そこはひっそりと静まりかえっていた。
「……不気味だな」
「うん」
レフォルムの本拠地、シュテュッツの内部に侵入してからUMに遭遇しなくなっている。それがかえって不気味であり、アキラ達の不安を煽っていた。
「ねえ、アキラ?」
シュッツが沈黙を破る。
「ん?」
「柳沢先生が言ってたこと、本当なの?」
「何の事だ?」
「とぼけないでよ!出た直後の通信で言ってたでしょ!」
やはり、聞かれていたようだった。あれだけの大声だ。アインの回線に通じるマイクの隣にあるツヴァイの回線用のマイクに届いていないはずがない。
「本当だって言ったらどうするつもりだ」
アキラはあくまで答えを濁らせようとする。
「そ、それは……」
逆にシュッツが答えに詰まってしまった。アキラにしてみれば有り難いとしか言いようがない。
「何にしろ、さっさと戦いを終わらすのが1番だな」
「そ、そうだよね」
うまく言いくるめられてしまったが、それも答えの一つだった。
2人はさらに奥へ向かう。
たどり着いたのは巨大な門だ。押しても引いてもびくともしない。
「開かねーのなら、ブッ壊す!」
アキラが物騒なことを言うが、確かにそれしか方法はない。
「
扉は粉々に砕け散る。その先に広がっていたのは、巨大なドームのような空間だった。
「ここが終着地点か」
アキラは視線の先に何かがあるのに気付く。それが、かつてアキラとシュッツの前に姿を現したことのあるUM、ユピテルだと気付くのにたいした時間は必要なかった。
『我が城にようこそ。フェアタイディゲン』
それは紛れもなくツェアシュの声だった。何の焦りもない、実に落ち着いたものだ。
「少しだけ話をさせて」
「ああ」
シュッツの心情をアキラは察しているつもりだ。アキラに兄弟はいない。そのため正確にシュッツを察することはできないが、身内と対峙するという心の痛みは痛いほど知っている。
「ツェアシュ……いや、ヨハン兄さん!戦いをここで止めることはできないのか?!」
『何故、私のことを兄と呼ぶ?』
「それは、僕があなたの弟だからだ!」
『シュッツェン・フィルフェ、お前があの子だというのか?あの子はあの時代に残して来たはずだ』
「追い掛けて来たんだよ、あんたを止めるためにな」
「そう。僕は兄さんを止めるためにこの時代に来たんだ!」
『そうか……だが、私の決意は変わらない。邪魔をするなら弟といえど容赦はしない!』
シュッツの説得は失敗に終わった。
「なら僕は、力ずくでも、兄さん、あなたを止める!」
アキラは既に臨戦体制に入っていた。
空気がピンと張り詰める。まだ動く時ではないとアキラは逸る自分を諌める。下手に動けばこちらが一方的に被害を被る事態になりかねない。どうやらツェアシュもアキラと同じことを考えているようだ。
しばらく睨み合いが続く。だが、時は唐突に動き出す。
「ぐぅっっ!」
アキラは突然めまいと胸を締め付けるような苦しみに襲われる。
その隙を狙い、ユピテルが仕掛けてくる。
辛うじて回避するが、胸の苦しみは治まらない。
「どうしたの!アキラ!!」
「まだ早い!まだ終わっていないんだ!」
『ほう。アキラといったか。ずいぶんと蝕まれているようだな』
「うる、せぇ……」
アキラの身体を無数のコードやケーブルが絡め取っていく。コクピットの中で身動きが取れなくなるのも時間の問題だ。
それでもナーエは動いた。アキラが思うがままに。そして、ユピテルを撹乱し始める。
『まだ動けるか』
「動いてやるさ。ケリをつけるまではな!」
そうはいうものの、アキラの意識は徐々に闇に沈みつつあった。それと同時に頭の中へ大量のデータが流れ込んでくる。アキラの意識は朦朧となりつつあった。
「アキラ、代わって!あとは僕が!」
今のアキラの耳にはシュッツの声も届かない。ただ聞こえるのはいつか聞いたあの声。
【やっと、お前と一つになれる……】
「どういうことだ……?」
アキラはうわごとの様に呟く。
【待っていたのだ、この時を】
「誰なんだ……?」
【私は
「
朦朧としていたアキラの意識が一気に覚醒する。
「アキラ!」
「シュッツかっ!」
「大丈夫!?」
「ああ、なんとか!」
返事と同時にユピテルの攻撃をいなす。
『ほう、動きが戻ったか』
「あんまりにも驚くことがあったんでね。飛び起きちまったよ」
アキラはこちらから攻撃できないものかと様子を窺っていた。なにせ、前回戦ったときには
「いくぜっ!」
アキラは大技のラッシュを仕掛ける。
しかし、こうしている間にもアキラの意識はヴィレに引きずられている。あまり時間の余裕はない。
『我がユピテル最大の技を見せてやろう。
ユピテルの両手の中に小さな黒い球体が生まれる。それは一気に膨張し、ナーエに向かって飛来する。
「やばい!」
アキラは直感でそれが避けなくてはならないものであることを悟る。回避行動を取るが、間に合わなかった。
2人の悲鳴がコクピットの外まで聞こえてきそうだった。エネルギーの奔流がフェアを駆け抜ける。至るところで回路は焼き切れ、システムのエラーが発生し、窮地に追い込まれる。
