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26章  Bruder -兄弟-

 アマゾンの一件から、シュッツとアキラの関係はなんとなくギクシャクしていた。
 話をしていても噛み合わなかったり、2人とも意識的に距離をとったりしていた。
 そんな中、次の出撃箇所が決まる。
 インドネシアの中央に浮かぶ名も無い無人島。
 そこにレフォルムの3つ目の基地がある。
 それぞれの思いを胸に秘め、出撃準備は着実に進んでいた。
 
 出撃する少し前のことだ。
「シュッツさん、今時間ありますか?」
 突然のヤヨイの訪問にシュッツは少し戸惑っていた。
「ヤヨイちゃん?少しなら良いよ」
 シュッツは咄嗟に時間を確認する。出撃時間まではまだ少しかかりそうだった。
「あの、大丈夫ですか?」
 これまた突然の質問にシュッツは何を聞かれているのかわからなくなっている。
「えっと、何が、かな?」
「最近、アキラさんと仲良くできてないんじゃないですか?」
 そこまで聞いてようやく納得がいった。ヤヨイは、今のシュッツとアキラの関係に気付いているようだ。
「大丈夫。問題ないよ」
 いつも通りのやんわりとした微笑みは、今のシュッツには少々苦痛だったがヤヨイの前ではそうも言っていられない。
「本当に大丈夫なんですか?話せることがあるなら話してください」
 話せること。そういわれてシュッツは考えた。
 今、アキラとあまり関わっていないのは、アマゾンの基地を攻撃したときに呟いてしまったある1言が原因だった。だが、その言葉の真意を説明する決心がつかない。
「ごめん、ヤヨイちゃん。今はまだ話せないんだ……」
 ただでさえあまり元気のないシュッツがさらに影を落としてしまう。ドンヨリとした空気が辺りを包む。
「わかりました」
 ヤヨイは素直に引き下がる。これ以上は同じと思ったのだろう。
「でも、いつか話してくださいね!」
 シュッツは立ち去るヤヨイを見送った。
 時間を確認する。思いの外、時間は経っていなかった。それでも出撃の時間は差し迫っている。
 シュッツは気を引き締めた。
 ゆっくりとツヴァイのコクピットに乗り込む。
Generatorゲネラートア、スタンバイ」
 AIに指示を出し、発進準備を進めていく。
「…………」
 指示を出し終えた後、シュッツは顔の前で手をあわせ、あることで悩んでいた。
『2人とも、準備は良いかね?』
 浦辺の声が響く。
 結論が出ないうちに、どうやら出発の時間が来てしまったようだ。
「はい。いつでも行けます」
 すかさずアキラの声が返ってくる。
「……こちらも」
 ワンテンポ遅れてシュッツが続く。
『無事に帰って来るんじゃよ』
「了解」
 シュッツ達は研究所を飛び立った。
 
 南海の孤島。
 レフォルムの基地があったのはそんな響きがよく似合う場所だった。
 だが、シュッツは出発前に悩んでいたことが頭の中を渦巻いている。そのせいでここに到着するまで終始無言だった。
「どうする?」
 不意にアキラに話し掛けられシュッツは考えるのを一旦中止する。
「……任せる」
 かなり無責任な答えだ。
 だが、戦闘以外のことで頭がいっぱいのシュッツが判断を下すのは別の意味で難しい。
「あのなぁ」
 文句の1つでも言われるのかと思った。だが、後に続いたのは意外な言葉だった。
「フェルンで行こう」
「えっ?」
 シュッツは思わず聞き返した。
 こういう基地の攻略にフェルンは向かない。開発コンセプトや武装からして、細々した攻略に適していないからだ。
 アキラもそれを知っているはずだ。
「オレに任せるんだろ?なら、フェルンで行こう」
 アキラには何か考えがある。シュッツはそのことをすぐに悟った。だが、何が目的なのか、そこまではわからなかった。
「……わかった」
 任せるといった手前、拒否してしまうわけにはいかない。
Andern fernエンダーン フェルン
 即座に合体シークエンスに入る。
 突如急降下する。しかし、海面に激突する前に反重力フィールドを形成し静かに海上に佇んでいた。
 フェアが現れたのにようやく気付いたのか、基地からおびただしい数のUMが現れる。
「シュッツ、後は任せる」
「わかった」
 いつもならここで軽口の1つや2つ叩くのだが、今回はそれ以上何も言えなかった。
 シュッツはただUMだけを見据えていた。
 
 言うべきか言わざるべきか。シュッツは相当迷っていた。しかし、今の今まで結論は出せていない。
 言った方がしこりもなくすっきりするのは間違いない。
 だが、アキラの反応が恐かった。何と言われるか、それがどうしようもなく恐かったのだ。
 そして今、こうして戦っている間もその事が頭を過ぎる。
「コラ、シュッツ!無駄弾多いぞ!」
 アキラから激が飛ぶ。
 考え事をしながら操縦しているせいだろう。普段より動きに無駄が出ているようだ。
「……うん」
 返事も上の空になる。
 それでも戦う手だけは停まらない。
 わかっていたから。
 シュッツは自分に言い聞かす。
 戦わなくてはならないことは、ここまで追って来たときにもうわかっていたことだった。
 それが、たとえ……
 突然鈍い衝撃が走る。
 どうやら被弾したらしい。
「避けろよ!」
 アキラの罵声が飛び込んでくる。
「ムチャ言わないでよ」
 フェルンは鈍い。シュッツはそう続けようとした。
「いつものお前なら避けてる」
 だが、アキラは言い切った。シュッツが本調子ならこの程度の弾道、読み切って当然だった。
「……大分前、博士に初めて会ったときだ。俺、博士に頼まれたことがあるんだ」
 唐突にアキラは話を始める。
 シュッツは突然の事に困惑を覚えた。
「シュッツェン・フィルフェの秘密を聞くな。
 ……これがどういう事か、わかるよな」
 シュッツはようやく納得する。
 浦辺は知っていたのだ。自分が何かを隠している事を。そして、シュッツ自身がその話を切り出すまで待ってくれていたのだ。
 シュッツは浦辺の心遣いに感謝した。
 そしてようやく決心する。
「全部話すよ」
 同時に反重力フィールドの出力を上げ、上空へ舞い上がる。
「ようやく、決心がついたんだ」
 フェルンの背中に装備されている巨大なライフルを構える。
「だけど、ここじゃ全ては話せない。だから……」
 誤差なく、確実に照準をあわす。狙うは施設の中心、例の転送装置がある場所だ。
「早々に切り上げるよ!Feuernフォイアーン!!」
 銃口にエネルギーが集中した次の瞬間、膨大なエネルギーが矢のように施設を目掛けてほとばしる。
 施設の沈黙を確認するのにそう時間はかからなかった。
 
