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27章  Erosion -侵蝕-

 アキラとシュッツはサハラ砂漠のど真ん中にいた。地上にある最後のレフォルムの基地がそこにあった。
 時間を開けずに畳み掛けているためか、出てくるUMはたいしたことがない。そのため、難なく攻略することができた。
 だが、アキラの消耗が異常なまでに激しい。
 シュッツがそのことについて問い正すが、アキラはなにも答えようとしなかった。
 
 アキラは夢を見る。
 何もない空間に1人立っている。
 そこに機械やコードが湧きだし、周囲を埋め尽くす。それらが動きだし、アキラに迫ってくる。まるで、機械達がアキラを求めているような、そんな動きにも見える。
 機械が身体に絡み付き、身動きが取れなくなる。そして、自身の身体と機械が融合を始めた。
 痛みはない。ただ、次から次へ身体は機械を取り込んでいく。
 周辺にあった全ての機械を取り込んだとき、青い光が辺りを包んだ。
 
「っ!うわあ!」
 アキラは跳ね起きた。
 額は汗でじっとりと湿り、身体もイヤな汗をかいている。
「ゆ、夢?」
 思い出すのは、1週間前のサハラ砂漠の遠征。夢で見たこととほぼ同じことが起こった。
 どこからか湧いてきたコードが足に絡まり、身体に接続されていく。痛みはない。ただ、大量の情報が頭の中に流れ込み、パンクする寸前まで追い込まれた。
 しかし、この状態になってからフェアは異常なほど強かった。
 何故なのか?アキラにはわからない。だが、あの時の感覚が頭にこびりついて離れない。実に鮮明に記憶に残っている。
 おかげで、すっかり機械に恐怖心を抱くようになっていた。
 インターフォンのベルが鳴る。
 ためらいながらも受話器をとった。
『アキラ?柳沢先生が会いたいからってこっちに来てるんだけど、大丈夫?』
 電話口から聞こえるのはシュッツの声。
「大丈夫。会える」
 即答とはいかないがすぐに返事を返す。
『医務室の方で待ってるらしいから』
「わかった。ありがとな」
 アキラは受話器を元に戻した。
 一通り身支度を済ませたアキラは自分の部屋を出た。
 
