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29章  Sturmangriff -突貫-

 戦いは既に始まっていた。
 宇宙空間に漂う無数のUM達が次々とフェアに襲いかかる。幾重にも張られている防衛網のおかげでなかなか月面にたどり着くことができないでいた。
Flamme Speerフランメ シュペーア!」
 突きの勢いで次々と防衛網を突破していく。1体1体に構っている時間はない。
 月は徐々に近づく。
 月の重力圏に入る直前だった。"それ"はアキラ達を待ち受けていた。
「新手のUMか?」
「でも、何か雰囲気が違うよ」
 "それ"を分類するなら、アキラのいう通りUMに分類される。だが、通常のUMやMenschメンシュとはまた違った趣があった。
「……ユピテルに似た感じはするね」
「そうかもな」
 以前2人の前に現れた最強のUMユピテル。目の前にあるそれは雰囲気がユピテルに酷似していた。
「仕掛けるぞ!Senseゼンゼ!!」
 アキラは物怖じする様子もなく、正体不明のUMに突っ込んでいく。
 大鎌で斬りかかった直後、"それ"は動いた。真剣白羽取りをしたのだ。両者の力は拮抗し、身動きが取れなくなる。
 その時だ。
『我が名はマハト。マハト・クラフト。ツェアシュ様の命により、このマルスで汝等の命もらい受ける』
 突然通信回路が開き、マハトの声がアキラとシュッツの元へ届く。
「何だと!」
 アキラは大鎌にさらに力を込める。だが、その刃はマルスには届かず、弾け飛び宙を舞う。
『こんなものか、フェアタイディゲン!』
 明らかにマハトはアキラ達を挑発していた。
「お前に構ってる時間はないんだ!」
 アキラはこの挑発に乗る気はなかった。だが、ここでマハトを倒さなくては道は切り開けない。
 ナーエは危険を覚悟でマルスの懐へ飛び込んだ。アキラお得意の格闘戦に持ち込む。
 激しい拳のぶつかり合いが始まる。両者とも怯みを見せない。少しずつナーエの攻撃がマルスにヒットする回数が多くなっていく。そしてマルスに決定的な1打が打ち込まれる。マルスが怯んだその刹那。
Doppelt Schockドッペルト ショック!!」
 すかさずアキラは大技を打ち込んだ。最高のタイミングだった。だが、マルスは以前として健在だ。
「硬いな、おい」
「でも、ダメージはあるはずだよ」
「まあ、そう願いたいね」
 アキラの頭の中に浮かぶのは、かつてこちらの攻撃を事如く無効化したシールドの存在だ。しかし、それならもっと別の手応えがあってもいいはずだった。
『流石、我等の侵略を事如く防いだだけはある』
 マハトの声は余裕に満ちていた。
『だが、これ以上先には進ません!!』
 マルスが猛攻を仕掛けて来た。ナーエはそれを必死で捌く。
「時間がねえってのに!!」
 愚痴をこぼしつつもアキラはこの猛攻が途切れる瞬間を狙っていた。
 マルスの手がゆるまった瞬間だった。
「今だ!Wind Klingeヴィント クリンゲ!!」
 ナーエの腕より生み出された斬撃がマルスを襲う。
『甘い』
 斬撃が空を切る。アキラがマルスがいなくなっているのを確認した瞬間、ナーエが衝撃で吹き飛んだ。
「ぐわっ!」
 不意な衝撃でコクピットが揺さ振られる。
 あの隙自体がマハトの仕掛けた罠だったようだ。
「大丈夫か、シュッツ?」
「平気だよ。それよりマハトを!」
「応!」
 体勢を立て直し、再びマルスの懐へ飛び込む。
『同じ事を繰り返すか?』
「ふん!こっちも負けてられないんでねっ!」
 拳を5、6発まとめて打ち込む。だが、マルスは怯む様子もない。
「でやっ!」
 続けて回し蹴りを放つ。そのままコンビネーションに持ち込んだ。こうなればアキラのペースだ。翻弄されるマルス。アキラは必殺の一撃を叩き込むタイミングを図っていた。
Wind Klingeヴィント クリンゲ!」
 マルスがよろけた瞬間だ。再び斬撃がマルスを襲う。避けられないタイミングだった。マルスの胴体がえぐれ、上半身と下半身に分かれた。
『ここまでか』
 マハトの声が通信回路からノイズ交じりに聞こえてくる。どうやらコクピットには致命的な被害はないようだ。だが、マルスが無残にも2つに割れてしまった今、マハトに反撃の術はない。
『だが、我が倒れても我等の野望は砕かれはせん!フェアタイディゲンよ、覚悟するがいい!
 レフォルムに栄光あれぇぇっ!!』
 爆発が巻き起こる。それによって生み出された衝撃波でフェアは揺さ振られるが問題はない。
「行くぞ!」
 フェアは月の重力圏に足を踏み入れた。
 