「大丈夫か、シュッツ?」
「うん。でも次これやられたら……」
「もたないか」
システムのエラーは深刻だった。ほとんどの武器、武装が使用できなくなっている。
【力を貸そう……】
「えっ?なんの声?」
「聞こえるのか、シュッツ!?」
「うん。力を貸そうって。あっ……」
おそらく、シュッツの頭の中にも大量の情報が流れだしたのだろう。
「キーフレーズ、あるんだろっ?」
【
アキラは一呼吸おいた。そして、
『
2人の声が合わさった。
エネルギーが膨れ上がり、フェア自体が淡い青色の光に包まれる。
「うおぉぉっっ!」
光に包まれたフェアはアキラのおたけびと共にユピテルに突っ込んでいく。ユピテルは何かに捕われた様にその場から動かない。そのまま両者は激突した。
ヴィレを象徴した青い光が辺りを覆う。そして爆発。
光が収束した後、フェアは機能停止に追い込まれ、ユピテルは原形を留めていなかった。
「兄さん……」
シュッツがコクピットから這い出す。ヘルメットにひびの入っている状態で大丈夫なところを見るとこの場所には空気があるようだ。
シュッツはユピテルの周辺を確認する。
『右方向、生体反応あるぞ!』
アキラから指示が出る。その方向にシュッツは向かう。そこには確かに1つの影があった。
「に、兄さん!」
シュッツの見つけた影はツェアシュのものだった。シュッツは急いでその場に駆け付ける。
「まだ、生きているのか?」
「兄さん……」
実に10数年ぶりの兄弟の再会だった。
「くっくっ……私の負けだ。好きにするがいい」
ツェアシュは顔面蒼白で実に声が出しづらそうだ。シュッツはツェアシュの周囲に出来ている血溜まりに気付く。相当の出血量だ。
「死んじゃダメだ!兄さん!!あなたはこの時代で償わなきゃならない!!」
シュッツはバックパックに詰めてあった救急セットでツェアシュに応急手当を施す。
「ちゃんとした医療設備があれば……」
そう、応急手当は所詮急場しのぎにしかならない。本格的な処置をしなくてはツェアシュの助かる見込みは限りなく低い。
『シュッツ。このフロアの隣に小さな脱出艇がある。それを使えば……』
「わかった!」
シュッツは走り出した。脱出艇が動けばまだツェアシュに助かる見込みがある。何とかしたい。その思いがシュッツを急がせる。
扉を見つけた。重く頑丈そうな扉だ。調べていくと電子ロックでしっかりと施錠されていた。
『大丈夫だ。開く』
ピッという微かな電子音のあとに、扉が重そうな音をたて開いていく。扉をくぐるとそこには確かに小型の脱出艇が保管されてあった。シュッツの見立てでは大気圏への突入にも耐えることができそうな作りだ。
早速コクピットに乗り込み、主動力を起動させる。程なくエンジンも温まり、いつでも飛び立てるはずだ。シュッツはゆっくりと脱出艇を動かす。まず、ツェアシュを乗せなくてはならない。
シュッツがユピテルの残骸についた時、ツェアシュは既に気を失っていた。再び止血し、脱出艇に備え付けてあったベットに寝かせ固定する。
あとはアキラだけだ。だが、コクピットから這い出している様子もない。様子を見るためコクピットハッチを無理矢理開いた。
「アキラ……っ!」
思わず絶句した。アキラの身体がコードやケーブルに絡めとられ、しかもそれらがアキラの身体に融合していた。
「見たな?」
だが、見た目と比べアキラは平然としていた。
「オレは帰れない。見ればわかるだろう? 詳しい話は柳沢先生に聞くんだな。だから、行け。オレに気を使うな。兄貴を助けたいんだろ?」
「う、うん」
シュッツは素直に引き下がる。衝撃が説得力に変わったのだろう。
シュッツは脱出艇に乗り込み、操縦管を握った。
『案内してやる』
その声は確かにアキラのものだった。アキラの誘導に従いシュッツは宇宙空間に迷わず出ることができた。
『今から転送する座標通り行けば地球に戻れる。そしたら向こうの誘導に従え』
アキラの最後の誘導だった。
「助けるから。必ず助けに来るから」
『……待っててやるよ』
それがアキラとシュッツの最後の会話だった。
長かったレフォルムとの戦いもこれにて終了です。
相変わらず迫力の足りない戦闘シーンで申し訳ありません。戦闘シーンは書くのが難しい……(汗)しかも今回が最後なのにそれでいいのか、私。
それにしても、一部謎が残っている感がありますね。謎の声の主は判明したわけですが、ツェアシュがこの時代に来た理由や、地球人類を滅ぼそうとした理由もイマイチ伝わっていないかと思います。その理由を次回公開できればと考えてる次第でございます。
それでは最後の次回予告です。
脱出艇に乗ったシュッツは急いで地球への帰還を目指していた。
そこで、ツェアシュから語られる事実。
続けられる研究。
果たしてアキラを救うことができるのだろうか?
と、いうのが最終章の大まかな内容です。
シュッツの親から授かった名前を披露しなくては不自然なシーンもあるので、悩みどころ。正直、シュッツの名前知りたいですか?
最後は結構すごいことになってます。
それでは、See You Agein?