 医務室にはシュッツのいっていた通り、柳沢がアキラが来るのを待っていた。
「やあ、アキラ君。久しぶりだね」
「何言ってんですか。で、何の用です?」
 柳沢がわざわざ研究所を訪ねてくるのだ。小さな出来事ではないのは容易に想像できた。
「身体の痺れはどうだい?」
「日常生活に支障はないです。ただ、1度痺れるとしばらく動けなくなりますね」
 特にフェアから降りた直後になりやすかった。
「前に聞いたときより悪化してるね」
「そうです」
 アキラは素直に認める。
「そうか。ならあの状態もありうるかもしれない」
「それが本題なんでしょ、柳沢先生」
「さすがアキラ君。話が早い」
 柳沢はアキラに向かって微笑んだ。だが、こんなときに限って柳沢は深刻な話をする。アキラはそれを経験から知っていた。
「アキラ君の痺れの原因がわかったんだ」
「本当ですか?」
「ああ。原因はWilleヴィレだ。その痺れはWilleヴィレを大量に浴びることによって引き起こされた症状なんだ」
「え?」
 アキラは一瞬柳沢が何を言ったのか、判断できなかった。
 しかし、その内容をゆっくりと噛み締め、理解できてくるとその事実で逆に混乱してしまう。
「フェアに乗ってるのが原因?」
「そう言えるね。それにもう1つ症状があるんだ。それが機械化」
 聞き慣れない言葉だ。
「機械化?何ですか、それ」
「身体が機械に浸蝕されていくんだ。この症状が出ればかなり危ない」
「危ないって、具体的には?」
 アキラの内心はかなり荒れていた。落ち着くのに大分力を使っている。
「最悪機械に取り込まれて、死ぬ」
 アキラの鼓動が早まる。心臓が口から飛び出しそうだ。
「少し、試させてもらうよ」
 柳沢の手にあるのはUSBケーブル。そのケーブルをアキラの腕に押し付けた。
 本来ならばどうにもならないはずのケーブルがアキラの腕に飲み込まれていく。
「!!」
 アキラは言葉にならない悲鳴を上げる。
 このケーブル、パソコンに接続されているのか大量の情報が頭に流れ込んでくる。
「は、外してください……」
 アキラの身体は硬直しており、そう柳沢に伝えるのが精一杯だ。
 柳沢は急いでケーブルを引き抜いた。
 頭から負荷が消え、身体の強張りも消える。
「アキラ君……」
「ははっ、やっぱりバレますか」
 アキラは笑ってごまかせないことくらいわかっていた。だが、できれば笑ってごまかしたかった。
「僕は君に警告しなくちゃならない」
 柳沢の口調がより厳しいものに変わる。
「アキラ君、今のままでは確実に死んでしまう。君はそれでいいのかい?」
 アキラは首を横に振る。
「なら、僕が言えるのはただ1つ。もうフェアに乗らないことだ」
「だけど、まだレフォルムは!」
 レフォルムを捨てておくことはできない。途中放棄もイヤだった。
「血液のサンプルを採らせてもらえるかい?血中のWilleヴィレの量を比較したいんだ」
 柳沢は傍らに置いてあった鞄の中から少し大きめの注射器と4本ほどの試験管を取り出す。
「ええ。でも、どうして?」
 血液中のWilleヴィレの量を比較して一体何がわかるのか、アキラには見当がつかなかった。
「これでもアキラ君の性格はわかってるつもりだからね。あとどのくらい戦えるか、こちらで試算してみるよ」
 時間制限がつく。この事実はアキラに重くのしかかる。
「わかりました。お願いします」
 それでもタイムリミットのわからない時限爆弾を抱えるより、制限時間がわかっている方がいくらか気は楽になる。
「結果が出るまでしばらくかかるけど、その間フェアに乗るのは避けるようにね」
 柳沢は素早くアキラの腕から血液を採取する。
「あ、はい」
 すぐに死ぬ。というわけではなさそうだが、それでもアキラの心の中に強い葛藤を生む。
「あの、博士はこのこと知ってるんですか?」
「機械化のことなら浦辺先生もご存知だよ」
「そうですか……」
 アキラは落胆する。浦辺が知っているとなると今後フェアに乗ることが難しくなるのは目に見えている。
「だけどアキラ君のことは知らない」
「えっ?」
「まさかここまで症状が進んでるとは思わなかったからね。先生に報告するのは避けていたんだ」
 ほっと、安堵を浮かべる。
「それとも、報告してほしい?」
「い、いえ!」
 アキラは慌てて首を振った。
「アキラさんいますか?」
 ヤヨイがドアの隙間から顔を覗かせる。どうやらアキラを探しに来たようだ。
「あ!いた!」
「どうしたの?」
「ナーエの最終調整を頼みに来たんです」
 アキラは何か返事をしてほしそうに柳沢の顔をじっと見つめる。
「……フェアに乗るならもちろんダメだよ」
 柳沢はため息交じりにそう答えた。