 月面にもUMが大量に配備されていた。本拠地に近づくに連れその密度が増してくる。ナーエで各個撃破を行っていたが、埒が開かなくなってしまう。
「だあぁぁっ!多すぎるっ!!」
 アキラがUMのあまりにもの多さに愚痴をこぼす。確かにこのままだとレフォルムの本拠地にたどり着く前にエネルギー切れを起こしてしまいかねない。
「交代しようか?」
「そうしてくれ。Trennenトレンネン!」
 合体が解除される。
Andern fernエンダーン フェルン!」
 だが、すぐ様合体をし直した。今度の出番はフェルンだ。
Raketeラケーテ、一斉射撃!」
 フェルンのミサイルを収納しているハッチが全て開かれる。
Feuernフォイアーン!」
 全ての射出口からミサイルが吐き出される。狙いは特につけていない無差別攻撃だ。それでも周辺にいたUMを一掃するには充分だったようだ。
 フェルンはさらに本拠地に近づいていく。
 不意にAbsolute Wantアプゾルーテ ヴァントが発動する。どうやらミサイルがフェルン目掛けて飛来したようだ。
「2時方向から何か来るぞ!」
「新手のようだね」
 シュッツはアキラがセンサーで捉らえていたUMを目視する。
「先手必勝!Immens Anprallイメンス アンプラル!」
 フェルンの両腕が砲身と化し、痛烈な一撃が放たれる。爆発が巻き起こり、砲弾の命中を知らせる。
「まだだ!まだ撃墜できていない!」
 アキラの声が届くのと同時にシュッツはこちらへ接近してくる機体を発見していた。
「同じなのか?」
 必殺の一撃であるImmens Anprallイメンス アンプラルを無傷で耐えうることができるUMとして想像できるのは先ほど戦ったばかりのマルスとユピテルだけだ。それ等とは違うシルエットを持つその機体は第3の機体と呼ぶに相応しい。
 その機体はフェルンの前に静かに降り立つ。
『私の名はヴィッセン・ケントンス。覚えておいでかな?』
「よーく、覚えてるぜ。卑怯者」
 アキラにとっては襲われたこともあり忘れられない相手である。
『卑怯者とは心外だな。せめて知略家と呼んでもらおうか』
 アキラは怒りで叫びそうになるが、なんとか思い止まる。ここで感情的になれば何を仕掛けてこられるか、わかったものではなかった。
『そろそろ終わりにさせてもらうぞ。このファマでな!』
 ファマが光を放つ。ただの光ではなく、衝撃波を伴っていた。コクピットが揺さ振られる。
「くっ!Wasser Pfeilヴァッサー プファイル!!」
 ナーエよりどっしりしているぶん衝撃波には強いらしく、フェルンはすぐ様攻撃に移る。フェルンより生み出された水球は全てファマに直撃した。だが、ファマにはなんの変化もなく、不気味に佇んでいる。
『それで終わりかな?では仕返しをさせてもらおう』
 ファマは手のひらの中に巨大なエネルギー球を生み出し、それをフェルンに向かって投げつけた。辛うじて避けることができたが、エネルギー球が直撃した地面は2、30メートルに渡りえぐれていた。
「どうなってるの?!」
「……エネルギーを吸収してる?」
 アキラは1つの結論を導き出す。だが、それは推論であり、確証は持てない。
「なら、試してみるよ!」
 フェルンは一気にファマとの距離を詰める。中・遠距離攻撃が主体のフェルンが接近して狙うのはただ1つ。
Erde Hammerエーアデ ハンマー!」
 フェルン唯一にして最強の近距離兵器である。
 圧倒的な威力を持つエネルギー体をファマに叩きつける。しかし、ファマには傷一つついていない。
『効かない。というのがわからぬかな?』
 聞こえるやいなや、再びファマの両手より生み出されたエネルギー球がフェルンを襲う。接近しているために避けきれない。爆発が起こり、砂埃が舞い上がる。一時的に辺りの視界は閉ざされる。その砂埃を振り切るようにシュヴェスタが現れる。どうやら寸前で分離し回避したようだ。
Andern naheエンダーン ナーエ!」
 実弾系の攻撃もエネルギー放出系の攻撃も吸収されてしまうとなると、残されるのは格闘だけになる。
Senseゼンゼ!」
 ナーエは大鎌を手に取り、ファマに襲いかかる。ファマは避けようともせず、ただそこに佇んでいるだけだ。しかも、ダメージを与えた箇所でも見る間に修復されていく。
「どうしたらいい?」
 今の状況では手詰まり感が否めない。しかも打開策もないに等しい。
「……アキラ。危ない賭けだけど、乗ってみる?」
「乗るに決まってるだろ」
「じゃあ、よく聞いてよ。ファマはエネルギーを吸収したあと必ず放出するんだ。これから考えられるのはエネルギーを吸収するリミットがあるって事」
「なら、リミットをオーバーすれば?」
「あとは勝手に自滅するだろうね」
「よし。やってやるよ!」
 アキラには一つの確信があった。身体に流れ込むデータがその確信の裏付けをしている。
 わざわざファマの懐に飛び込む必要はなかった。アキラはただ一言キーフレーズを唱えればいい。
Schein Wirbelシャイン ヴィルベル
 光の洪水。純粋なヴィレが周囲に放出され、ファマに収束する。
『こ、この程度の事で!』
 だが、声に覆い被さるように爆発音が響く。やはり、エネルギーの許容量を越えてしまったのだろう。内部崩壊が始まったようだ。
『ツェアシュ様さえおられれば我等は敗北したことにはならない。覚悟するんだな。
 くくく、あーっはっはっはっは!』
 そして、ヴィッセンは爆発の中に飲み込まれて消えて行った。
「やってやろうじゃねーか!」
 アキラはファマの爆発を背に、ツェアシュの待つ本拠地に向かって動き出した。