 研究所に戻ってきた2人は、浦辺の研究室に向かっていた。
 シュッツの希望で浦辺にも話を聞いてもらいたかったため、浦辺の研究室に集まることになったのだ。
「私にも、話してくれたっていいんじゃないですか?」
 研究室の前で、ヤヨイが仁王立ちしていた。シュッツのことを気にしていたヤヨイも話を聞きたいのだろう。
「いいよ。一緒に聞いてもらおうか」
 シュッツはドアノブに手をかけ、ドアを開く。
 既に浦辺が待ち構えていた。
「ようやく、話してくれるんじゃな、シュッツ」
「はい」
 シュッツは静かに頷いた。
 最後に室内に入ってきたアキラがドアを閉めるのを確認すると、シュッツはゆっくりと話始めた。
「レフォルムの首領であるツェアシュ・レリッシュは僕の兄です」
 ここから切り出さなくてはならない。これが隠していたことの中核だからだ。
「僕は、兄さんを追ってここまでやってきた。
 レフォルムは必ず地球に侵略をかけてくるのはわかっていたから、それだけは絶対に防がなきゃならなかった」
「話の筋が見えないんだが?」
 アキラが途中で遮る。聞いている方は脈略のない話としか聞こえないのだろう。
「僕は博士に会う前からレフォルムの存在も、その目的も知っていたんだ。正直、それを阻止するために博士に近付いたっていってもいいくらいだからね」
「それはわしも薄々気付いておったよ」
 シュッツは申し訳なく感じた。シュッツの取った行為は浦辺を騙していたことになるからだ。
「博士にだけは言っておかなきゃならなかったですね。すみません。
 僕は兄さんの暴走を阻止したかった。でも、できない理由もあった。それは僕が幼過ぎたから。僕と兄さんは年の離れた兄弟だから」
「ちょっと待てよ。アイツってかなり若い感じだぞ?」
 同い年くらいにしか見えない。そういいたいのだろう。
「本当は15歳くらい離れてるからね。だから僕は考えた。何とか兄さんを阻止できないものかってね。思いついたのは兄さんがたどり着く年代よりもさらに昔にたどり着けば僕も成長して対等に戦えるってことだった」
 シュッツは特に気にしてないが、年代、成長と、アキラ達に取って気になりそうな言葉が並ぶ。
「何か、未来から来たような言い草だな」
「そう、僕は未来から来たんだよ」
 アキラ達にとっては爆弾発言だ。だが、シュッツにとってはただの事実にしかすぎない。
「タイムトラベル?信じられませんよ!」
 ヤヨイは興奮し気味だ。技術者の血が騒ぐのだろう。
「未来の技術でも往復はできないんだ。僕は片道切符でここまで来たんだよ」
「俺は信じるぜ。
 だけどよ、未来に未練はなかったのか?」
「兄さんがいなくなれば僕は天涯孤独になってしまう。そんな所に未練はなかったよ。でも、今はそんなこと抜きでこの時代に来れて本当によかったと思ってる」
 正直な気持ちだった。
 初めは兄を正すことだけが目的だった。だが、今はここの人達を守りたいという気持ちの方が強くなっている。
「じゃあ、ヨハンって言うのがツェアシュの本当の名前なのか?」
「そう、それが兄さんの本当の名前。僕の名前は……」
「言わなくていい!」
 シュッツはアキラの制止に驚いた。
「今のお前はシュッツ。それでいいだろ」
「そうです!今から名前が違うって言われても困ります!」
 いつのまにか本当の名前で呼ばれていた時間より、シュッツと呼ばれた時間の方が長くなっていた。振り返ってみると本当に長い日々だ。
「ありがとう」
 伏せがちのシュッツの頬にすっと一筋の涙が流れた。


あとがき

 シリーズ長いですが、初めてのシュッツ視点だけで一本書けてしまいました。
 今回は内容からわかるように、どう考えてもシュッツが主役にしかなりません。アキラ視点で書くとちょっとおかしな描写になりそうだったからというのも理由の1つです。
 シュッツは色々考えてますから、書くのが結構楽でした。シュッツはこう考えるんじゃないのかとか考えるのは楽しかったです。
 
 それでは次回予告です。
 アキラ達は、サハラ砂漠にあったレフォルムの地上最後の基地を制圧することができた。
 だが、アキラの身体には異変が起こっていた。
 柳沢に宣告される自分の制限時間。アキラの身体は限界を迎えようとしていた。
 
 チョコチョコは描写してきたと思いますが、アキラの'アレ'についての話になります。
 あるものが起こす現象についてです。
 それが何なのかはお楽しみに。ヒントはアキラ達にとって身近なものであり、尚かつ重要なものです。
 
 それではSee You Agein?

2005/05/24


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