「悪いな、ヤヨイちゃん。そういうわけで調整には付き合えないよ」
「えーっ!ちょっとでもダメなんですか、柳沢先生?」
「だめです」
 柳沢はピシャリと言い切った。
「わかりました。じゃあ、ナーエはこちらで調整しておきますね」
「頼むよ、ヤヨイちゃん」
「はぁい」
 ヤヨイはうなだれながら医務室を出ていく。
「悪いことをした気分ですね」
 アキラに悪びれた様子はない。
「アキラ君。出撃のための調整が必要なのはわかるけど、命とどっちが大事なの?」
「一応、命です」
 一応とつける辺り、アキラらしい。
「それに、相手はヤヨイちゃんです。先生の一言がないと無理矢理でも連れて行かれますよ」
 苦笑いを浮かべる。
 過去に何度か調子が悪いのに無理矢理調整に付き合わされた記憶が浮かび上がる。そのあと、2、3日ほど寝込んでしまうのだ。
「結果が出るまでちゃんと断るように」
「わかってます」
 今回ばかりは命がかかっている。無理はできない。
「ところで先生。シュッツは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。君みたいに痺れは訴えてないから」
 痺れが機械化への第一段階のサインのようだ。
「安心したかい?」
 アキラはコクリとやけに素直に頷いた。自分がこうなっているなら、自分より長くフェアに乗っているシュッツに何も影響がないとはどう考えても言えない。だが、柳沢の答えはアキラの考えとは正反対のものだった。
「そこらが不思議なんだよね。個体差があり過ぎるんだ」
「オレとシュッツみたいにってことですか?」
「まあ、そういうこと。マウス実験でもムラがあることはわかっているからね」
 柳沢はしばらく学術的な話を続けたが、アキラにとっては大部分がよくわからない、むしろ、チンプンカンプンな話だった。
 話が終わったのは20分ほど経ってからだった。さすがのアキラもゲンナリしている。
「話が長くなってしまったね」
「……長過ぎます」
「さて、僕はこれで病院に帰るよ。何かあったらすぐに連絡して」
 柳沢は立ち上がり、荷物をまとめ始める。
「先生?」
「なんだい?」
「外に出すノートに患者さんの情報を入れておくのはどうかと思いますよ」
 アキラの指差す先にあるのは、柳沢がもってきていたノートパソコンだった。柳沢は首を傾げる。アキラもディスプレイから情報を得たわけではない。
「中がね、見えたんですよ。さっき接続されたときに」
 慣れてきた。とでも言えるのだろう。相変わらず大量の情報は捌き切らないが、それでも何が流れてきているのかが何となくわかるようになってきていた。命と引き換えのこの能力はアキラにとって決して有り難いものとはいえない。
「そんなことができるのかい?!」
「できるっていっても意識してやってるわけじゃないですし、頭も痛くなるからあまり好きじゃないんですよね」
「……そうか、こういうことが起こっても不思議じゃない」
 柳沢は何かを1人で納得しているようだ。
「何かあるんですか?」
「まあ、こっちの話だよ。気にしないで」
 そういわれれば余計に気になるものなのだが、あえてアキラは追求しなかった。
「じゃあ。フェアに乗るのは避けるんだよ」
「わかってます」
 柳沢は廊下へ消えていく。
 残されたアキラは苦悶の表情を浮かべていた。
 アキラに残された時間は確実に少なくなってきていた。


あとがき

 サハラ基地の攻略がほんの数行で終わってしまいました。もう少し長くてもいいかなとは思ったんですが他のところで内容がみっちりになってしまい、手が回せませんでした。なんか悲しい……
 今回の内容のほとんどはアキラ君と柳沢先生との会話です。残り数回、アキラ君はどうするんでしょうか?
 
 それでは次回予告です。
 地上にあったレフォルムの基地は全てフェアによって破壊された。世界に一時の平和が戻る。
 しかし、まだ、レフォルムの驚異が去った訳ではない。
 浦辺はその本拠地の解明に全力を注いでいた。
 そしてようやく本拠地をキャッチする。
 その場所は、何と'月'だった。
 
 ついにフェアが地球の外に出ていきます。
 裏設定なんですが、フェアは元々純粋な戦闘用ではありません。宇宙開発の一環として開発されていたものを戦闘用に改造したものになります。
 そんなコンセプトなものですから宇宙に出てもOKという訳ですね。
 何か◯ッ◯ーみたいと思われるかもしれませんがリスペクトしてるので当然です。なので気にしないように。
 
 それではSeeYouAgein?

2005/06/02


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