詰め寄る。
「問題はそこなんじゃよ」
「どうかしたんですか?」
「候補地は3箇所。どこから行くか決めかねておる」
「そんなのどこからでもいいだろ?適当に決めてくれよ」
 アキラはソワソワしていて、今にも格納庫に向かって走り出しそうだ。
「そこでじゃ、お主等が決めてくれんか」
「僕らが決めるんですか?」
 シュッツはアキラを見るが、逆にお前が決めろと言わんばかりに見返された。
「じゃあ、一番遠い所で」
「わかった。データは転送する。すぐに向かってくれ!」
「了解!」
 2人は何も聞かずに走り出した。
 
 目的地はアマゾン。
 日本から見れば地球のほぼ反対側に位置していた。
「アマゾン!!マジで?」
 アインとツヴァイの全速力を出せばたいした事のない距離ではあるが、時間はかなりかかる。
「ウソついてどうすんのさ」
 シュッツはツヴァイを自動操縦に切り替える。
「一番遠いとこなんだから、それくらい予想できるでしょ」
「でもよ、遠いにもほどがあるだろ?」
 まさか、地球の裏側まで行くとは思わなかったらしい。
「月に行け。とか言われるよりマシでしょ」
「……まあな」
 アキラは少し考えてそう答えた。
 
 6時間後。
 アマゾン川流域に近づいた2人は間もなく到来するであろう敵を警戒していた。
「どっちで行く?」
「もちろん、ナーエでしょ。フェルンじゃ森を焼いちゃうよ」
「……なるほど」
 ここが動植物の楽園、アマゾンだという事を忘れてはいけない。
 無駄に戦火を広げるわけにはいかない。
 アキラも納得した所でナーエへと合体する。
 それから間もなく、UMの大群がアキラ達の元へ迫り来る。
「今日はエネルギーを無駄にするわけにはいかねーんだ!Senseゼンゼ!!」
 アキラの掛け声と共にナーエの方から1本の棒が射出される。それを手に取った瞬間、大鎌へと姿を変えた。
「行くぞぉぉお!」
 UMの大群の中へ自ら突っ込んでいく。
 迫り来るUMを次から次へと斬り倒す。その姿には鬼気迫るモノがある。
 そして、異変は起こった。
「アキラ!もうすぐ基地にたどり着くよ!」
「わかった!」
 アキラはUMを斬り倒していきながらも地上への落下を続ける。UMの抵抗で落下スピードは思ったよりも緩やかだ。
 それは、地上に降り立った瞬間だった。
「痛っ!」
 アキラの右足に痛みが走る。その突然の痛みに右足を確認した。そこには信じられない光景があった。
 その状態にアキラは絶句してしまう。
「どうしたの?」
 そして、それをシュッツには悟られまいと隠そうとした。
「……何でもない」
 そっと右足に視線を落とす。右足、いや両足にコードや機械が複雑に絡まっている。そのいくつかが足に食い込み、接続されていた。
 まるで機械と接続されているようだ。
 意識の端に情報が流れ込む。『声』が聞こえたときの感覚に近い。
「突っ込むぞ!」
 ふり切るようにアキラ達は基地内ヘ飛び込んでいく。
 