あとがき

 ツェアシュの部下2人とも死亡。御愁傷様です。
 1話で2人とも殺すのは少し無理があった御様子。努力したんですけどね。対マハト戦はまだいいんですけど、対ヴィッセン戦はなんだかぐだぐた。自分の未熟さを痛いほど思い知りました。
 そんなこんなで残すところはレフォルムとの最終決着と全ての結末を描く最終話の2話です。ここまで書くとお気づきになる方もいるかも知れませんが、この"フェアタイディゲン"は正確にいうと全32話の構成になっています。でも、レフォルムと実際に戦っているのはちょうど30話なんですよ。
 
 そんなところで次回予告です。
 アキラとシュッツはレフォルムの本拠地シュテュッツにようやくたどり着く。
 不気味に静まりかえったそこにはただ1人、レフォルムの総帥であるツェアシュが待ち受けていた。
 地球の明暗を分ける戦いが始まろうとしていた。
 
 本気で最終決戦です。
 レフォルム編最終話で決着を着けます。
 決着は着くんですが、そのあとが……厳しい展開です。何と言うか、正直これでいいのかと思った時期もありました。
 結局何故レフォルムがアキラのいる時代を選んだのかは不明のままです。ヒントらしきものは出てくるんですが……
 
 それでは、See You Agein?

2005/06/18


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