 今回の基地の内部はアラスカのそれとずいぶん違っていた。
 既にある建築物を使わずにレフォルムが1から作ったためだろう。異質な空気が漂っている。
「スキャン完了。地下を目指そう」
 シュッツはさっそく状況把握をしていた。
「了解、了解。下にいけばいいんだな」
 シュッツの返事を待つよりも先にアキラは動き出していた。
 ナーエは上空に舞い上がる。
「行くぜぇ!Flamme Speerフランメ シュペーア!!」
 ナーエの腕が槍のように変形する。
「ちょっ!アキラ、何するの!!」
「まあ、見てろって」
 何も理由をいわず、さらに機体の高度を上げる。そして、一気に降下した。
「いっけぇぇえ!」
 槍と化した腕をピンと伸ばす。
 地上にたどり着いた瞬間、衝撃で地面がえぐれる。フェアが余裕で通過できそうな穴が開いた。
 それでも落下の勢いは停まらず、さらに床を貫いていく。
 失速したのは、なんと最下層にたどり着いたときだった。
「ヘへっ、成功」
 下に降りる手段を探すよりも床を突き破ったほうが早い。どうやら、そう考えたようだ。
「ムチャしないでよ……」
 シュッツはただただ呆れるしかなかった。
 一歩間違えれば大事に至っていたかもしれないが、シュッツはそれを指摘しない。
「ロスが避けられたんだから良にしようか」
 長距離遠征で無駄な戦闘が避けられたのは喜ぶべき事だ。
「で、今回はこれを壊せばいいんだな」
 目の前にあるのはアラスカのときとほぼ同型の巨大な装置だ。
「うん。それがメインの転送装置だからね。壊せばここからUMは出なくなる」
「おっしゃ!メッタ斬りにしてやるぜ!Senseゼンゼ!」
 再び大鎌を取り出す。
 転送装置に斬りかかろうとした、その刹那だった。
「アキラ!転送装置に高エネルギー反応!」
「な、なんだって!」
 寸手のところで辛うじて動きを止める。
「何かが転送されてくる……」
 それがシュッツが得られる全ての情報から導き出された答えだった。
 転送されて来たそれは、今まで相手にして来たUMと掛け離れていた。
 アキラは思わず身構える。
『この短時間でここまで来るとは、なかなかだな』
 声が響く。
 アキラもシュッツも聞いたことのある声だった。
「誰だ!」
『我が名は、ツェアシュ・レリッシュ。レフォルムの総帥なり!』
 大胆不適な宣言だ。
 アキラは息を飲む。
 まさか、敵の大将が出てくるとは思わない。
 だが。
 裏を返せばここでこいつを倒せば、戦いは終わる。
「いい度胸してるぜ、あんた」
 先手必勝と言わんばかりにアキラは大鎌で斬りかかった。
『ぬるい』
 機体に届く前に弾かれてしまう。
 何が起こったのか、アキラは即座に理解できなかった。
「……跳ね返された?」
『ふむ。その機体、完全でないと見える』
「何!」
 それは意外な一言だった。
『それでは面白くない。だが……少し遊んでやろう』
 完全にナメられているようだ。アキラはその発言が頭にきた。
「んなろうっ!なめんなよ!」
 謎のUMの懐に飛び込んでいく。
Doppelt Schockドッペルト ショック!」
 しかし、攻撃は通らない。
「アキラ、確かめたいことがあるんだ」
「んっ?なんだ?」
 シュッツは深刻な表情をしている。何か思いつめている、そんな表情だった。
「ヨハン・ハインリッヒという名を知らないか!」
 シュッツはツェアシュに呼びかける。
『私の捨てた名を知っているのか』
「やっぱり……」
 そのツェアシュの答えにシュッツは落ち込んでしまう。
「おい、何だっていうんだよ」
「……兄さん」
 アキラはその呟きを聞き逃せなかった。
 シュッツの反応、その言葉。そこから考えられるのは1つの疑問。
 シュッツは昔からこの男を知っている。そして、血縁関係にあるのではないか?
『気になるか?』
 あの声が響く。いつもより鮮明に聞こえる。
「またテメーか。何の用だ」
『つれないな。助けてやろうというのに』
「……」
 アキラは返す言葉がなかった。今のままでは手が出せない。
「……力を貸せ」
 あの奇妙な感覚が襲う。だが、以前とは違っていた。
 意識はしっかりしており、大量の情報も十分捌けている。
 意識が揺らぐ事は無い。
Wind Klingeヴィント クリンゲ!」
 ナーエの腕から巨大な斬撃が生み出される。
 それは風のように揺らめき、眼前の敵に襲いかかった。
 斬撃は障壁を貫き、機体に傷をつける。
『ユピテルに傷をつけたか』
 ツェアシュに怯む様子は見られない。
『楽しませてもらった。また会う日を楽しみにしている』
「転送装置に再び高エネルギー反応!」
「なんだと!待て!この野郎!」
 不適な笑いを残し、ツェアシュは消えた。
 アキラは跡を追おうとするがうまくいかない。転送装置が既に動作しなくなっていたからだ。
「逃げられたか……」
「そうだね」
 シュッツの表情は暗いままだ。
「シュッツ、あのよ。"兄さん"ってどういうことだ?」
 シュッツの表情が一瞬引きつる。そして、そのまま答えることはなかった。
 
 アキラは夢を見た。
 自分が機械に取り込まれる夢。
 あんな事があったからなのか、理由はわからない。ただ、それが現実に起こりそうで恐かった。
 見えない魔の手はすぐそこまで迫っているのかもしれない。


あとがき

 いかがだったでしょうか?
 海外遠征第2弾です。
 地球の裏まで6時間。一体時速何キロ出てるんでしょうか?もしかして、音速の壁を越えてたりして……まあ、自分で計算しとけって話ですよね。
 しかも、ツェアシュさんが出て来てハラハラの展開。きっと強いんでしょう。何たってラスボスですから。
 シュッツとの関係も気になる所です。多分大方の予想はつくと思います。アキラと同じ考えに行き着く人も多いのでは?その予想は裏切らないです。詳しくは次回をお楽しみに。
 
 というわけで、次回予告です。
 アマゾンの戦いで何となく仲がギクシャクしてしまったアキラとシュッツ。
 そんな中、次の遠征先が決まる。
 その戦いの中で、シュッツはある1つの決断を下すのだった。
 
 次回のメインはシュッツです!
 内容は伏せておきましょう。タイトルから少しは推測できると思いますが、結構意外な展開かも。
 いい意味で予想を裏切りたいなー。と。でも、唐突な話になりそう。
 
 それでは、SeeYouAgein?

2005/05/19


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